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小さき花-第6章~6

2022-09-18 19:23:36 | 小さき花

 聖書の中に「マリア・マグダレナは常にイエズス様のお墓の傍を離れず、中を見るためにしばしば身を屈めていたところが、ついに2位の天使を見ることが出来た」という事が記されてあります。それで私も彼女の如く絶えず身を屈めながら降り口を覗いておりますと、天使を見ませんでしたが、幸いにも捜していた降り口を見出しました、そこで私はついておいでなさい、通ることが出来ます」と喜び叫びつつ、姉と共に急ぎ走って崩れた後をよじ下がってゆくと、遠方に居られた父はこの大胆な行動を不思議に思われてか、私等を呼ばれましたが、何にも聞こえませんでした。
 私等は軍人が危険の真っ最中に勇気が増すのを感じるように、私の喜びも目的を達する為に冒す危険と疲れが、増せば増すほどなお喜びも増えてきました。
 セリナは私よりも注意深い気質でありましたから先に案内者が「コロッセオの十字形の石がある。その医師は昔殉教者等が猛獣と闘ったところに据えられてある」と言った言葉を聞いておりましたので、しきりにその石の所在を探しておりましたがようやく見つけました。そこで二人はうやうやしくその前に跪き、ともに祈禱を捧げました。私はこの最初の信者等の血によって紅く染められてある土に接吻した時に強い感じが起こりましたので、その時イエズス様の為に殉教する恩寵を願いました。そして心の中ではこの祈禱が必ず聴き入れてくださるという事を感じました。
 しばらくして後記念の為にその側の小石を拾い取り、崩れやすい危険な元の道を辿って外に出ました。父は私等が非常に喜んでいるので少しも咎めぬばかりでなく、却ってその勇気を見て笑顔を湛えておられました。
 このコロッセオを見物してから後、カタコンブ(ローマ郊外の地中の墓穴であって、最初の公教信者が迫害の時に祭式を行い、死者を葬ったところ)に参りました。そこにはセリナとテレジアの両人は一緒に聖セシリア童貞の古い墳墓のなかに平伏し、聖女の遺物によって祝聖せられたこの墓の土を少し取りました。
 私は今までこの聖女に対して特別の信心は有りませんでしたが、その葬られている所や、殉教せられたところを見、また彼女が音楽の皇后……天配なるイエズス様を特に深く愛し、絶えず主に向かって謳うていた愛の歌のためにこう呼ばれるようになられた……と名付けられたのを聞きましたので、ただ信心を起こすばかりでなく、友情を親密に感じるようになりました。そしてその時から特にこの聖女を愛するようになり、何事も私の心を打ち明けるようになりました、この聖女の行為について特に気に入りましたのは、天主様の摂理に委ねる事、何事もあくまで天主様に深く寄りすがる事、もって現世の喜び楽しみのみ探していた哀れな霊魂等までも清浄の美徳を守らせるために力を得ていたという事であります。この聖女はその一生涯中、もっとも酷い難儀苦痛に遭われた時でも、なおその調子良き愛の歌を謳うておりました、私はこれを不思議と思いません、彼女はいつも聖書を胸に当てておりました、しかし心の中では童貞達の天配たるイエズス様がおられたからであります。
 私は又幼い時から特別に愛していた聖女アグネスの天主堂に参りまして大いなる愉快を得ました。その時私は第二の母となっていたイエズスのアグネス童貞の為に、何か遺物を持ち帰ろうと思って、そこの番人にその事を願いましたが、何物をも与えてくれませんでした。しかし人間に断られましたが、天主様が味方してくださったと見えまして、聖女アグネスが殉教せられた時代に出来たごく古いモザイクものの小さい赤い蝋石が突然私のもとに転げ落ちてきました。ああ何と嬉しいことではありませんか?聖女アグネスは御自身直接私にその遺物を与えてくださったのであります。



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