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走行性能曲線

2010-06-17 | なんちゃって自動車工学
※カテゴリ新設のため移動しました※

カタログより
Z32のカタログには、エンジンの性能曲線や車両の走行性能曲線が載っています。こういうのを眺めるのは楽しいのですが、最近のクルマのカタログにはめっきり載ってなくて寂しい限りです。

走行性能曲線というのは横軸に車速、縦軸に駆動力と走行抵抗、回転数を取ったグラフです。駆動力は各ギヤごとに、走行抵抗の曲線は勾配ごとにグラフが引かれています。走行抵抗というのは(空気抵抗・転がり抵抗・加速抵抗・登坂抵抗)の四つをあわせたものです。ご存知のとおり速度が大きくなるほど空気抵抗が大きくなり、高速域では走行抵抗のほとんどが空気抵抗となります。

この走行性能曲線から
・最高速
・最大加速度
・登坂能力
・最適なギヤの選択
などなどがわかります。

ただ、カタログに乗っているのはいわゆる大人の事情(?)で180km/hまでで切ってあるため最高速がわかりません。ということでその先を含めたものを作ってみました。じゃーん、それがこれです。



ますはエンジンの性能曲線からトルクカーブをGraphcelというソフトで読み取ってデータ化し、減速比やタイヤ径などから後輪駆動力を計算しています。一方走行抵抗はカタログのものを読み取って、近似的にExcelさんに外挿してもらう方法で描きました。


グラフの読みかた
基本的な読み方は、速度を基準にしてそのときのギヤに対応する曲線に注目します。右図は3速100km/hで平坦路を走っている場合の読み方の例です。水色の直線は車速とエンジン回転数の対応を示していますので、ここからエンジンの回転数がわかります。また紺色と緑色の曲線はそれぞれ駆動力と走行抵抗を示しています。ここからそのときの駆動力、走行抵抗がわかります。
駆動力と走行抵抗の差を余裕駆動力といいます。この余裕駆動力がある場合、クルマはさらに加速することが出来ることを意味します。

さすがにZ32の登坂能力には皆さんあまり興味ないと思いますので(笑)、最高速と加速度、シフトチェンジに関して考えてみたいと思います。

まずは最高速
先ほど余裕駆動力があると加速できると書きましたが、逆にこれがゼロになるとそれ以上加速できなくなります。これがそのクルマの最高速度です。ですから、勾配0%の走行抵抗と、5速の駆動力曲線が交わる点をグラフから読み取ればOKです。

で、交わる点は…あれ?、260km/h?!
グラフを信じると5速レブリミットまで加速できる、つまり260km/hまで出ちゃうことになります。ほんと?
実際はTTでもそのくらいで、NAだと220km/hくらいとどこかで読んだような…。
いきなりグラフの信憑性が無くなりましたねwww
駆動力の計算はミッションとファイナルの効率をそれぞれ98%、95%としたんですが、実際はもっと損失があるのかもです。でも180km/h以下の5速と10%の重なり具合を見るとカタログとけっこう合っているような気がするんだけどな…。走行抵抗の外挿に問題があるのかも…うーん…ま、まあ最高速の読み取り方の一例いうことで…^^;


余裕駆動力と最高速
続いて最大加速度
き、気を取り直して、加速度も見てみます。
物体の加速度はいわゆるニュートンの第二法則(F=ma)から、a=(F/m)となります。aが加速度、Fは力、mは質量です。

クルマの場合、この力Fはエンジンのトルクをミッションとファイナルで減速して、タイヤの接地面に発生する駆動力のことです。ただし、先ほど出てきた余裕駆動力(駆動力-走行抵抗)をあてはめます。
また、mは質量で、これは車重+人間+回転部分相当質量となります。
回転部分相当質量とは何ぞや?って感じですが、これは加速時には回転部分(フライホイールやミッション内部のギヤ、プロペラシャフトなどなど)の慣性モーメント(回転のしにくさ)が問題になるわけですが、まあ測るの大変だから、ちょっと重量うわのせして計算しときましょう!というものです(というと語弊があるかもしれないけど、そんな感じのものです)。ホイールやペラシャなどを軽量化して加速が良くなるのは、車重だけでなくこれが小さくなる効果があるよということです。

というわけで、最大加速度は1速の駆動力ピークから、その速度での走行抵抗を引いたものを(車重+人間+ちょっと)で割れば加速度が算出できるわけです。
グラフをみると1速のピークが約1060kgf、このときの走行抵抗が20kgfくらいです。(車重+人間+ちょっと)の重量をおおざっぱに1500kgで割るとだいたい0.7Gとなります。ただし駆動力の曲線はとがった山形ですのでこれを出せるのは一瞬です。4000rpmくらいからトルクの山が来ますが、この時の駆動力がおよそ950kgfくらいですので上手な人がスタートさせれば0.6Gくらいの加速度を出せる駆動力を維持できるはずです。

ただしここで忘れてはいけないのが、クルマの加速度はタイヤと路面の摩擦に制限されるという点です(市販のタイヤ、ドライ路面でおよそμ=1.0くらいだと思います)。摩擦力は摩擦係数×荷重ですので、いくら摩擦係数が高くても駆動力に見合う荷重が掛かっていなければホイールスピンを起こしてしまいます。

いま、1500kgのクルマを0.6Gで加速させるためにはμ=1.0として
(1500×0.6)/1.0=900(kg)
の荷重が必要ですが、これに対しもともとの後輪荷重が700kgほどです。
これだけみると完全に無理そうですが、加速時は荷重移動により後輪荷重が増えますので重量配分のままではありません。0.6G加速時の荷重移動量は重心高を500mm、ホイールベース2450mmとすると、およそ
1500(kg)×0.6(G)×(500/2450)=約180(kg)
となります。うーん、必要荷重の900kgにはこの180kgの荷重移動をプラスしてもかなりきわどい値。実際にはサスの浮き/沈み込みなどでもう少し荷重移動するかもしれませんが、それでも絶妙なクラッチミートとアクセルコントロールで加速度を立ち上げた場合になんとか最大で0.6Gに近い値が出せるかどうか?というくらいかなと思います。

一方TTだとトルクが大きいため1速の最大駆動力が1400kgfを超えており、それだけ見ると約0.9Gを発生させ得るほどの駆動力になります(冒頭の図参照)。しかし当然先ほどと同じようにタイヤに制限されますのでそのまま大きな加速度を出せるとはなりません。純正ではNAもTTも同じタイヤサイズですので、多少重量は違ってもタイヤの条件は似たようなものです。NAでも簡単にホイールスピンを起こすのに、ツインターボも同じ太さのタイヤというのはさすがに無理がある気がしますね(^^;)もちろんこれは最大加速度に限った話で、ひとたび走り出せばTTとNAの加速は比べ物になりません。

参考までに、手元にある本を見るとスカイラインGTR(おそらくBNR32)のノーマルでの最大加速度が約0.7G、プリメーラ(おそらくP10,2000ccモデル)で約0.5Gとの記述があります。
ところで、加速度の「G」の表記ですが、これは重力加速度(9.81m/s2)を基準にした表記です。「F1マシンは最大加速Gが○Gで最大減速Gが○G…」なんて表記をよく見かけますよね。
本来、加速度の単位はSIではm/s2で、F=maの単位はそれぞれF(N)=m(kg)×a(m/s2)となるわけですが、駆動力をkgのまま計算することで加速度は重力加速度gで割った値となり、これがいわゆる○Gという値になってます。1Gの加速というのは、ものが「落ちる」のとおなじ加速度ですから、かなり強烈です。


駆動力曲線と双曲線
最適シフトタイミング?
各ギヤの駆動力曲線の包絡線が双曲線に近づくほど、スムースな加速ができるといわれています。というか、これを双曲線に近づけるためというのが変速機を装備する理由なのです(エンジン+駆動系のトータルの出力=仕事率を一定に近づける)。

ギヤの選択に関してはとてもシンプルで、最大の加速度を得るにはその速度で最も余裕駆動力が大きいギヤを選ぶのが理にかなっています。
Z32の場合はどのギヤでも同じ速度では低いギヤの方が駆動力が大きい、つまりレブリミットまで引っ張っても次のギヤの曲線と交わりません。こういったクルマの場合はリミットまで引っ張るのが正解となります。たまーに「最大トルク発生回転数以上回しても意味ない」みたいな記述を見かけることがありますが、それは間違いです。
例外、というかこれ以外の例として、こちらのサイトで説明されているようにバイクなどの高回転型エンジン+クロスなミッションの場合で、高速域ではトルクが下がってきて各ギヤの駆動力曲線が交わる場合はリミット前でシフトアップした方が効率的と言う場合もあります。

たとえば2速→3速を見ると、2速レブリミットあたり(100km/h付近)で3速の曲線はトルクバンドに入ります。つまり2速をきっちり引っ張らないと3速に入れたときにトルクの盛り上がる回転数以下に落ちてしまい、加速が鈍ることになります。
一方3速→4速などはギヤ比が近く、比較的許容範囲(?)が広いため加速のつながりはスムースです。
もうすこしレブリミットを引き上げられれば、もっとスムースな加速が出来そうですが…。
このように1速→2速、2速→3速などはギヤ比が比較的開いており駆動力の落差が大きめですので1~3速のクロスミッションがあるというのも納得できます(もっとも、これはとても一般的な変速比のミッションだと思います)。



…と、こんな感じで走行性能曲線について自分なりに書いてみました。せっかくグラフをつくったので記事にしようと軽い気持ちで書き始めたのですが、思いがけず内容がぐだぐだと長くなってしまいました。ちょっと怪しい説明になっているところもあるので、話半分で読んでくださいね^^; 最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。
たぶん、Z32(しかもNA)を例にとって走行性能曲線の説明している変なサイトはここだけだと思います(笑)

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4 Comments

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Unknown (Madhatter)
2010-06-17 12:02:03
読み応えありました(笑)

うーん…走行抵抗5%の曲線が
カタログ:220km/h,2000rpm
HRDさん作:280km/h.1800rpm
…なんかちょっと走行抵抗低くなってますねw
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Unknown (HRD)
2010-06-18 00:20:29
長文を読んでくださってありがとうございます^^
えっとですね、走行抵抗というのはエンジンの回転数には関係なくって、左の縦軸を読みます。
ですから5%勾配の場合、220km/hでは220kgfくらいで、280km/hでは300kgfくらいとなります。

駆動力曲線(紺色)と走行抵抗(緑色)は左の縦軸、走行曲線(と言う名前ですが水色の直線)は右の縦軸に対応しています。1速のあたりが重なって見づらいかなと思って縦軸の目盛りをカタログとはずらしているですが、もともと左右の目盛りの関係に特に意味は無いんです^^
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Unknown (Madhatter)
2010-06-18 00:45:54
すいません…理解し切れてなかったようです…解説ありがとうございます。

1つのグラフに色々入っててちょっとややこしい気もしますね、自分が苦手なだけかも知れないですけど…(笑)

ネット上にある最高速計算プログラムを使っても最高速は260km/h程度になりますねー

現実はキビシイ(笑)
返信する
Unknown (HRD)
2010-06-18 01:28:16
計算があっていたとしても、最高速付近では余裕駆動力がとても小さく、それによって生み出される加速度もものすごーく小さいですから加速にとても時間が掛かります。
また駆動力に関しても、気温などのちょっとした変化で出力が変化してしまえば変化しますので、現実には計算よりも低い値になっているんではないかな?と想像しています。
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