JR東が2008年に発表した、軌道回路を用いない新しい列車保安システムATACS(Advanced Train Administration and Communications System)。実用化に向けた運用が、仙石線でまもなく始まります。従来の保安システムの動作は、車両と地上子との通信を基本に構成されていましたが、ATACSは、車両と基地局との直接無線通信を基本に構成されています。左右のレールを短絡することによる位置検出の概念、いわゆる「閉塞」という鉄道始まって以来のシステムが廃止される、革新的な出来事です。1961年に日比谷線で採用されたATCを皮切りに、1964年の東海道新幹線のCS-ATC。まもなく線路脇にある信号機は絶滅してしまうのであろうか。
ATACSの最大のメリットは、線路容量のひっ迫した過密路線での運行効率の向上。物理的に固定された閉塞区間や上限速度に縛られず、列車間隔および運転速度をぎりぎりまで最適化できる。かなり前からATACS導入が検討されていたJR中央線。ようやく高架工事が完了したが、「開かずの踏切」もこれがあれば多少は緩和されたかもしれない。ただ、元信号屋(自称)としては若干の不安も。世間の人は、人間はミスを犯すがコンピュータは完璧、という誤解をしている人がまだ少なくないのでは。そのコンピュータソフトを作っているのは「人間」であることを忘れてはならない。自らもソフトを開発している立場として一つだけいえることは、あのハドソン川へ不時着した飛行機の操縦。あんな緊急対応は、コンピュータ制御では100%実現できない。なぜなら、フライトマネージメントコンピュータのプログラミングをしているエンジニアのほとんどは、あんな状況を想定できるはずないから。最近つまらないシステムダウンで長時間運行停止に陥っている鉄道各社さん。本当の安全は、ハドソン川に着水できる判断力と操縦技術を持ったパイロットのような、熟練した列車乗務員があってはじめて確保できることをお忘れなく。連日の深夜残業で疲労困憊のソフトエンジニアには期待しないでください(^^;)。
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