一歩先の経済展望

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米大幅利下げと円安の理由、市場が注目する植田総裁会見と高市氏の当落

2024-09-19 14:04:31 | 経済

 18日の米連邦公開市場委員会(FOМC)で0.50ベーシスポイント(bp)の大幅な利下げが決まったが、ドル/円は一部の市場参加者の予想とは正反対のドル高・円安で反応し、19日の東京市場では一時、143円後半まで円安が進んだ。米金利が利下げ発表後に上昇してドル買い・円売りを促す要因になったという。

 今後は20日の植田和男・日銀総裁の会見内容次第で、再びドル安・円高方向に傾くかどうか市場の関心が集まっている。ここでにわかに注目度合いを高めているのが、自民党総裁選(27日投開票)における高市早苗・経済安全保障相の健闘報道だ。もし、日銀の利上げに難色を示している高市氏が決選投票に残って議員票を引き付けて当選した場合、日銀の利上げパスに大きな影響を与える可能性があり、これまで以上にマーケットで円安バイアスがかかりやすくなるの見方が出ているためだ。

 植田総裁の利上げに関するスタンスのニュアンス次第で円買いを仕掛けたい市場参加者と、高市氏の動向に関心を示す向きとのパワーバランスがどうなるのか、20日の東京外為市場の行方に内外市場参加者の注目がこれまで以上に集まりそうだ。

 

 <利下げ後に米金利上昇>

 FOМC後のドル/円の動きは、17日の当欄で筆者が指摘した展開にほぼ沿っていたと言えるだろう。市場では、利下げ幅をめぐって25bpと50bpの見方が拮抗しているとの見方が出ていたものの、50bpの市場織り込みは80%を超えていた。したがって50bpの利下げ発表で新たな円買いポジションを構築する動きにはならなかった。

 それどころか、ドル/円はドル高・円安方向に動き出し、円買いを計画していた市場参加者にとっては想定外の値動きになったと思われる。

 最も大きな要因は、米金利がそろって上昇したことだ。指標の10年債は前日の3.64%から3.71%、30年債が3.95%から4.03%、5年債が3.43%から3.49%に上昇。米金融政策の影響を受けやすい2年債も3.59%から3.62%に上昇した。

 

 <背景にあった3つの要因>

 では、大幅利下げでどうして米金利は上昇したのだろうか。1つは、見かけの大幅利下げとは対照的に米連邦準備理事会(FRB)の内部における意見の対立が大きいと市場が見たからだ。ドットチャート(FOМCメンバーが適切と考える政策金利の水準の分布図)をみると、2024年末までに50bpの利下げを予想していたのは9人で最も多かったが、25bp予想が7人、利下げなしが2人もいた。75bp利下げが1人いて年内の50bp利下げはかろうじて多数派を形成していたが、きわどい形勢であるとマーケットは判断したとみられる。

 また、2025年末の政策金利の水準に関し、マーケットは3%割れまで織り込んでいるのに対し、ドットチャートの中央値は3.25%-3.5%となっている。25年中に100bpしか利下げしないのであれば、現在の織り込みは行き過ぎとなって米金利の上昇という現象になりやすい。

 さらにパウエルFRB議長は会見の中で、経済が堅調でインフレが続くなら、政策をよりゆっくりと縮小するとの見解を示した。米アトランタ地区連銀のGDP NOWが今年第3四半期の成長率を2.9%と試算している中で、市場の織り込みよりも利上げテンポが緩やかになる可能性を敏感に感じ取った参加者が少なからず存在したとも言えるだろう。

 

 <日本株運用者にとって望外の展開>

 このところドル/円の上下動に対して素直に反応することが多くなった日経平均株価は、19日の取引で円安を材料に大幅高となり、前日比775円16銭高(2.13%高)の3万7155円33銭で取引を終えた。日本株の運用者にとって50bpの米利下げ予想が大きな下落要因として意識されてきただけに、円安→日本株の大幅高という結果は「望外の展開」だったのではないか。

 ただ、ここからの展開は単純ではなさそうだ。1つは20日に予定されている植田日銀総裁の会見が為替変動の材料になりやすく、もし、円高に振れればたちまち株安の地合いに戻ることになるからだ。

 

 <植田総裁の発言、繰り返しでも円高材料視される可能性>

 植田総裁の国会における発言や直近に行われた3人の日銀審議委員の講演・会見をみれば、8月5日の市場大変動を経ても、物価が見通し通りに展開すれば、実質の政策金利の水準が大幅にマイナスであることを考慮すると緩和度合いを調整する目的の利上げを実施していく、との方針を繰り返し述べている。

 20日の会見でも植田総裁が同様の趣旨の発言をする可能性があり、それはこれまでの見解の繰り返しないし再確認の意味合いを持つだろう。

 だが、FOМC後に142円台から143円台で取引されているドル/円は、大方の予想よりも「円安水準で取引されている」(国内銀関係者)とみられており、これまでの見解を繰り返したとしても一部の参加者に「タカ派的」とみられ、ドル売り・円買いが加速する材料となる可能性を指摘する声が市場の一部に出ている。

 

 <意識され出した高市氏の反利上げモード>

 他方、ここにきて円安が復活するのではないかと予想する見方がにわかに多くなっているとの指摘も出ている。その中心に存在するのが、自民党総裁選に立候補している高市氏だ。14日の総裁選イベントでは「金融緩和は我慢して続けるべき、低金利を続けるべき」と発言。もし、新総裁・新首相になった場合、日銀が進めようとしている利上げ路線に真っ向から反対し、日銀の利上げパスに大きな障害となるとの予想が市場の中で浮上し始めている。

 直近の自民党員・党友を対象にした複数の調査では、石破茂元幹事長、小泉進次郎・元環境相と肩を並べるかもしくは凌いでいる結果もあり、市場参加者の間では急速に「高市氏当選のシナリオを構築する必要が出てきた」という声も漏れだした。

 

 <円高と円安、どちらのパワーが優勢か>

 こうした状況を踏まえると、植田総裁の会見途中や終了後に円買いを仕掛ける動きが出て円高/日本株安の値動きが活発化する展開と、植田総裁の想定以上の利上げに対する慎重な発言や自民党総裁選における高市氏の健闘を材料視した円安/日本株高の動きのどちらが鮮明になるのか注視する必要がありそうだ。

 筆者は2つの力が均衡し、20日の会見後に大きな値動きは発生しないのではないかと予想するが、FOМC後の円高が進展しなかったことから、新たなに円安を仕掛ける動きが出てくる可能性もゼロではないとみている。

 20日午後3時半からの植田総裁の会見への注目度は、金融政策の維持が予想される中では異例なほどに上がると予想している。


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