le temps et l'espace

「時間と空間」の意。私に訪れてくれた時間と空間のひとつひとつを大切に、心に正直に徒然と残していきたいなと思います。

これからの「正義」の話をしよう-いまを生き延びるための哲学

2010年09月23日 | BOOK

●これからの「正義」の話をしよう-いまを生き延びるための哲学 
 マイケル・サンデル 著

話題本にはあまり手が伸びませんが、この本は新聞で紹介された記事を読んですぐに読みたい!と思いました。

グローバル社会はますます成熟し、それに伴い様々な価値観が生まれ、それが肯定も否定もされない「自由」な社会。国をまとめる政治も、人を育てる教育も、娯楽も、すべてにおいて価値観の拡散いや飛散は目に余るものがあります。「多様な価値観を認め、共生する」というのは、その礎となる「確固たる何か」があってこそ成立すると思っています。様々なデザインの家が立ち並ぶことができるのもきちんと作った「基礎」があるからです。ただ、その「確固たる何か」をどう定めれば良いのか、それがずっと分からずにいました。もちろん、自分自身に関することはどんなことがあっても倒れない「柱」が、すでに私の中にあります。でも、社会の一員として、人とのかかわりにおいて、これから生きていくにあたって、これと感じる礎が見当たりません。

そんな中でのこの本との出合い。

この本は10章にわかれています。「正義」に対する考え方を紹介し、その事例を挙げながらその考え方を検証、考察していくという構成です。その事例にはこの本が取り上げられるときによく出てくる、「1人を殺せば5人が助かる状況があったとしたら、あなたはその1人を殺すべきか?」や「金持ちに高い税金を課し、貧しい人びとに再分配することは公正なことか?」などが含まれます。他にも代理出産や同姓婚なども取り上げられており、是非を問われると「う~ん」と考え込んでしまう事柄ばかりです。
章のタイトルとしては「市場と倫理」や「平等をめぐる議論」がありますが、著者は正義にたいして3つの考え方を探っています。

1.功利主義
正義は功利性や福利を最大限にすることを意味する。つまり、最大多数の最大幸福を正義とする考え方。
だから、先の「1人を殺せば・・」の問いには、Yesである。5人が助かって最大多数の最大幸福が実現できるからだ。

2.自由至上主義
正義は選択の自由の尊重を意味する。自由市場で人々が行なう現実の選択や、平等な原初状態において人々が行なうはずの仮説的選択も尊重するという考え方。(後者は例えば拷問状態においてAという選択をしたものの、通常の状態であればBを選択しただろうということ)

3.正義は美徳を涵養することと共通善について判断すること

著者が支持しているのは3.です。合わせて1、の欠点は正義と権利を原理ではなく計算の対象としていること、1.と2.の欠点として、人間のあらゆる善をたったひとつの統一した価値基準に当てはめ、平らにならして、個々の質的な違いを考慮しない点をあげています。

著者は公正な社会は、ただ効用を最大化したり選択の自由を保証したりするだけでは達成できない。善良な生活の意味をわれわれがともに考え、避けられない不一致を受け入れられる公共の文化を作り出すべきだと説きます。そのような道徳的不一致に対する公的な関与が活発になれば相互的尊敬の基盤は強まるはずだと述べます。
われわれは同胞が持ち込む道徳的・宗教的信念を避けるのではなく、もっと直接的にそれらに注意を向けるべきだと述べて、この本をしめくくっています。

著者によると、私が描く「礎」とは「不一致を受け入れられる文化」であるようです。公共の文化を作り出すためには、まずは各々が自分の中にその文化を涵養させていく姿勢を持たなければならないでしょう。