


深刻化するネットいじめ LINE急増…自殺後も「お通夜NOW」
昨年、大津市の中2男子の自殺問題を機に社会的関心が高まったいじめ問題。今年6月にいじめ防止対策推進法が制定されるなど国を挙げた対策が進められるが、いじめは一向になくならない。なかでもネットいじめは夏休み明けに悪化するとの指摘もある。現状をリポートする。
生徒アンケートに無視や暴力などのいじめ証言が40件以上記述されていたことが判明した奈良県橿原(かしはら)市立中学1年の女子生徒=当時(13)=自殺問題。遺族や関係者によると、女子生徒は生前、「ネットいじめ」も受けていた。
《んま(ほんま) うざいなあ、さよーならー》
今年3月上旬、女子生徒は、同級生の女子がスマートフォン(高機能携帯電話)などで使える無料通信アプリの「LINE(ライン)」に書き込んだ文面を見て「私のことなんやろな」と思った。女子生徒は昨秋から、この女子を含め仲良しだった同級生3人から無視されるなどのいじめを受けていたからだ。
仲間内で文字や写真などをやり取りできるLINE。女子生徒は自分だけメッセージを読めないよう設定され、悪口を書き込まれることもあった。
3月中旬、別の女子からは、やはりLINEで家庭を中傷する書き込みをされ、学校でこの女子と激しく口論となり、担任が止めに入るトラブルになった。
このころ、複数の友人に「しんどい」「死にたい」と相談していた女子生徒は、3月28日の早朝、マンション7階から飛び降りた。携帯電話の未送信メールには「みんな 呪ってやる」と記されていた。
その直後、女子生徒を中傷していた女子は「私のせいや。私も死んだ方がいいんかな」と書き込んだ。だが通夜の際にはこう書き込んだ。「お通夜NOW」
◆高校生56%がスマホ
LINEは主にスマホ向けのアプリで、急速に普及が進み、国内の利用者は4500万人以上に上る。中高生にも利用者が増えているのはスマホの所有率が急増しているからだ。内閣府が今年1月に公表した調査によると、高校生のスマホ所有率は前年度比約8倍の56%、中学生は約5倍の25%。利用者増に伴い、LINEいじめが増えている。
今年7月には山形県鶴岡市の市立中学野球部で、複数の部員が1人の服を脱がせて携帯電話のカメラで撮影した画像をLINEに掲載するいじめが発覚した。
なぜ、LINEが安易ないじめのツールとして広がっているのか。ネットいじめに詳しい全国webカウンセリング協議会の安川雅史理事長(47)は「現実世界のいじめなら周囲の目もあり歯止めがかかるが、1対1またはグループ間という閉じられた世界でのいじめは、発覚しにくい上、エスカレートもしやすい」と指摘する。
九州地方の県立高校では昨年12月以降、女子生徒の間でLINEによる中傷を繰り返す中で、書き込みがエスカレートし、「妊娠した」と嘘を書かれた生徒が退学する事態に発展した。
◆すぐ返信しないと…
「どうやったらLINEのやり取りをうまくやめられますか」。同協議会には最近、こういう相談が増えているという。LINEではメッセージを読むと、相手に「既読」の文字が表示される。大震災などの際に安否確認ができるための機能だが、これがいじめを発生させる原因となる。
メッセージを読んですぐに返信しないと「既読無視」といわれ、仲間外れにされる。方法はグループから強制的に退会させる「ライン外し」や、グループに1人だけ残して別のグループを立ち上げる方法などがある。外される不安感からメッセージ交換が長時間に及ぶこともあり、「LINE疲れ」で寝不足に陥る中高生も少なくないという。
喜怒哀楽などを示す「スタンプ」と呼ばれるイラストが充実しているのもLINEの特徴だが、これもいじめに発展する。安川氏は「誰かが『スタンプ、空気読めてないよね』と言っただけで外されることもある。とにかくささいなことで外される」と話す。
自殺した橿原市の女子生徒の友人によると、女子生徒は無視されたグループから「KY(空気が読めない)でうざい」と言われていたという。女子生徒は「私、彼女たちに何かしたんかな」と外された理由が分からず悩んでいた。
LINEがどこまで女子生徒を追い詰めたのかは分からない。ただ母親(44)は言う。「LINEがあるから家でも気が休まらなかったんだと思う」