埼玉県深谷市出身の渋沢栄一の生涯を描く大河ドラマ、
「青天を衝け」。明治以降を描く大河ドラマはいずれも
視聴率が低いというが、これはどうだろうか。
深谷市の隣り、行田市の老舗足袋工場の起死回生の物語、
「陸王」を書いた作家の池井戸潤が工場を訪れて写真を
撮るという新聞連載のシリーズがある。
渋沢栄一の血洗島の実家は藍農家。その藍を仕入れる
藍染め工場。今回の「池井戸潤が撮る日本の工場」は、
やはり深谷市の隣り、羽生市にある小島染織工業。
明治5年創業、約150年の歴史を持つ老舗工場である。
池井戸潤がここを訪れるのは、実は2回目。「陸王」で
老舗足袋工場の工員たちが羽織った半纏はここで織られ
たのである。
距離的にも近いから、渋沢栄一の実家の藍を仕入れて
いたのかも知れない。古い、今にも崩れそうな小島染織
の工場の中、これも古いシャトル織機は壊れても部品は
ないから、部品を作る機械も残しているのである。
この話を池井戸潤は「陸王」の老舗足袋工場に取り入
れたという。
何回か前のこのシリーズで、池井戸潤はオメガやロレッ
クスを凌駕するという高級時計の「グランドセイコー」の
雫石の組立て工場を訪れた。
面白いことに「グランドセイコー」は、信州の塩尻と、
岩手の雫石の両方で組み立てられる。
セイコーエプソン(旧諏訪精工舎)が塩尻で、第二精工
舎の流れを汲むセイコーインスツルが雫石という訳である。
我が父が戦前の精工舎で時計を組み立てた後、独立して
時計店を開業したので、直径2~4センチの薄い空間に
ギッシリと詰め込まれた歯車群やゼンマイを分解し、再び
組み立てる姿をよく見ていた。
軸受はルビーなどの宝石で、そこに載る歯車の芯の先は、
まさにミクロンの世界である。眼窩に拡大鏡を挟み、電気
スタンドの灯りの下、黙々と組み立てる父の姿を、池井戸
潤の写真の中に見た気がする。
塩尻と雫石の工場同志、切磋琢磨して「世界一」の高級
時計を組み立てるのである。
この「工場を撮る」シリーズ、面白い。
心待ちしていた近所の趣の好い梅が咲いた。そして木蓮
(最初のアップの時、木瓜と書いてしまったので訂正)
も咲き始めた。