*原作:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:コラプターズ(学生翻訳チーム)プロデューサー:宮嵜明理(文学部2年)演出:髙橋奏(文学部3年)監修:西沢栄治(JAM SESSION)公式サイトはこちら 明治大学駿河台キャンパス/アカデミーコモン3階アカデミーホール( 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10)6日終了 公演会場のアカデミーコモン地下1階の博物館では、特別展示「MSP20年の軌跡」が12月16日まで開催中。
いろいろな座組で観ているはずだが、意外や本ぶろぐに記事がある『ハムレット』そのものは、藤原竜也主演版(2015年2月/蜷川幸雄演出)と、KUNIO11『ハムレット』(2014年/杉原邦生演出)の2本であった。『ハムレット』をモチーフとした作品の観劇はいくつもあり、9月上演のMSPラボ公演『新ハムレット』(太宰治作 養父明音演出)、MSPシェイクスピア・キャラバン『フォーティンブラス』(横内謙介作 MSP脚色 新井ひかる演出/2017年)はじめ『被告人ハムレット』(山本タカ脚本・演出/2011年)などなど。いずれも大いに楽しんだ。『ハムレット』に迫り、自分の視点で新たな劇世界を構築しようとする作り手、そして作り手の目を通して『ハムレット』をより深く知りたいという観る側どちらをも惹きつけてやまない作品であることの証左であろう。それほど魅力に溢れる『ハムレット』だが、その分謎も多く、どの『ハムレット』が正解かはいまだにわからない。
MSPの本作上演は、2009年の第6回公演(未見)以来となる。2時間30分休憩無し。現代の若者たちが真っ向から挑む本丸の『ハムレット』、大千秋楽の舞台へいざ!
結論を先に言ってしまうと、MSPの『ハムレット』はプロによる舞台では体験したことのない、しみじみとした味わいがあった。中央に大きな階段を置いた舞台美術やシックな色合いの衣裳、客席通路も自在に使った演出に惹かれる一方、歌が多用されたところや台詞の響かせ方など、課題と思われる点もある。同世代の学生たちがさまざまな年齢層の人物に扮したり、女性が男性役を演じる場合も多々あるのだが、決して手練れのベテラン風にならずに役に身を委ねる素直な演技には嫌味がなく、違和感はほとんどない。
何よりデンマーク王子という本人の意志とは関係なく負わされた運命のために、王家の陰謀に否応なく巻き込まれ、若い命を散らせた青年の悲しみがまっすぐに伝わってきた。彼はほんとうは生きていたかったのに。
これからも『ハムレット』を観る機会があるだろう。「この人が演じてくれたら」と密かに願う俳優もいる(藤原竜也はもう一度挑戦するのでは?)。そのなかでMSPの『ハムレット』は、同じ座組での再演は無い、今このときだけのかけがえのない舞台として心に刻まれるものになった。
実は開演前、観客同士のトラブルが起こり、一瞬客席が凍りつくほどの緊張が走ったが、すぐに会場案内のスタッフが駆け寄って対応し、以後全く心配なく開演した。責任者を呼ばず、学生だけで収めたのはほんとうに立派で、スタッフワークが相当に鍛えられたものであることがわかる。スタッフが皆リクルートスーツであったり、注意事項のアナウンスがやや過剰であったり、「管理されすぎではないか」という声も聞いたのだが、年配の観客が多く、アナウンスを繰り返す必要があり(それでも聞いていない)、学生演劇とはいえ、大学が主催し、父母会や校友会など「大人たち」が後援している企画とあれば、「ちゃんとした感じ」が求められているのではないだろうか。会場が建物に入って3階まで進むといういささか面倒な構造も要因のひとつではあるが、開演前はスーツのスタッフに導かれ、芝居が始まればキャストは思い切り弾け、観客は大いに楽しむ。終演後は1階エスカレータを降りたロビーにキャスト、楽団総出で賑々しく見送ってくれるのは毎回気恥ずかしいが、観劇の締めくくりとしてまことに良き。本公演でスーツでてきぱきと会場整理をしているスタッフの中に、このあいだのラボ公演で生き生きと演じていた学生のすがたを見つけると、「今夜はここで頑張っているんだな」とひそかに嬉しくなるのである。
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