皆様こんばんは。
本日、第64期王座戦挑戦手合第1局が行われました。
余正麒七段は初めて挑戦者になったとは思えぬ、見事な戦いぶりを見せましたが、終盤の井山裕太王座の粘りも流石でした。
難解なコウ争いの結果、最後は井山王座が白番1目半勝ちを収めました。
それでは対局の模様を振り返っていきましょう。
なお、この対局は幽玄の間にて、山田規三生九段の解説付きで中継されています。
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1図(実戦黒25~白26)
左下は定石、左上も定石のようなものです。
右下黒1のハサミに対しても色々な定石がありますが、ここですぐに白△を動かず、白2と左下の黒に仕掛けました。
黒の対応を見てから右下の打ち方を決めようという、井山王座らしい碁盤を広く使う打ち方です。
次に白Aで左右を連絡する手がありますが・・・。
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2図(変化図)
黒1と一つ押してから黒3と連絡を妨げるのが定型ですが、下辺に白石が増えるので、右下は白14と堂々と飛び出して行く事になります。
白は左右が繋がり、逆に上下の黒△は弱い石になってしまいます。
この図は黒良くないので・・・
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3図(実戦黒27~白30)
実戦は黒1と右下に援軍を送る受け方をしました。
今度は白が中央に飛び出して行っても攻められるだけなので、白2、4と隅での安定を目指しました。
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4図(変化図)
もし黒1と受けてくれれば、白2と隅で根拠を確保する事ができます。
黒3と下辺を打たれても、白4で1子を助けられるので、大きな黒地にはなりません。
Aの傷も残り、黒は何も得たものがありません。
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5図(実戦黒31~39)
そこで実戦は黒1から白の根拠を奪い、攻める作戦を採りました。
黒△を活用しようとしています。
白もAから動き、黒の弱点を衝きながらのサバキを目指す事になりました。
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6図(実戦黒57~白58)
下辺は白△まで、白が無事に治まりました。
一方下辺の黒は断点が多く、厚みではありません。
白成功でしょう。
気を取り直して黒1と大場に先行、白は2と右辺に侵入して第2ラウンド開始です。
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7図(実戦黒59~白71)
ここで余七段が思い切った構想を見せてくれました。
黒1から黒△を捨てて外勢を築き、黒13まで!
白地は10目ぐらい増えましたが、右上一帯に巨大な黒模様が出現しました!
こう大きく構えられては、白は突入するしかありません。
突入地点は非常に悩ましい所ですが・・・。
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8図(実戦白72~白76)
実戦は白1、3、5!
あちらに打ったり、こちらに打ったりはプロの得意技です。
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9図(実戦黒77~白86)
黒1、3と左上を受けましたが、一転白4と中を動き、さらに白10と右上を動きました。
何が何やら、訳が分かりませんね(笑)。
右上一帯は黒が圧倒的に強い場所なので、白としてはどこか1つでも生きられれば良いという発想なのです。
三方全てが陽動というイメージですね。
黒に焦点を絞らせないように打っています。
このあたりは無数の変化が考えられる所で、両者の頭脳はフル回転していた事でしょう。
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10図(実戦黒119)
難解な戦いは黒△で終結しました。
白は上辺で生きましたが、その間に黒は△を取り、中央の黒模様も健在です。
黒がリードを奪ったように見えました。
白としては、何とか黒模様に入らなければいけないと思ってしまいそうですが・・・。
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11図(実戦白120~黒125)
実戦は白1から一歩一歩左辺に白地を増やし、黒6までと中央を囲わせてしまいました。
黒地があまりにも大きく見えるので、この打ち方は意外でしたが・・・。
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12図(実戦白126)
ここで白1と踏み込む手がありました!
恐らく何十手も前から、この手が見えていたのでしょう。
流石井山王座です。
次に黒Aから切られてしまいそうですが・・・
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13図(変化図)
黒1、3と切る手は無理です。
黒に断点が多く、白10まで黒地を破られてしまいます。
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14図(実戦黒127~黒141)
という訳で黒1と後退したのは仕方なく、黒15まで黒地は大きく目減りしました。
これでかなり細かい碁になっているようです。
井山王座、流石の判断力でした。
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15図(実戦黒169)
左上黒△とコウを取った場面です。
次に黒Aの切りでさらにコウを仕掛ける手があるので、「白Aと繋いでください」と言っています。
対する白も、「コウは怖くありません。あなたが先に黒Bと繋いだら、それから白Aと繋ぎます」と言って譲りません。
細かい碁なので、両者譲りたくない所なのです。
このコウが解決するのはなんと90手後です。
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16図(実戦白194~白196)
お互い意地を張った結果、白1、3でさらに事が大きくなりました!
黒△全体に眼が無くなっています。
黒Aの所が、命懸けのコウ争いに発展しました。
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17図(実戦黒259~白260)
死活、地の損得、コウ立ての数、形勢判断が必要なコウ争いで、しかもお互い秒読みなので、一手60秒以内で打たなければいけません。
私が打っていたらとても手に負えません。
結果的には、コウ争いを利用して白が地を得する事に成功したようです。
コウ争いが終わった時には白の勝ちが確定していました。
非常に難解な碁でしたが、両者見事な戦いぶりでした。
余七段も敗れたとはいえ、大舞台で井山王座相手に互角に戦えた事は、大きな自信になるのではないでしょうか。
第2局も熱戦を期待できそうです。
第2局は11月7日(月)に兵庫県神戸市「中の坊瑞苑」で行われます。
お楽しみに!
本日、第64期王座戦挑戦手合第1局が行われました。
余正麒七段は初めて挑戦者になったとは思えぬ、見事な戦いぶりを見せましたが、終盤の井山裕太王座の粘りも流石でした。
難解なコウ争いの結果、最後は井山王座が白番1目半勝ちを収めました。
それでは対局の模様を振り返っていきましょう。
なお、この対局は幽玄の間にて、山田規三生九段の解説付きで中継されています。
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1図(実戦黒25~白26)
左下は定石、左上も定石のようなものです。
右下黒1のハサミに対しても色々な定石がありますが、ここですぐに白△を動かず、白2と左下の黒に仕掛けました。
黒の対応を見てから右下の打ち方を決めようという、井山王座らしい碁盤を広く使う打ち方です。
次に白Aで左右を連絡する手がありますが・・・。
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2図(変化図)
黒1と一つ押してから黒3と連絡を妨げるのが定型ですが、下辺に白石が増えるので、右下は白14と堂々と飛び出して行く事になります。
白は左右が繋がり、逆に上下の黒△は弱い石になってしまいます。
この図は黒良くないので・・・
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3図(実戦黒27~白30)
実戦は黒1と右下に援軍を送る受け方をしました。
今度は白が中央に飛び出して行っても攻められるだけなので、白2、4と隅での安定を目指しました。
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4図(変化図)
もし黒1と受けてくれれば、白2と隅で根拠を確保する事ができます。
黒3と下辺を打たれても、白4で1子を助けられるので、大きな黒地にはなりません。
Aの傷も残り、黒は何も得たものがありません。
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5図(実戦黒31~39)
そこで実戦は黒1から白の根拠を奪い、攻める作戦を採りました。
黒△を活用しようとしています。
白もAから動き、黒の弱点を衝きながらのサバキを目指す事になりました。
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6図(実戦黒57~白58)
下辺は白△まで、白が無事に治まりました。
一方下辺の黒は断点が多く、厚みではありません。
白成功でしょう。
気を取り直して黒1と大場に先行、白は2と右辺に侵入して第2ラウンド開始です。
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7図(実戦黒59~白71)
ここで余七段が思い切った構想を見せてくれました。
黒1から黒△を捨てて外勢を築き、黒13まで!
白地は10目ぐらい増えましたが、右上一帯に巨大な黒模様が出現しました!
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こう大きく構えられては、白は突入するしかありません。
突入地点は非常に悩ましい所ですが・・・。
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8図(実戦白72~白76)
実戦は白1、3、5!
あちらに打ったり、こちらに打ったりはプロの得意技です。
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9図(実戦黒77~白86)
黒1、3と左上を受けましたが、一転白4と中を動き、さらに白10と右上を動きました。
何が何やら、訳が分かりませんね(笑)。
右上一帯は黒が圧倒的に強い場所なので、白としてはどこか1つでも生きられれば良いという発想なのです。
三方全てが陽動というイメージですね。
黒に焦点を絞らせないように打っています。
このあたりは無数の変化が考えられる所で、両者の頭脳はフル回転していた事でしょう。
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10図(実戦黒119)
難解な戦いは黒△で終結しました。
白は上辺で生きましたが、その間に黒は△を取り、中央の黒模様も健在です。
黒がリードを奪ったように見えました。
白としては、何とか黒模様に入らなければいけないと思ってしまいそうですが・・・。
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11図(実戦白120~黒125)
実戦は白1から一歩一歩左辺に白地を増やし、黒6までと中央を囲わせてしまいました。
黒地があまりにも大きく見えるので、この打ち方は意外でしたが・・・。
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12図(実戦白126)
ここで白1と踏み込む手がありました!
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恐らく何十手も前から、この手が見えていたのでしょう。
流石井山王座です。
次に黒Aから切られてしまいそうですが・・・
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13図(変化図)
黒1、3と切る手は無理です。
黒に断点が多く、白10まで黒地を破られてしまいます。
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14図(実戦黒127~黒141)
という訳で黒1と後退したのは仕方なく、黒15まで黒地は大きく目減りしました。
これでかなり細かい碁になっているようです。
井山王座、流石の判断力でした。
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15図(実戦黒169)
左上黒△とコウを取った場面です。
次に黒Aの切りでさらにコウを仕掛ける手があるので、「白Aと繋いでください」と言っています。
対する白も、「コウは怖くありません。あなたが先に黒Bと繋いだら、それから白Aと繋ぎます」と言って譲りません。
細かい碁なので、両者譲りたくない所なのです。
このコウが解決するのはなんと90手後です。
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16図(実戦白194~白196)
お互い意地を張った結果、白1、3でさらに事が大きくなりました!
黒△全体に眼が無くなっています。
黒Aの所が、命懸けのコウ争いに発展しました。
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17図(実戦黒259~白260)
死活、地の損得、コウ立ての数、形勢判断が必要なコウ争いで、しかもお互い秒読みなので、一手60秒以内で打たなければいけません。
私が打っていたらとても手に負えません。

結果的には、コウ争いを利用して白が地を得する事に成功したようです。
コウ争いが終わった時には白の勝ちが確定していました。
非常に難解な碁でしたが、両者見事な戦いぶりでした。
余七段も敗れたとはいえ、大舞台で井山王座相手に互角に戦えた事は、大きな自信になるのではないでしょうか。
第2局も熱戦を期待できそうです。
第2局は11月7日(月)に兵庫県神戸市「中の坊瑞苑」で行われます。
お楽しみに!