以下引用 朝日新聞 和気真也 2017年8月10日 http://digital.asahi.com/articles/ASK874TBNK87ULFA00C.html?rm=238
会議や講演の言葉を拾い、即座に文字に変換したり翻訳したりして表示するスマートフォンやタブレット端末向けアプリがある。東京のベンチャー企業が開発した「UDトーク」だ。聴覚障害者や外国人を交えたコミュニケーションに役立つとして、自治体や学校、企業で導入が広がっている。会話を取材記録として残すのが常の記者も仕事に使えるかも知れない。どんなアプリなのか、品川区の区民会館「きゅりあん」が導入した際の説明会を取材した。
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品川区の担当者が説明会で示した使い方はこうだ。
事前にアプリをiPadにインストール。アプリを開き、「トークに参加する」のボタンを押すと、QRコードリーダーが立ち上がった。手元の紙にあったQRコードを読み込む。すると、共有する会話が文字になって画面に映し出された。
発言を会話記録上に乗せるときは、画面下にある「タップして話す」のボタンを押しながら話す。「こんにちは。会議室を使いたいのですが」。ボタンを押した区の担当者が話した内容が、iPadの画面に文字で映し出された。翻訳機能をオンにしてあるため、日本語の文章の下に、ほぼ同時に英文も映し出される。外国人が発言したことを想定して英語で話すと、日本語に翻訳もされた。なかなかの精度……あ、いや、ところどころ、発言の聞き取りにミスが生じ、意味不明な単語も。う~ん、精度は話す人の滑舌などに左右されるようで、まだ向上の余地がありそうだ。
きゅりあんは貸し会議室や劇場を備えた区の施設。担当者は「会話をリアルタイムに文字化できるので、聴覚障害者や難聴の高齢者が利用しやすい環境をつくれる。他の言語に文字翻訳すれば、多国籍の方が利用可能になる」と利点を説明。さらに「会議の内容をテキスト化して議事録に使えるので、テープ起こしも必要なくなる」と話し、積極的な利用を呼びかけた。
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UDトークの「UD」は、多様な人々が快適に利用できる「ユニバーサルデザイン」からとった。アプリが世に出たのは2013年7月。開発したのは東京都練馬区にあるベンチャー企業、シャムロック・レコードだ。
社長の青木秀仁さん(41)は元々、音楽バンドのミュージシャン。インディースで出したCDのレーベル名を、そのまま社名にしたという。11年に音楽活動を終了し、収入源だったプログラマーの仕事を本格化。音声認識会社から委託を受け、システム開発などを手がけた。
あるとき、仕事の関係で音声認識の技術について聴覚障害者向けに話す機会を得た。ところが、思いがけず苦戦する。「自分の意図を伝えるのに、手話通訳がいないと筆談するしかない」。円滑なコミュニケーションが難しかった。「この課題をアプリで埋められないか」。そう思い立ったのが、アプリ開発のきっかけだ。東日本大震災を機に社会貢献できる道を探していたこともあり、開発に熱が入った。
UDトークは、青木さんが仕事を受託していたアドバンスト・メディアの音声認識エンジン「AmiVoice(アミボイス)」を利用している。声を音響分析し、膨大な量の例文や辞書の蓄積データと瞬時につきあわせて適切な言葉でテキスト化する技術だ。青木さんは、聴覚障害者を交えた実際の会話シーンを意識し、ストレスなく使えるアプリを考えた。目指したのが「ワンボタンで使える便利さ」。会話の前に細かい環境設定をすれば声の正確な認識率は高められる。ただ、それだと操作が煩わしい。できればボタンを一つ押すぐらいで使える手軽さが必要だ。ボタンの大きさを大きくし、自然な会話を邪魔しない仕立てにした。会話テキストの共有も、ボタン一つで発効されるQRコードを読み込むことで簡単にできるようにした。
細かい心遣いもある。テキスト表記される漢字は、子どもたちが使うことも考慮して小学校の学年ごとに漢字レベルを設定できる。習っていない漢字は使われないようにする配慮だ。ちなみに、「大阪弁で表示する」を選ぶこともできる。ちょっとした遊び心だが、聴覚障害者には「雰囲気が伝わる」と好評だという。
翻訳機能は約30の外国語に対応。個人向けの無料版は米グーグルの翻訳サービスを利用。月額2万4千円からの使用料がかかる法人向けは、翻訳専門の会社のサービスを使って精度を高めた。
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青木さんはアプリを開発後、手話を学んだという。周囲から「手話を学ばなくてもいいようにアプリ開発したのでは?」と驚かれるというが、「大きな誤解がある」と話す。
このアプリを本来、一番必要とするのは誰か。「聴覚障害者ではなく健常者だ」と青木さんは言う。健常者が聴覚障害者に自分の意思を理解してもらう場面で生きるからだ。「そもそも、自分で使うためにつくったアプリですからね」と話す。
逆に、手話で話す聴覚障害者の意図をきちんと理解するには、やはり手話を理解できた方がいい。だから、青木さんは手話を学んだ。「どちらもコミュニケーションの幅を広げる選択肢」と言う。使いこなせれば、豊かな会話ができるという発想だ。
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UDトークは現在、200以上の自治体や法人に広がっている。自治体では東京都練馬区や港区、大阪市などが聴覚障害者や外国人の対応に活用し始めた。製薬会社や航空会社などでも窓口での接客や社内のコミュニケーションに役立てられている。聴覚障害のある学生の学習支援ツールとして、全国約50の大学が導入しているという。
【サービス概要】
●アプリ名:UDトーク
●種類:アップルのiOS向け、グーグルのアンドロイドOS向けの2種類。それぞれ「App Store」、「Google Play」から無料でダウンロードできる
●料金:個人向けは、テキスト化できる会話が3分までの無料版と、時間制限がない有料版(月額240円)がある。法人向けは、利用規模やデータを保存するサーバーの大きさに応じて月額2万4千円から(和気真也)
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UDトーク公式サイト http://udtalk.jp/
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