中国上海のSNH48への移籍が決まったのは一昨年の夏。その後、日中関係の影響で芸能活動をするためのビザが発給されないという予期せぬ事態が起きました。それまでは、「中国語を覚えられるのかな」「向こうで生活できるかな」「ホームシックにならないかな」と心配していましたが、政治の問題では、私もまわりのスタッフもどうしようもありませんでした。

SNH48は、ゼロからのスタート。舞台に立てなくても、先輩として、SNH48のメンバーに、活動をする上での基礎である、あいさつや礼儀を教え、叱ることもありました。お互いの気持ちは通じているのだろうか。通訳さんを介しての会話にはもどかしさもありました。
上海にいる時はもちろん、日本に帰国している時もSNH48のメンバーはどうしているんだろう、どんなグループになるんだろう……。心配ばかりしていました。SNH48に入った以上、AKB48での経験をいかし、自分ができることを全部やるまでは日本に戻れないという責任を感じていました。
ところが、後日、私自身の間違いに気づきました。仕事で台湾に渡った時のこと。一緒にテレビ番組に出演した地元のプロ野球監督に、中国の人とのコミュニケーションの方法についてたずねると、「人前でストレートに怒ってはダメだよ」と教えられました。中国の人は自尊心が強いので、人前で叱るようなことをしてはいけなかったのです。基礎について怒っていた私の基礎ができていなかったと反省しました。
自分が変わらなければと思いましたが、その頃は、メンバーも自信を持ち始めていました。昨年の夏、SNH48にダンスの指導から演出までを担う先生が入りました。女性で年齢は20代後半くらい。海外留学でエンターテインメントを学び、中国に帰国後、SNH48に迎え入れられました。メンバーの振りや立ち位置についてきめ細かく指導し、厳しくするべきときは厳しくしていました。SNH48への愛が感じられ、メンバーも慕っていました。

あるとき、「私は先生と出会って、本当に良かった。安心できました」と伝えると、先生は泣きながら「SNH48のことは私にまかせてください」と言いました。そして、「日本での仕事をしっかり頑張って。中国にいるときはSNH48のことを考えて」と。私がSNH48でしてきたことを理解し、その後の活動にも気を遣って下さったのです。「あなたを尊敬しています」。私がそう言うと、先生も「私もあなたを尊敬しています」。二人で抱き合いました。
ハートがあれば国境は関係なく越えられる。恋愛以外にも運命の出会いはあるんだ、と感じました。私がAKB48の曲の振りをすると、先生はその姿をムービーで撮って、覚えてメンバーらに教えていました。こんな私のパフォーマンスを参考にしてくれるなんて。エンターテインメントを学び尽くした先生に認められたのは、自信につながりました。先生が来てくれて良かった。自分がなんとかしなくちゃ、と気負い過ぎることはなくなりました。
昨年10月、初めてSNH48の舞台に立つことができました。パフォーマンスしながら、SNH48での月日が頭の中を駆け巡りました。秋元康先生やスタッフさんに「SNH48やってみないか」と言われた時、挑戦を決意した時の気持ちははっきり覚えていました。
そんなことを思い出しながら、公演の最後に私が所属していたAKB48チームKの曲「支え」(中国語版)を歌うと、涙があふれてきました。AKB48にいたときの自分を思い出したせいもあるけど、ステージのメンバーたちが、日本から来た私と鈴木まりやが、初めて一緒の舞台に立てたことに涙を流して喜んでくれたからです。みんなが仲間で、ここは自分の居場所なんだと感じました。
父母も見に来てくれていて、終演後、私は父の胸で泣きました。それまで私は、どちらかと言えば、母と仲が良かったのですが、SNH48に行くと決まった頃から、厳しかった父が急に変わりました。20歳を超えたばかりで、中国に行くと自分の意志で決めてから、私を認めてくれるようになりました。私も大人になったのかな、と思います。
SNH48では最初の1年間、色々なことを感じました。AKB48では6年間、休みなく突っ走って来たので、スコーンと穴が開いた気持ちになりました。「明日も休みです」とスケジュールが来たときは不安になりました。その分、ほんの短い時間の撮影やインタビューの仕事も大切だと改めて感じられる機会になりました。
自分が活動できない間は、メンバーのブログやSNSを見ることができませんでした。メンバーが何をしているかは気になっていたけど、「うらやましいな」と思ってしまいそうで、距離を置いた時期もあります。

一方で、AKB48については、客観的に見ることができたので、日々、感じたことを仲のいいメンバーに伝えていました。
今年2月にSKE48との兼任になりました。発表された時、実は不安でした。でも、不安を表には出してはダメだ、と余裕のあるふりをしながら、頑張りました。
メンバーとは早い段階で仲良くなれました。なんて声をかけられたらうれしいか、どんな行動をされると喜ばれるか、相手の立場で考えたことが良かったと思っています。

SKE48はがむしゃらなグループ。ファンの方には、自分がこの2年間、思うように発揮できなかったパフォーマンスへの情熱を見せたいと思っています。SKE48でもSNH48でも自分が目立ちたい、センターになりたい、ではなくて、後輩たちが伸びるよう、役立ちたいです。
そう言えば、SNH48にも期待する後輩がいます。たとえば、出会った時から、「佐江さん大好き」と言ってくれるマオマオ。最初のお披露目では選抜の16人に入れませんでしたが、努力を積み上げて、選抜総選挙では上位に入りました。私がランクインできなかったことにも泣いてくれました。愛情を感じるし、私もマオマオのことを考えると涙がこぼれるくらいです。
以前は完璧な自分を目指していましたが、今は恥ずかしい部分もひっくるめて、人間味のある宮澤佐江を見せていきたいです。
たくさんの人に愛をいただいたSNH48での2年間。今度は、メンバーやスタッフ、ファンの方に、お返しに愛を伝えていきたいです。

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次週は「乃木坂46 日々是勉強」秋元真夏さんです。