アフリカに債務危機懸念──中国が「わな」を仕掛けたのか、批判は妥当なのか
中国の習近平国家主席とザンビアのエドガー・チャグワ・ルング大統領(2015年)
アフリカ諸国の債務水準に対する懸念がじわり浮上している。とりわけ国際社会から厳しい視線が
注がれているのが、アフリカ諸国への融資を大幅に増やしている中国だ。
ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は2018年末の講演で、「中国はアフリカ諸国を自身の
意向や要求に無理やり従わせるため、債務を戦略的に利用している」と、中国による「債務のわな」を
批判した。
中国のせいかどうかはともかく、サブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)各国のバランスシートは
確かに急激に悪化している。国際通貨基金(IMF)が2018年10月に公表したサブサハラに関する地域
リポートによると、同地域の2018年の累積債務見通しは域内総生産比率で48.5%と、2010~15年の
31.0%から大きく上昇。低所得国の上限とされる40%を超える。アンゴラやモザンビーク、ザンビアなど
13カ国が60%以上に達する見込みで、英シンクタンクの海外開発研究所(ODI)は「サブサハラ諸国の
約4割が債務危機に陥るリスクにある」と警鐘を鳴らす。
債権回収へ電力会社乗っ取り?
ボルトン氏は講演で「債務のわな」に捉われた象徴的な国として、ザンビアとジブチを挙げた。
特にザンビアについては、「中国向け債務が現在、60億~100億ドルに達している。中国は債権を
回収するために、ザンビアの電力・公益事業会社を乗っ取ろうとしている」と主張した。
ロイター通信によると、ザンビアの大統領報道官はボルトン氏の発言に関して、「そのような政府高官から
そんな情報が出てくるとは、残念なことだ」と否定。電力会社を対中国債務の担保として差し入れておらず、
ザンビアの対外債務残高97億ドルのうち、中国向け債務は31億ドルにすぎないと反論した。
それにしても、中国からの借金は全体の3分の1に上るのだが。
ザンビアが国営電力会社を中国融資の担保として差し入れる用意をしているとの報道を、ザンビア当局は
繰り返し否定している。しかし、そんな臆測がなかなか消えないのは、中国の対アフリカ融資の実態が、
いまひとつよく分からないためでもある。
深い霧の中で一つの道標となっているのが、米ジョンズ・ホプキンズ大学の中国アフリカ調査イニシアチブ
(CARI)がまとめた統計だろう。それによると、中国の対アフリカ融資総額は2000年の時点では
1億3000万ドルに過ぎなかったが、2012年以降は年間で常時100億ドルを超えるようになり、16年には
300億ドルに達した。
その軌跡は、習近平・中国国家主席肝煎りのシルクロード経済圏構想「一帯一路」で西の端に位置する
アフリカへの関与を、中国がこのところ強めてきた状況と重なる。2015年、南アフリカ・ヨハネスブルクで
行われた「中国アフリカ経済フォーラム(FOCAC)」に際して、中国は600億ドルの対アフリカ支援を
表明している。
資源国にも、非資源国にも融資
CARIの統計を踏まえると、中国が最も資金を注いでいるのがアフリカ西部の産油国アンゴラだ。
2000~17年、中国のアンゴラへの融資総額は428億ドルに上り、全体(1433億ドル)の3分の1に及んだ。
IMFによると、アンゴラの累積債務は2018年見通しでGDP比80.5%と、2010~15年の37.2%から
大幅に増加。IMF理事会は昨年末、財政健全化や構造改革と引き換えに、アンゴラに対して最大37億ドルの
金融支援を承認した。
中国が世界的に資源確保に奔走しているのはよく知られた話で、アフリカでも資源を担保とした融資を
大々的に行っている。ただ中国の融資対象は、世界屈指の銅生産国ザンビアや、アフリカ第2位の産油国
アンゴラといった、資源大国ばかりではない。
アフリカ東部のケニアは石油や鉱物資源に乏しいが、旺盛な内需を背景に、ここ数年は5~6%の高成長を
遂げている。タンザニアやウガンダなど東部6カ国で構成され、地域統合を進めている東アフリカ共同体
(EAC)の中核国という地政学的な重みもある。
そんなケニアでは2017年、中国の支援を受け、首都ナイロビとインド洋の港湾都市モンバサを結ぶ
標準軌鉄道が開通した。開通自体は誠にめでたいのだが、その結果、ケニアが受け入れた2国間融資のうち、
3分の1が主に鉄道事業に伴う中国からの借り入れとなった。IMFは、ケニアが抱える累積債務が
GDP比率で2010~15年の45.9%から、18年には56.1%へ上昇すると見込んでいる。
活発な資金調達も債務増の要因に
ただアフリカ諸国の債務増は何もボルトン米大統領補佐官が「利己的な慣行」とする中国の融資ばかりが
要因ではない。2008年に深刻化した金融危機とその後の景気低迷に対応するため、日米欧の主要中銀が
相次いで異例の金融緩和を実施。世界的な「カネ余り」状態となる中、サブサハラ諸国は2010年以降、
国際金融市場でのドル建て債発行を通じ、多額の借り入れを行ってきた。
サブサハラの順調な経済成長や社会的な安定が、投資家の関心を引き寄せたと言える。
何よりも「援助から投資へ」という言葉の下、アフリカ投資が国際金融市場で一種のブームとなっていた
ことも見逃せない。IMFの地域リポートによれば、サブサハラ諸国による国際金融市場での起債は、
2018年上半期だけで総額138億ドルと、17年通年の76億ドルを大きく上回った。
2018年末にIMFの金融支援を仰いだアンゴラでさえ、同年5月に30億ドル、7月にも追加で5億ドルを
市場から調達していた。5月の起債では、3倍の応札があったという。市場のアフリカブームが、各国の
財政当局を大いに甘やかしていた側面は否めないだろう。ちなみに、勢いに乗って借り入れた各国債務の
償還期限のピークは、2019~20年と24~25年に訪れる。
日本開催のG20やTICADで重要議題に
ケニアの開発エコノミスト、アンゼッツェ・ウェア氏は、南アフリカ国際問題研究所(SAIIA)が
2018年8月に公表したリポートで「国際資本市場は(利益重視で)視野が狭く、容赦ない見方に傾きがちで、
連続して起債すればコストも急上昇する。開発向け資金の良好で安定的な供給源とはなり得ない」と懸念する。
にもかかわらず、各国が国際金融市場への依存を深めるのは、アフリカ大陸のインフラ整備に要する
資金需要が膨大なためでもある。中国が「利己的」に融資をアフリカに押し付けているというよりも、
一帯一路の旗印の下、チャイナマネーがアフリカの資金需要を貪欲に取り込んだというのが実情だろう。
西側マネーのように、民主主義や人権の促進、透明性の向上、反腐敗などを口うるさく言わない
チャイナマネーは、アフリカ諸国にとって使い勝手が良い側面もあろう。中国が大量に資金を貸し込んでいた
アンゴラでは、2017年までドスサントス前大統領が40年近くも統治し、独裁体制を敷いていた。
アフリカ諸国は1990年代から2000年代にかけて、IMFと世界銀行が主導する債務減免措置で「身軽」になり、
順調な経済発展を遂げてきた経緯がある。ここに来て債務危機に陥ってしまっては、そんな好循環も
水泡に帰しかねない。6月の20カ国・地域(G20)首脳会議や8月のアフリカ開発会議(TICAD)といった、
今年日本で行われる主要国際会議ではアフリカの債務問題が重要議題の一つとなりそうだ。
もっとも、「国家債務の管理は、国際金融の世界ではIMFの仕事」(国際協力機構=JICA=関係者)。
ホスト国が単独でできることは限られるだろう。ただ、中国も巻き込み、資金の有効活用や債務の透明性
向上に道筋を付けるのは、それなりに意義深い。
中国側にもアフリカ各国の債務管理改善に向けた国際的な取り組みに参加するメリットはあろう。
ウェア氏は、「中国とアフリカ各国政府の融資取引で不透明さが続けば、アフリカの現地で中国脅威論を
台頭させてしまいかねない」と指摘している。
※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載