因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

salty rock 27stage『熱海殺人事件』モンテカルロイリュージョン

2024-12-14 | 舞台
*つかこうへい作 フジタタイセイ(劇団肋骨蜜柑同好会 (1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13)+こちらも)構成・演出 公式サイトはこちら  上井草エリア543 15日終了
  同ユニットは今回が初。「ザ・ロンゲスト・スプリング」と「モンテカルロイリュージョン」の交互上演で、後者を観劇した。

 多くの演劇人に大きな影響を与え続けているつかこうへいの代表作だが、間近の観劇は、2021年秋の文学座アトリエ公演の「えびす組劇場見聞録」第64号に「別人との再会」と題した一文のみか。「モンテカルロイリュージョン」は阿部寛、平栗あつみ、山本亨共演の舞台(1995年秋 PARCO劇場?)を観たが、記憶はおぼろげである。

 今回の構成・演出のフジタタイセイいわく「怒りと悲しみと痛みと、それらをやり過ごすための狂乱と」、「愛と孤独と死と狂気。そうだ、やはり『熱海殺人事件』にはすべてがある」(当日リーフレット)。本作がマグマのように滾らせている何かは、演劇ならではの魅力、演出家や俳優を鍛え、奮い立たせる何か、そして観客を魅了する何かに昇華するのだろう。

 木村伝兵衛部長刑事の鈴木智晴(劇団東京都鈴木区)、速水健作刑事の長瀬巧、水野朋子婦人警官の伊織夏生(salty rock)、容疑者大山金太郎の今村貴登()いずれも明晰で力強い台詞、からだの動きも切れよく、相手役との呼吸の緩急など、ただ若さと勢いだけで突っ走るのではない、入念で周到な稽古があったことを窺わせる。

 これはまったくの個人的感覚だが、すべてがある本作にはもうひとつ、「これを観て自分も演劇をやろうと立ち上がる人には大きな決意を、止めておこうと退く人には静かな諦念を与える役割」があるのではないだろうか。もちろん自分が演劇の現場に行く以外に、観客として心置きなく堪能する選択もあり、心惹かれ、決意を促す作品が何であるかは人によって違う。しかし『熱海殺人事件』をはじめとするつかこうへい作品には、あの世界に入りたい、食らいついていきたいというエネルギーを沸き立たせるか、憧れは憧れのまま大切に取っておくかの分岐点的な特性を持っていると思われるのである。
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