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次の日銀利上げに無警戒な市場、桜井元審議委員は6-7月に言及 前倒しに現実味

2025-01-29 14:55:36 | 経済

 足元における市場の関心は、29日に公表される米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果と2月1日とみられるトランプ大統領の関税引き上げに集まっているが、日銀の次の利上げについては7月会合で64%しか織り込まれておらず、織り込みが100%に達するのは10月会合となっている。これは筆者の目から見れば「無警戒」と映る。

 もし、2月1日にトランプ大統領が対メキシコ、カナダに25%、対中国に10%の関税を賦課すると決めた場合、ドル高・円安が進行し、日本国内では輸入物価の上昇を起点に物価上昇の圧力が増大する。すでに日銀は1月会合の時点で経済・物価が日銀の見通し通りに推移すれば、それに応じて政策金利を引き上げるとの方針をあらためて確認しており、桜井真・元日銀審議委員は28日にロイターとのインタビューで、次の利上げは6―7月がメインシナリオとの見解を表明した。今の情勢が継続するなら、日銀の利上げは市場見通しよりも大幅に前倒しされると予想する。

 

 <注目のFOMCとトランプ関税の行方>

 27日の当欄で指摘したように、29日に結果が判明する今回のFOMCでは、声明文の構成やパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見で、従来よりも利下げに関して積極的な見解が出てくるのかどうかが最大のポイントになる。

 その次は、2月1日に果たしてトランプ大統領がメキシコ、カナダ、中国に対して関税引き上げを実施するのかどうかが大きな問題になる。

 今のところ、トランプ大統領の発言に揺れがみられるため、特に対中国の関税がどうなるのかマーケットははっきりと織り込んでいないと言えるだろう。

 関税の引き上げが決まれば、1)米国の輸入が減少する、2)米国内の物価と長期金利が上昇する──などを理由にドル買いが活発化するとみられている。

 さらに関税をかけられた国は、その「被害」を最小化するために自国通貨を切り下げるとの思惑がマーケットで広がりやすくなり、この面でもドル買いが強まるとみられている。

 

 <トランプ関税で円安も、輸入物価起点の物価上昇の可能性高まる>

 ドル買いの強まりは対円でも鮮明となり、ドル/円は足元の155円前半からドル高・円安方向にシフトすると予想する。

 今年12月の輸入物価は円ベースで前年比プラス1.0%と4カ月ぶりに上昇したが、円安が進めばさらに上昇幅が拡大し、この先の食品値上げを一段と誘発しやすくなる構図ができることになる。

 政策維持を決めた昨年12月の金融政策決定会合の議事要旨(29日発表)では、物価面について「輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続く下で、足元は2%台前半となっているとの認識で一致」との議論を明らかにしている。

 もし、「輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰」という評価が変わり、再び物価を押し上げる力が大きくなってきたとの認識に変われば、企業や個人の予想物価上昇率を押し上げる要因として日銀が意識していくことになると筆者は指摘したい。

 

 <声明文から利上げしない理由を削除、毎回の会合で利上げ検討が可能に>

 また、日銀は今年1月会合での声明文で「米国をはじめとする海外経済の今後の展開や金融資本市場の動向を十分に注視し、わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に与える影響を見極めていく必要がある」との文言を削除している。

 これは利上げしない理由を声明文から外したことになり、形式上は毎回の会合で、経済・物価情勢が日銀の見通し通りに進展しているのかチェックし、確認できれば金融緩和の度合いを調整する目的で政策を金利を引き上げる、ということにつながる。理論の立てつけ上は「毎回がライブ会合になる」ということだ。

 実際、28日に公表された12月企業向けサービス価格指数は前年比プラス2.9%と、前月から伸びは小幅鈍化したものの、幅広い業種で人件費上昇をサービス価格に転嫁する動きが続き、指数の水準自体は1995年3月以来の高さを記録した。この点は、日銀の見通し通りに経済・物価情勢が進展している1つの表れとみていいだろう。

 

 <桜井氏のロイターインタビュー、4-5月利上げに言及>

 一方、桜井元審議委員はロイターとのインタビューの中で、次の利上げは6―7月がメインシナリオだと述べつつ、政治情勢やマーケット動向を見ながら、追加利上げを4月に前倒しする可能性もあると述べた。日銀は3月18、19日に次の会合を開催後、その次は4月30日、5月1日に開催する予定で、桜井氏の発言は早ければ「次の次の会合で利上げの可能性がある」との見解を示したことになる。

 対照的にマーケットの予想を見ると、筆者には「無警戒」と映る。今のところ、市場の日銀利上げの織り込みは、3月がゼロ%、5月が12%、6月が32%、7月が64%、9月が80%、10月が100%となっている。

 上記で指摘したように、日銀の利上げへのスタンスを整理すれば、形式論理上は見通し通りに経済・物価情勢が推移していれば、毎会合で利上げの検討をすることが可能となっている。ところが、マーケットは過去の例などを念頭に「最低でも6カ月間のインターバルになる」と思い込んでいる面が強い。

 

 <物価高への世論の反感、神経尖らす政府・与党>

 筆者がマーケットの「無警戒」を懸念するのは、従来は日銀の利上げ姿勢をけん制する色彩が強かった政府・与党に変化が起きつつあることに市場関係者の多くが無関心であることだ。

 昨年10月の衆院選で与党が過半数割れの大敗を喫した要因は何か、という点で、政府・与党内では物価高に対する選挙民の反感を事前に把握できなかったことに反省の声が出ている。

 実際、読売新聞と早稲田大先端社会科学研究所が共同で実施した世論調査によると、衆院選で重視した争点に関し(調査は複数回答)、物価は景気・雇用の58%に次ぐ38%を占めていた。

 最近のコメ価格の上昇に伴う食料品支出の増大に対する不満によって、農林水産省が従来の方針を転換する事態にいたった。政府の備蓄米を柔軟に放出できるように準備を進めることにしたのも、政府・与党内における物価上昇への警戒感が影響したとみられている。

 政府からの利上げへのブレーキが弱くなれば、日銀のフリーハンドが確保され、市場の想定よりも早めに次の利上げに踏み切るという可能性が高まってくると筆者は指摘したい。

 

 <ドル安志向のトランプ氏、政府と日銀の関係に変化も>

 さらに石破茂政権にとって最も神経を使う相手であるトランプ大統領が、ドル安支持の信念を変えていないことも間接的に影響すると予測する。ドル高が米貿易赤字の拡大につながっていると確信しているトランプ大統領にとって、拡大したままの日米金利差がドル高・円安に大きな影響を与えているなら、緩和度合いの段階的な調整を進める日銀の動きに「待った」をかけるような日本国内における政府・与党のプレッシャーは「弊害」と映るのではないか。

 もし、弊害の除去を米側が日本側に求めてきた場合、市場が仰天するような利上げパスになる可能性もゼロではないと予想する。

 今後は、日銀ボードメンバーの発言に加え、日米両政府高官の発言、為替の動き、米経済の動向などを複眼的に見て、先行きを判断する必要性が一段と高まってきた。


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