*公式サイトはこちら 阿佐ヶ谷ワークショップ 26日、27日(1,2,2',3,4,5,5',6,7,8,9,10,11)
2月の「朱語りコンサート」、5月の本公演に続く年末の「小公演」も今年で4回目となった。「小」と銘打っていても、朱の会の誠実かつ果敢な創作の姿勢は変わらない。回を重ねるごとに観客が増え、2日間、3回の公演はほぼ満席の盛況だ。1部は俳優ふたりがそれぞれ小説1篇を読み(演出は語り手に任されたらしい)、2部は浅田次郎の人気シリーズ『天切り松 闇がたり』より第三巻「宵待草」を俳優5人が群読する。
2月の「朱語りコンサート」、5月の本公演に続く年末の「小公演」も今年で4回目となった。「小」と銘打っていても、朱の会の誠実かつ果敢な創作の姿勢は変わらない。回を重ねるごとに観客が増え、2日間、3回の公演はほぼ満席の盛況だ。1部は俳優ふたりがそれぞれ小説1篇を読み(演出は語り手に任されたらしい)、2部は浅田次郎の人気シリーズ『天切り松 闇がたり』より第三巻「宵待草」を俳優5人が群読する。
☆1部
・別役実「淋しいおさかな」/平山真理子・・・広い野原でひとり暮らす少女の耳に、遠い海の底で「淋しい」と泣くおさかなの声が聞こえる。少女には「淋しい」という気持ちがわからない。風や月や野良犬に問いかけると、それぞれ答は返って来るが納得できず、少女はおさかなに会いに海に向かって歩き始めた。やっとたどりついた海で少女は…。平易な文体であるが、底にあるものは苦く切ない。相手の心を理解し、受け止めることの困難やわかり合えないことの悲しみが静かに伝わってくる。登場する人間は少女だけで、あとはおさかな、野良犬といった動物や風、月の自然現象、最後には海も言葉を発する。平山は極端な擬人化ではなく自然に演じ分け、物語のイメージを明確にした。時おり入る手振りについて、個人的には無い方が好みである。
・中原芭凪(なかはらはな)「ローレライ」/吉田幸矢・・・寡聞にて初めて聞く作家の作品であった。小さな町にやってきたで女性と、そこに暮らす少年とその祖父の奇しき縁が語られる。ゆったりとした物語は吉田の雰囲気や声、演技に合って、イメージも沸きやすい。少々複雑な話ゆえ、話の流れを追うことに終始せず、人々の心象を味わうことが大切であると気づかされる。
☆2部
・浅田次郎『天切り松 闇がたり』より
第三巻「初湯千両」所収「宵待草」構成・演出 神由紀子
第三巻「初湯千両」所収「宵待草」構成・演出 神由紀子
「天切り松」と呼ばれる老人松蔵が、留置場で囚人や看守、刑事を相手に、大正時代に暗躍した怪盗「目細の安一家」の武勇伝を語る。クリスマスイヴ、とある警察署で松蔵(藤本至)は、婦人警官(那由多凛)を相手に、松公(山本祐路)と呼ばれる少年だった時分の、掏摸のおこん姐さん(神由紀子)と人気作家竹久夢二(髙井康行)の思い出を語りはじめた。
娘のころから大の夢二贔屓だったおこんは、松公をお供にあちこちの百貨店で夢二グッズを買い漁り、銀座のカフェで戦利品を前にご満悦。が、そこで何と当の夢二に遭遇。いっしょにお茶をと申し出たおこんに、夢二は絵のモデルになってほしいと頼む。
俳優は自分の役のほか、場面に応じて地の文も読みながら進行する。いつもながら、観客が混乱しないよう、俳優の役柄とのバランスも考慮した見事な構成である。那由多は婦人警官の制服がよく似合い、松蔵老人の話の聞き手と同時に物語と観客の橋渡しの役割を担う。松蔵の藤本は和服だが、松公の山本は洋装だが、同じ色のマフラーを巻いて、ふたりが同一人物であることを示す。
さて夢二はおこんに熱烈なラブコールをするも、実は過去の女性が忘れられない。人気絶頂の作家でありながら満たされない淋しさを抱え、どこか浮世離れしており、演じるには難しい役どころである。娘のように心をときめかせながら伝法で思い切りよく、まさに「姐御肌」のおこんに神由紀子はぴったりで、夢二とおこんのやりとりがこのステージの見どころ、聴きどころである。おこんが緩急自在の突っ込み役なら、夢二はおこんに向かって臆面もなく「ビューチフルでプリティーです」と称賛するなど、天然のボケ役か。客席にはしばしば笑いが起こり、小説を目で読んだときには得られない躍動感、朗読劇の旨みをたっぷりと味わった。
神由紀子が師事した朗読の名手・阿部壽美子は「朗読は作品を破壊し、切り拓くこと」と喝破した。朱の会の舞台は手堅く作りながら、毎回新しい挑戦がある。初出演はもちろん、常連の俳優にとっても課題があり、試行錯誤があるだろう。文学作品を朗読するのは、作品の魅力を忠実に表現するだけでなく、ときには既成の世界(ときに読者の作品観までも)を破壊し、新しい劇世界を提示することでもある。勇気と根気が必要な仕事だ。客席の自分もまた勉強を怠らず、「この小説はこういうもの」と凝り固まることなく頭と心を柔軟に、神由紀子と朱の会の挑戦を受けて立つ者でありたい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます