ICT総研

The Research & Investment Company. ICT市場の調査分析・投資 by ICT総研

決断力

2007年12月26日 | Weblog
「彼は、自分の名刺にさらさらと『電算機特別会計よろしく』と書き、大蔵省に届けるようにいった」(『計算機屋かく戦えり』より)。国産ベンダーに対するコンピュータ開発の国家支援が決まった瞬間である。

彼とは田中角栄首相である。

この文章を読んで、すがすがしさを覚えた。決断が正しかったかどうかは、また別の話なのだが。

企業ではなくアイディアを買おう

2007年12月25日 | Weblog
日経新聞によると、日立はHDD事業子会社の株式の5割弱を売却する方針という。

経緯をふり返ってみよう。
2003年1月、日立は自社の米国HDD部門とIBMのHDD事業を統合した。

2002年6月に日立が発表したリリース(一部抜粋)によると、
 「日立は、IBMのHDD事業を買収することにより、競争の激しいHDD市場において、長期的な成功に必要な経営リソースを得ることになります。HDDの研究開発、製造、販売を新会社に統合することで、 年間200億ドル規模のHDD市場での新しいリーダーが誕生します。この新会社は、幅広い顧客基盤、優れた技術力を有するユニークなポジションにあります。また、ストレージシステムや情報家電などを含めた主要な成長市場においても、成功にむけた絶好のポジションにいます。」

ということを当時考えていたわけだ。だが、統合以降黒字化することはなかった。
一体この4年間なにをやっていたのだということになる。なにより日立自身が悔やんでも悔やみきれないのではないか。

ICT業界は変化のスピードが速い。極端な話、買収を検討しているときと、買収が完了したときでは状況が違うという事態も生じる。

IBMはICT業界のリーダーである。これからはどうかわからないが、少なくとも過去は成功し、拡大してきた。IBMがダメと判断したものは希望が薄いのかもしれない。おいしいビジネスならば、手放さず自社でやり続けるだろう。PC、HDD……。買収した側であるレノボにしろ、日立にしろ期待したものを得ることができていないのだ。

M & Aは、スタートアップから間もないベンチャー企業をターゲットにしたほうがいいのかもしれない。ハイリスクだが、ハイリターンの可能性がある。ただし育てる必要はある。あくまでアイディアを買うというスタンスだ。あたることのない既存の大規模事業を買うよりは、はるかにいいのではないか。

ネット企業の繁栄はいつまでつづくのか?

2007年12月21日 | Weblog
GoogleやYahooなどは、主に広告によって収益を上げている。サイトを無料で開放し、広告主から、広告掲載料をとっている。広告が何回クリックされたかで課金するサービス、広告の商品が購入されたとき課金するサービスなどさまざまだ。

クリックスルーレート(CTR)とは、広告がクリックされた回数を、広告が表示された回数で割った比率である。大手ポータルサイトのクリックスルーレートは高くない。おおざっぱにいうと0.05-0.1%程度だ。アメリカの話だが、2005年が0.75%であったものが、2006年は0.27%に低下したという事例も報告されている。

ユーザーも賢くなってきたのだろう。はじめは動画などのリッチコンテンツ広告に目を奪われていた。だが、今は見向きもされないのだ。

こうした現象は、大手サイトにとって大打撃だ。なぜなら、今後ページビュー(PV)を今までのペースで拡大するのは難しい。これにクリックスルーレートの低下が重しをかける。今後、クリックスルーレートは下降トレンドになる可能性が高いと予測する。

1PVあたりの価値が下がっているのだ。PVこそがすべてという現在の状況は、変化を迫られている。

結局、ビジネスモデル的には優れているが、10年は持たないということなのかもしれない。だが、やり方さえ変えればOKだ。サーチエンジンのテクノロジーやサイトのアイディアまでもが否定されたわけではないのだから。

Web2.0ビジネスで圧倒的に先行したアメリカだが、まったく問題がないわけではない。もののみかた次第では、ビジネスチャンスが転がっているということもできるのだ。

ICTベンダーと学校の不思議な関係

2007年12月20日 | Weblog
ICTベンダーは、教育機関に対してとても親切だ。市場価格を圧倒的に下回る価格で製品・サービスを提供しているケースが多い。アカデミックライセンスというやつだ。もちろん、無償もある。

生徒・学生時代にある製品を使えば、社会人あるいは生涯そのベンダーの製品を使ってもらえるかもしれないという期待が込められている。個人生活で、あるいは会社に入って、もし運良くシステム導入決定権を持った場合、学生時代のことを思い出してほしいと願っているのである。もちろん想起して欲しいのはいい思い出である。

まさにユーザーの囲い込みを企図するベンダーロックインである。

ベンダーは教育機関向けでは、利益をとっていないか、多くは赤字を抱えての受注だろう。だが、これを将来への種まきと割り切れば、帳尻は合っている。ただし、保証の限りではない。ベンダーをみていると、必ずしも意図どおりいっていないようにもみえる。

こうした慣行は、ベンダーだけの問題ではない。教育機関サイドにも問題がある。つまり、ICTに対して割り当てられる予算があまりに少ないのである。標準価格で購入するということになれば、ほとんどなにも買うことができないということになるだろう。結果、ベンダー側も割り引かざるを得ないのである。

例えば、ためしにどこでもいいから日米の学校のHPをみて欲しい。歴然である。HPですらこういう状態なのだ。

日本の教育現場は、それほどICTを軽視しているのだ。このような結果が、米国と日本のICT格差の大きな要因に思えてならない。自動車会社なり電機会社なりであれば、なんの知識もない学生を採用し、自社で教育するという方法で問題ない。だが、例えば、Web2.0などは企業が教育することはできない。そもそも企業にはWeb2.0の概念がないのだ。

やはり常日頃、ICTに当たり前のように接していなければならない。学生が多くの時間を過ごす学校がそんな状態であれば、結果は目に見えている。

問題は根深い。ベンダーだけでなく学校側のあり方も問われる。アカデミックライセンスだけでは解決することができないと思うのだ。

ITとICT、どちらがベターなのか?

2007年12月19日 | Weblog
情報技術関連の総称はIT(Information Technology)とよばれる。だが、何年か前からICT(Information and Communication Technology)という用語に一部リプレイスされているものがあることに気づいている人は気づいているだろう。例えば、総務省の「IT政策大綱」は、「ICT政策大綱」というふうに。WebサイトでもICT(IT)と表記しているものもみかける。

文字どおり、ICTはよりCommunicationを重視している。だからといって、ITはCommunicationの意味合いが弱いとも言い切れないのだが。

国内では、圧倒的にITのほうがとおりがよい。逆にICTという言葉をつかうと、ITにあまり関心がない人は、???という顔をする。だが、海外ではICTの方が一般である。

日本人のほとんどは、ITの方が慣れているだろう。いまさら、ICTに切り替える必要性がどこにあるのかという声も聞こえてきそうだ。だが、あえて提案したい。今後ITではなくICTを意識して使うことを。言葉を変えれば、なにかが変わってくるはずだ。

ネット企業の成功要因――身近なところから始めよう

2007年12月18日 | Weblog
Yahoo、Google、Youtube……。
これらに共通するものは何か。押しも押されぬネット大手? 世界トップクラスのページビュー?

だが、今ひとつ重要な共通点がある。どの企業も、はじめはビジネスとしてスタートしたわけではないという点だ。各社の発祥をみてみよう。

● Googleは、当時大学院生だった2人が開発したもので、もともと大学の研究プロジェクトだった。
● Yahooは、やはり2人の大学院生がつくった個人的なリンク集がベースになっている。
● Youtube設立のきっかけは、友人にパーティーのビデオを配って、「皆で簡単にビデオ映像を共有できれば」と思いついたのがはじまりだ。

繰り返すが、どれも自分たちあるいは仲間内(コミュニティ)で使うことを想定したものだ。もともと彼らの頭にはビジネスのビの字もなかったのだ。思いつきをシステムに落とし込む。ただこれだけである。

彼らにとって幸運だったのは、システムに落としこめる技術を持っていたことだ。思いつきだけなら誰でもできる。だが、システムに落としこむ技術は誰もが持っているものではない。そうだとすれば、他人に頼めばいいだけなのだが、ボランティアでそこまでやる人は多くないと思われる。

こうしたアクティビティが、ある時点でビジネス化を持ちかけられるなどしてはじめて、ビジネスカラーがでてくる。それまでは自己満足のボランティアである。あるいは、ボランティアという言葉は不適切なのかもしれない。ただ好きだからやっているのである。なにかの見返りがないと動けない人は、サラリーマンをやるしかない。

自分たちあるいは仲間内で便利なものは、他人にとっても便利なものだ。クローズドなコミュニティからオープン化することで、爆発的に広がる。イノベーションである。

こうしたサクセスストーリーを眺めていると、新規ビジネス立ち上げや起業のあり方が変わってきたと痛感する。経営会議で、ねじり鉢巻をして分厚い内部資料をひっくり返し、喧々諤々の議論をする時代ではなくなりつつあるのかもしれない。

蛇足だが、もう1点気になったことがある。2人でスタートしたという点だ。2人は1人、1人は2人。なんだか、謎かけのようになってしまったが、偶然とは思えないのだ。

SI業界再編――ITホールディングス

2007年12月17日 | Weblog
SI大手のTISとインテックが経営統合する。2008年4月に共同持ち株会社「ITホールディングス」を設立する。メーカー系ベンダーを除いた独立系SIerでは、最大手のNTTデータに次ぐ2番手に浮上する。

ITホールディングスが成功すれば、SI業界再編のトリガーになる可能性がある。SI業界は、プレイヤーが過剰であることは確かだからだ。プレイヤーが過剰で、マーケットが成熟すれば、再編が起こる。これはSI業界に限らず、どの業界にも当てはまる。

年間売上高は3,000億を超え、規模的には大型案件のプライムコントラクターを十分狙えるポジションだ。実際、TISの岡本社長も大型案件を受注したいとしている。

IT業界の構造は建設業界のそれとまったく同じである。トップティアのベンダー・SIerがプライムをとり、下位のSIerに仕事を出す。2次、3次、4次……。厳然たるヒエラルキーが存在する。もちろん、プライムに近ければ近いほど有利だ。

ITホールディングスは、プライムをとりに行くSIerになるだろうが、下請けのときとまったく別の仕事のやり方が要求されるのはいうまでもない。トータルプロジェクトマネジメントであり、マルチSIerマネジメントだ。こうした人材がいなければ、大型案件をプライムで受注しても苦しい状況に陥るだろう。そして、現在のTISおよびインテックにはそうした人材は多くないように思われる。

また、以前のコラムでも述べたが、ITコンサルティング子会社を持たない。最大手のNTTデータは、NTTデータビジネスコンサルティングを持っている。また、3番手の野村総研も会社自体がコンサルティング部門を持っている。

トップティアの大型案件は、ITコンサルティング子会社を先兵として案件を獲りにいくスタンスでないと受注は難しいだろう。イノベーション、チェンジマネジメント、ITガバナンス……などのテクニカルタムのプレゼンをボードメンバーは好む。

日本HPは自己変革できるか?

2007年12月14日 | Weblog
日本HPの新社長に就任した小出氏の記者会見があった。現在、PC、サーバー、プリンターなどハードが売上げの5割をしめる。今後は、コンサルティング、SI、アウトソーシングなどのサービス事業を強化するという。

国内IT市場は、ハードウェアが縮小しソフト・サービスが成長するトレンドが継続している。妥当な経営判断だといえるし、あるいは遅すぎたといってもいいのかもしれない。

売上高 従業員数
日本HP: 4,378億円 5,600名
日本IBM: 1兆1,932億円 1万7,000名


企業業績は上記のようになる。
しかし、ビジネスハードウェアのシェア争いでは、IBMといい勝負をしている。国内ビジネスハードウェア市場では、HPのシェアは上位にくる。企業規模から考えると、非常に頑張っている。

なぜか?

HPのビジネスの真骨頂は、販売チャネル戦略にある。大手ディストリビューターとの強固な関係、国産ベンダーに対するOEM製品の提供である。これらが大変うまく行っている。限られたリソースの中でビジネスをやるのがうまいのだ。

なぜこんな話をしたかというとハードウェアではうまく行った。だが、サービス事業はハードウェア事業のアナロジーで考えることはできないと思うからだ。

サービス事業の基本はダイレクト提供にある。関連サービス会社とアライアンスを組んでやる方法もあるのだろうが、まずは自前である。

HPは短期間でビジネスを拡大した。一方で自前のリソースを育成してこなかった。

今後、HPがどのようにサービス事業を拡大するのかとても興味がある。

効率化で得られるものと失うもの

2007年12月13日 | Weblog
日立製作所は、システム開発案件のリスク管理の一環として「フェーズゲート」を設けている。主に大型案件に適用していたが、中小規模の案件にも適用範囲を拡大している。不採算案件はなるべく受注しないという意味合いが強い。フェーズゲートとは、営業から納品までの各プロセスにゲート(関所)を設けて不採算化や障害を未然に防止しようとする仕組みだ。

また話は変わるが、日経ビジネスの記事によると、日産自動車のゴーン氏は、取引先選別を行うことで、コストをドラスティックに削減した。だが一方で、サプライヤーとの関係が希薄化してしまったという。ものづくり、研究開発に影響がでている可能性が指摘されている。確かに、調達コストは多少上がっても、いろいろなサプライヤーとつき合う方が、アイディアが浮かびやすいといえる。

企業業績が悪いときは、上記のような施策の効果はすぐに数字になって現れる。改善するのである。企業は上記施策が成功であったと受けとる。だから、ますますそうしたベクトルに傾斜する。

だが、長期的にみればどうか。例えば、不採算案件であっても、案件をこなすことで対価以上のスキル、ノウハウなど目にみえないアセットが蓄積されているはずだと思うのである。つまり、社員が鍛えられるというわけだ。社員は、自身の会社ではなくお客さんに育てられるものである。厳しい顧客は敬遠すべきものではなく、ありがたいのだという考えこそ必要なのではあるまいか。

損して得取れという言葉もある。

ベクトルが正しければ、すばらしい。だが、船は大きければ大きいほど急に舵を切っても、進行方向を変えることができないのだ。

特効薬は使った当初は劇的な効果が現れる。だが、副作用も過大であるケースがすくなくないということを忘れてはならない。そしてたちの悪いことに、副作用は時間を置いてやってくる。気づいたときには手の施しようがなくなっているのだ。

ITコンサルティング子会社がベンダーにもたらす果実

2007年12月12日 | Weblog
ITベンダー各社のITコンサルティング会社設立ラッシュが一段落した。

IBM-IBMビジネスコンサルティングサービス
富士通-富士通総研
日立-日立コンサルティング
NEC-アビームコンサルティング
NTTデータ-NTTデータビジネスコンサルティング
といった具合である。

ITコンサルティング会社を各社が設立する背景には、ITシステムの複雑化がある。システムが単純であった今までは、ユーザーの御用聞きでシステムを構築していればよかった。しかし、複数のシステムが有機的に連携することが当たり前になった現在、それではシステムが動かない。また、業務にフィットしたシステムを構築するには、構築前の業務分析、システムデザインの重要度が格段に上がった。ITの投資効果(IT ROI)が問われるようになったのだ。

こうしたいわゆる上流ITコンサルティングは、ベンダーの営業部隊やシステム部隊では手に余る。これをやるのがITコンサルティング子会社というわけだ。

この場合、ベンダー社内にITコンサル部隊をつくるという手もある。ただ、コンサルティングの基本は、中立性である。ベンダーのコンサル部隊だと、自社製品メインのシステムデザインになるなど利益相反の問題が起こる。当然子会社である以上、ベンダー色は出るだろうが、組織上別個独立しているということは重要だ。また、独立系のコンサルティング会社から仕事が降ってくるのを悠長に待っているわけにも行かない。

子会社コンサルという絶妙な距離感がベンダーの求めるデマンドにマッチしたということだ。また、子会社にすることで独立して経営しろということもあるだろう。コンサルティングをタダにしてSI案件を獲得するのではない。コンサルティングフィーはきちんと取るというスタンスだ。

もちろん、ITコンサル子会社をつくることで、ベンダー自身の売り上げ拡大をすることが一番大きな目標であることはいうまでもない。ITコンサルティングの売上に対し、その5倍程度のシステム需要が生まれるとみられる。アメリカに比べ、日本企業は売り上げに占めるIT投資の割合が少ない。経営にインパクトを与えるIT投資をコンサルティング会社が提案できれば、IT市場はもっと拡大するはずだ。

逆にいえば、ITベンダーの将来のポジションを占う上で、ITコンサルティング子会社は重要な指標になる可能性がある。規模と質、スピードをいかにバランスさせるか。リサーチ・コンサルティングビジネスは労働集約型の典型であり、簡単な問題ではない。

ベンダーとSIerの格差がさらに広がり、大型案件のプライムは大手ベンダーが独占する傾向がますます強まるだろう。日本ユニシスは社内にコンサルティング部隊をつくったようだが、そのほかでは、SIerではこうした動きは顕在化していない。