今年2月、イベントの「組閣祭り」で、SKE48チームSからAKB48チーム4へ移籍することが発表されました。その瞬間は、「えっ、私?」と驚きました。まわりのメンバーたちも「えっ? ゆりあが?」という雰囲気でした。
SKE48に入って5年目。雑誌のインタビューでも、スタッフさんにも「私がSKE48を背負っていきます!」と言い続けていましたが、「私は背負う人じゃなかったんだ」とショックを受けました。一方で、「AKB48には求められているのかな」と、二つの気持ちが交錯しました。「断る」という選択肢もありましたが、それは選べませんでした。会社員の人たちが、そこに行けと言われたら行くように、私も言われた以上、そこでがんばるしかない。そう思いました。
SKE48の木ゆりあが好きと感じて下さるファンの方には申し訳ない思いでしたが、AKB48の木ゆりあを応援したいと思って下さる日が来るようにがんばろうと決めました。
SKE48のメンバーは「寂しい」と言いつつも応援してくれました。須田亜香里ちゃんは同じ3期生で、AKBグループの中で一番信頼している存在です。たくさんのことを相談したし、逆に相談にも乗りました。AKB48に行く私には、「自信をもっていいんだよ。SKE48で今までにしてきたことをAKB48でもぶつけてきて!」。先輩の中西優香さんは「ゆりあのためになるよ。新たな経験を積むチャンスと思ってがんばって」と励ましてくれました。
後輩の都筑里佳は「ゆりあちゃんがSKE48の新しい時代をつくってくれると思ったのに……」と残念そうでした。移籍発表の日は、宿泊先で同じ部屋になりましたが、私は気が抜けてしまったような状態でした。里佳はいつもはよくしゃべるのに、その日は静かに布団をかぶって寝ていました。実は泣いていたのだそうです。かわいい後輩だな、と思いました。
春に名古屋から東京へ引っ越しました。実は早く親元を離れて、自立したいという気持ちがありました。3月に高校を卒業し、芸能界で働くのに、いつまでも父母に甘えていてはいけない。何事も人に迷惑をかけることなく、自分でできるようになりたいと思っています。とはいえ、まだ自炊もできていませんけど。
新しいチームに入ってみると、何も知らない転校生の気持ちがわかりました。SKE48では後輩のことも知り尽くしていますが、チーム4のメンバーのことはほとんど知識がありません。メンバーたちから「木さん」と呼ばたときは壁を感じました。SKE48では先輩からは「ゆりあ」、後輩には「ゆりあたん」「ゆりあちゃん」と呼ばれていましたから。
私はチーム4では副キャプテン。「何ができるかな」と毎日考えていました。メンバーの岡田奈々ちゃんと2人でご飯を食べた時に、「どうすれば仲良くなれるかな」と相談していて、思い浮かんだのが「さん」づけ禁止です。奈々ちゃんも賛成してくれて、西野美姫ちゃんも、すぐに「ゆりあちゃん」と読んでくれるようになりました。最初はみんな戸惑ったかもしれませんが、今ではみんなが、ゆりあちゃんと呼んでくれるようになり、距離も縮まりました。
移籍後、4月に放送開始の学園ドラマ「GTO」に出演することになりました。生徒の百合原さつき役でした。自分の中ではすごく大きな挑戦でした。同世代の俳優さんたちに刺激を受けました。みんなで台本を読みながら、それぞれの場面での演技や感情の表現について、話し合うのは、楽しかったです。
同じクラスの同級生を演じるのも、「はい、どうぞ」と言われて、すぐにできるものではありません。仲の良い同級生役の女の子とは、普段から仲良くするようにしました。
授業の場面では、たとえセリフがなくても、みんなは、ただ座っているだけでなく、その中でどのような表情や動作をするか考えていたし、私は出番のない時は、収録中の演技を観察しました。
さつきは恋愛のことで頭がいっぱいの女の子。第三話はメーンの役でした。さつきは徳山宏尚(堀井新太)という男子生徒を、最初は「お財布代わり」に扱っていたけど、2人の関係は少しずつ変化して――という流れでした。
監督さんは「おまえならどうする」と、演じる役について、一人一人に考えさせていました。私は徳山くんと絡む場面で、どうすれば上手に表現できるのか悩みましたが、監督は「2人で考えろ」と言いました。2人で出した答えを伝えると、監督は「おまえらはそのくらいなのか」。私たちは「まだまだだな~」と、2人で何度も話し合いました。
ところが、本番で「何で別れるんだよ!」と実際に殺されてしまいそうな表情で迫られると怖くて泣いちゃって……。徳山くんは「泣かせるなよ~」と言われていましたが、その後で、さつきが徳山くんの顔を本気でビンタすると、今度は徳山くんが泣きました。それでお互い様。全力で演じるっていい。そうして役をつかんでいきました。
少女を狙う犯罪者のグループにさらわれた場面では、オリに閉じ込められて、本当に監禁されているようなつらい気持ちになりました。体当たりの演技でしたが、やりきれたし、悔いはありません。第三話が終わった時は、監督さんが「よくがんばった」と握手してくれました。
演技をほめられるとうれしいし、演じている時はいちばん楽しい。それでも自分の演技が良いのか悪いのか自分ではわからないし、後で映像を見て、表情が良くないな、もっとゆっくり話せばよかったな……と反省ばかりしています。だけど、悩んで落ち込むのも成長につながると自分を納得させています。
涙だったり、笑いだったり、人々に色々な感情を届ける女優の仕事はすてきです。西田敏行さんのようなマフィアからおもしろいおじさんまで演じられて、アドリブができる俳優さんに憧れています。その域に達するのは大変ですが、一つ一つのチャンスを大切にしていきたいです。