因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

「日本語を読む」Fプロ『朝に死す』

2008-05-19 | 舞台
*清水邦夫作 扇田拓也(ヒンドゥー五千回)演出 公式サイトはこちら シアタートラム
 舞台には椅子と長机が3つずつ、上手、中央、下手に置かれている。鈴木浩介は下手、久世星佳が上手に、福士惠二が中央につく。福士が鈴木と久世にホンを手渡し、3人が着席。リーディングが始まる。

 このFプロは18日で終了しているので詳細を書いてもかまわないのだが、書くのがもったいないような、でもたくさん書きたいような複雑な心持ち。つまりそれだけおもしろくみたということなのである。

 当日チラシのキャストには、「男 鈴木浩介 女 久世星佳 ト書きを読む男 福士惠二」と書かれており、「ト書きを読む男」としたところに演出家の企みがみえる。冒頭、男女に台本を手渡すところや、自分は中央に位置する点など、福士は単にト書きを読む役割を越えて登場人物と同じ人格をもつだけでなく、この場の仕切り役、裁判の判事のような雰囲気を醸し出す。男女に無言の圧力をかけるようなところもあるが、物語が進むにつれて男女は制御がきかなくなり、しまいには自分たちのト書きも勝手にどんどん読み始める。こういう演出をみるのは初めてで、「リーディング」という形式を逆手に取ったおもしろい趣向であると思う。暴走する男女に向かって必死でト書きを読む福士の様子に、本来は笑える話ではないのだろうが、客席は大いに沸いた。そうか、こういうやり方もあったのか。

 ただし、この方法が『朝に死す』という戯曲の魅力を伝えるために有効であったかは疑問が残る。何度も使えない手段であり、もう少し控えめにみせたほうがよかったかもしれない。ともあれ演出家扇田拓也の才気が溢れる刺激的なリーディングであった。若い演出家の試みに、実力のある俳優が力強く応え、ともに戯曲に取り組んだ喜びが伝わってきた。こういう舞台をみると、自分の筆の拙さがはがゆく、もどかしい思いにかられる。と同時に今は難しいが、いつかどこかでこの体験を活かしたいという意欲も掻き立てられるのである。
 

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