因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

「日本語を読む」Hプロ『城塞』

2008-05-25 | インポート
*安部公房作 森新太郎演出 公式サイトはこちら シアタートラム Hプロは24日で終了
 自分にはこれが「日本語を読む」の最後のプログラムとなった。演劇集団円の若手気鋭の森新太郎が、安倍公房にどう取り組むか。舞台には椅子と長机が置かれ、出演者は最初から横並びに座って動かない。下手少し離れた位置にト書を読む高田惠篤が座る。自分は演劇作りの現場を知らないが、戯曲が与えられ、俳優がそれを目で読み、声に出し、ホンを放して動き始める直前の、緊張感が漲り、同時にある意味で不安定でもある状態を目にしていることを感じた。アフタートークによれば、森は「作りすぎないことを心がけた」そうで、俳優の演技的な部分は演出ではなく、思わず出てしまった動きなのだという。自分は吉見一豊から目が離せなかった。クライマックスの場面に突入する前、腕を組んで軽く伸びをし、居住まいをただす。その姿に思わず見とれてしまう。舞台袖で出番を待つ俳優とはこのような感じなのだろうか。終盤に向かってのぶっとばし方は尋常ではなく、通常リーディングで熱演されるとみる方は引いてしまうのだが、今回は逆である。戯曲にぶつかっていく俳優の爆発的なエネルギーの、何と凄まじいこと。

 今回のリーディングでみられなかったプログラムもある。「一晩でふたつ上演してくれればいいのに」と悔しかったが、向田邦子の随筆「時計なんか恐くない」(『夜中の薔薇』収録)の一節を思い出した。「お茶を二時間習い、時計が三時になったから、すぐショパンが弾けるものでしょうか。私は非能率的をいわれても、お茶を習った日はお茶だけにして、夜までその気分を大切にしたいと思う『たち』なのです。」『白夜』をみて、15分間休憩したらすぐに『城塞』をみられるものだろうか。『白夜』をみた夜は佐戸井けん太の声と佇まいを大事に胸に抱えて家路に着き、また日を改めて『城塞』の吉見一豊にぶつかっていく。何より、すべては無理だったにしてもいくつもの演目を体験できたことをもっと感謝すべきであろう。ますます戯曲が好きになり、舞台が好きになった。3週間楽しかった。

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