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daiozen (大王膳)

強くあらねばなりませぬ… 護るためにはどうしても!

オツベルと象(2)

2014年09月14日 | 宮沢賢治-鑑賞
高価な琥珀のパイプをくわえてオツベルが工場を見回っている。

大勢の百姓を巧くつかって稼ぎまくっている頭のオツベルです。

百姓たちは一日中、真っ赤な顔をして稲こき機を踏んでいます。

オツベルに睨まれたら百姓たちは恐ろしくて縮こまってしまう。

おかげで小山のように積まれた稲束も、ドンドン扱けるのです。



そんな稲こき工場も、初めての人には珍しく見えるに違いない。

あなただって、あなたの子だって、キッと気になるに違いない。

パチパチ弾けて、片側にはモミの山、もう片側には稲わらの山。

その不思議なモノを見つけて私も幼いとき、見とれていたもの。

周りに敷いたムシロの上にも弾けたモミがぱらぱら飛んでくる。



林の中から現れた白い象も私と同じ気持ちで寄ってきたのです。

この白い象をあなたに置きかえて読んでみたら、解るでしょう。

あなたのお子さんに置き換えてみられても、よく解るでしょう。

作業しているオジサンやオバサンが笑いながら声をかけてくる。

オモシロイかい? 人の好い笑顔を浮べて楽しそうに言います。



「ウン!」うわの空で返事しながら、稲こき機を見詰めてた私。

象の気持ちも、あなたの気持ちも、みんなの気持ちも同じです。

「お譲ちゃん、あんまり近づいたらパチパチ弾けて、痛いよ!」

それでも気にしないで覗き込む私・あなた・あなたのお嬢さん。

「どこから来たの? とっても色白の、可愛い顔してる子だね」



そんな会話をしてもらって、飴玉か、牡丹餅をもらったりする。

オツベルはやさしくて、かわいい飾りをくれたりするんだよね。

草を編んだネックレスを作って首にかけてくれたり、やさしい。

おそるおそるだったお譲ちゃんも、次第に大胆になるものです。

工場の中まで入っていったり、まるで我が家のように歩いてる。



広い工場を歩きまわってたらお腹も空いてきてご飯も食べるよ。

暗くなって出口が見つからなくなって、帰り道も分らないけど、

オツベルおじちゃんはやさしいし、泊ることになるのだろうな、

白い象はキッと、そんな楽しい嬉しい気持ちで過したんだろう、

気がついたときにはもう、白い象は帰るに帰れなくなっていた。



女の子と違って白い象は力が強いから、食事を減らしたんだよ。

これが大人の女性の場合も逃げられないよう、食事を抜くかも、

酒吞童子に連れてこられた女性も似たようなものかも知れない、

炊事・洗濯・掃除など、一日中・働かせて、逃げられなくする。

恐怖と疲労と飢え、逃げる道順を知らなければ逃げようがない。



白い象の皮も脚も牙も何もかも高くで売る算段をしていたんだ。

象牙みたいに美しい歯並び、色白の乙女も高価な値がつくんだ。

そういえば、安寿と厨子王を買った人に、山椒大夫がいました。

今の日本に人さらいはいないとお思いの方はいるのでしょうか、

形を変えた人さらいはネットにも大勢ひそんでいると言われる。



騙して連込んだ女性を撮って恥める現代日本の人さらいたちね。

ずいぶん頑丈な檻に入れられたら…もう自由に歩きまわれない。

そうなるともう、象も女性も、オツベルの財産になってしまう、

オツベルのお金を稼ぐためには何でもしなきゃ、ならないんだ、

財産だからね、象も女性にも、人権なんて有ったものじゃない。



オツベルから逃げよう…なんて、白象はちっとも考えなかった。

そりゃ、力を失くした弱い白い象だもの、非力な女性だものね。

逃げようとして見つかったら、どんなに酷い目に遭わされるか、

死ぬ目に遭わされるか、ほんとに殺されてしまうかも知れない。

後は死ぬのを待って、生きることを諦めて泣いてた白い象なの。



自分の力だけでは絶対絶命の地獄からは逃げ出せない場所です。

「苦しいです」ってだけで折檻される白い象・被害者なんです。

サンタマリアが助けてくれるなんて事、ホントにあるだろうか?

宮澤賢治は白い象・被害者を助けてあげたくて、懸命に考えた、

「同じ人間として何とかしなきゃ!」って賢治は思ったのです、



その宮澤賢治に「十一日の月」が手紙を書きなさいと教えます。

「仲間へ手紙を書いたらいいや」と、月がわらって言いました。

そうなんだ、オツベルのあんまりな仕打ちを書いたら良いんだ。

白い象はオツベルに騙されて酷い目に遭ってるって書けば良い。

仲間なら、人間の仲間ならキッと、知らないふりはしない筈さ。



「オツベルときたら大したもんだ」と、誉めてた人も気づく筈、

オツベルの本性を知って、それじゃいけないって気づく筈だよ。

白い象は白い象じゃない、白無垢の純真なあなたの子どもだよ。

その子どもたちが互いに憎み合って傷つけ合って良いだろうか?

よその女の子をかどわかして酷い目に遭わせても良いだろうか?



あなたの大切な子が「しくしくしくしく泣いて」ても構わない?

自分だけは上手く立ち回れる、上手に生き残れると計算してる?

「どうして俺がこんな目に遭わなければならないんだあ」かも?

オツベルを見つける度に捕まえて、仕返しをして済ませますか?

オツベルを血祭りに上げて、皆でワイワイ騒いで済ませますか?.



だけどやっぱり、私にはオツベルを責める気になれません。

それはそうです…次のオツベル役はあなたかも知れませんから。

それゆえに、オツベルを捕えて血祭りに上げる気になりません。

だってそうでしょう!? 「オツベルは大したもんだ」でしょう?

「オツベルはやっぱりえらい」って賛同する人も多いでしょう?

オツベルはやっぱり、私の、あなたの、仲間に違いありません。



白い象の仲間たちは報復に立ち上ったけれど、それは仕方ない。

あれは仲間を救い出すための已むに已まれぬ仕業と考えようよ。

仲間を救い出すために、急いでいたし、ああする必要があった。

象たちは高い塀を乗越えるのに懸命で、オツベルは不運だった。

即ち、賢治は仲間想いの象たちに復讐をさせたくなかったんだ。



白い象にも色白の可愛い女の子にも罪などある訳はない。

罪はないけど、白い象にも色白の美人にも惹きつける物がある。

惹きつける物があると知れば、謙虚に暮すのが智恵と言えそう。

大金を見せびらかせて歩けば、災いを呼び寄せるものでしょう。

もちろん、それで悪さをする者の罪が消える物ではないけれど。



オツベルは元もと悪いのじゃなく…いつの間にか悪くなってた。

いつの間にか…純真な子も、いつの間にか染まってしまいます。

オツベルにも自由で純真な童子の心は備わっていたに違いない。

自由で純真な童子の心も、悪い空気に染まって捻じれてしまう。

自由で純真な童子の心には、宮澤賢治の心をいつも持たせたい。



白い象はサンタマリアに教えられて、深い愛を知った筈だよね。

仲間を支えるために、白い象の手紙を携えて童子は歩いたんだ。

人は大人になって変るのでなく、童子の時から歩き始めるんだ。

仲間を大切に思う心をじっくり育てるうち、童子は人間に育つ。

童子の時から人を護ることを覚えなければ…手遅れにしないで。


そして思うこと…

人への憎しみと、人を愛することの両立は出来るのでしょうか?

人は、憎しみに偏るか、愛で胸をいっぱいに膨らませるかだよ。

自分の子どもを幸せにしたければ、憎しみを植えてはならない。

どんなに苦しくても悲しくても辛くても、愛して愛し続けたい。

憎しみと愛の両方を胸に収めきれる人間なんて、絶対にいない。



最後に、

オツベルに悪心を起させてしまって、白い象も反省しきりです。

仲間のみんなに心配かけてしまって、すこし大人になれたかも。

だけど、子どもってそんなモノだし、ヤンチャ坊主ですものね。

気がつくたんび、子どもに愛の手紙を持たせてあげなきゃね…、

だから、 川に入っちゃいけないったら。


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