[ワシントン 13日 ロイター] - 米政府は13日、中国の新疆ウイグル自治区での強制労働や
人権侵害の深刻さを踏まえ、同自治区に関連する投資やサプライチェーン(供給網)から撤退しない
企業や個人は、国内法に違反する高いリスクを負う恐れがあると警告した。
国務省や財務省、商務省、国土安全保障省、労働省、通商代表部(USTR)は連名で勧告文書を発表。
米国企業への警告を強化し、ウイグル自治区における中国政府の「膨大かつ拡大する監視ネットワーク」
に「間接的」にでも関与している場合、国内法違反と見なす可能性があると述べた。投資会社からの
資金援助も警告対象になるとした。
財務省は、中国による新疆や香港での弾圧を受けて米国が今週中にさらなる制裁を科すとした英紙
フィナンシャル・タイムズ(FT)の報道について、コメントを控えた。
事情に詳しいある関係筋はロイターに対し、米政府が新たな制裁措置を準備していると聞いているが、
時期についての詳細は不明だと語った。また、別の関係筋は、香港情勢が悪化していることから、
早ければ16日にも香港を対象とした同様の勧告が発表される可能性があると述べた。
今回の勧告文書は、中国政府が新疆ウイグル自治区やその他の地域で「ウイグル人、カザフ人、
キルギス人などイスラム教徒を中心とした少数民族を対象とした恐ろしい虐待」を続けていると指摘した。
中国は虐待疑惑を否定し、新疆の収容所については宗教過激主義に対処するための職業訓練施設だとして
いる。
USTRのキャサリン・タイ代表は、カナダやメキシコをはじめとする米国のパートナーや同盟国が
強制労働による製品の輸入禁止を約束したことを評価。声明で「同盟国が、公正でルールに基づいた
国際貿易システムにおいて、強制労働の存在する場所はないという明確なサインを送ったことを称賛
したい」と表明した。
国務省のプライス報道官は定例記者会見で、香港当局に法の支配の侵食に対する責任を引き続き追及し、
強制労働を含む人権侵害への責任を負う中国当局者らに制裁を課すと述べたが、新たな措置について
具体的には言及しなかった。
米政府は9日、ウイグル自治区での人権侵害疑惑とハイテク監視疑惑を理由に、14の中国企業・団体を
経済ブラックリスト(エンティティー・リスト)に追加した。
ウイグル問題で次の標的は太陽光パネル ユニクロの二の舞になりかねない日本企業の実名
2021年7月8日 ディリー新潮
ユニクロパリオペラ店
「西側」から排除
中国・新疆ウイグル自治区での人権問題をめぐり、ユニクロが米欧の制裁、司法措置の直撃を受けて
いる。米国の税関当局が新疆綿を使ったユニクロTシャツの輸入を差し止めたほか、フランスでは、検察が
ユニクロの仏法人を含めた関連衣料品4社の捜査を始めたと報じられた。容疑は、「人道に対する罪を隠蔽
したこと」だという。要は、中国が新疆ウイグル自治区で行っているウイグル人の強制労働による受益
疑惑だ。大手紙経済記者が説明する。
「米国は、経済や先端技術で覇権を争う中国への格好の攻撃材料として、人権問題を取り上げ、
より厳しく追及し始めました。これに、同じ危機感を持つ欧州連合(EU)諸国も同調しています。
告発、制裁の対象はすでにウイグル産の綿花から、トマトなど農産物、さらにはウイグルで製造される
太陽光発電パネル材料などに広がりつつある。今後は、“人権上の問題”が疑われる製品は、米欧を中心
とした『西側』から、どんどん排除されていくことになるでしょう。日本政府は、こうした西側と中国
との板挟みになっている日本の企業への影響は避けられないと警戒しています」
米国のトランプ前政権は、中国のウイグル人弾圧を「ジェノサイド(集団虐殺)」と認定している。
さらに、昨年末にはウイグルで国境警備と開拓を担う、中国の準軍事組織「新疆生産建設兵団」が、
拘禁や拷問という手段を用いてウイグル人の強制労働や再教育を進めていると断定し、兵団が関わる
綿製品の輸入を禁止した。1月に就任したバイデン米大統領も、対中強硬姿勢を引き継ぎ、新疆綿などを
排除し始めている。
捜査主導は“対テロ部門”
今回、輸入差し止めを受けたユニクロの運営会社ファーストリテイリングは、「製品に使っている
新疆綿は新疆生産建設兵団と関係がない」と主張。米税関・国境警備局(CBP)に輸出許可を申請して
いたが、CBPに「可能性を排除できない」と却下された。
「仏調査報道機関メディアパルトによると、仏検察は6月末、ユニクロのほか、ZARAを展開するスペイン
のインディテックス、米靴大手のスケッチャーズ、仏SMCPの4社に対しても捜査を始めました。
NGOの告発を受けた対応ですが、捜査を主導しているのは、検察の“対テロ部門”。仏検察が動いたのは、
中国が最先端技術で国際社会をリードし、新型コロナではワクチン外交で途上国への影響力を強めている
ことから、安全保障、国際関係を踏まえての、いわば国策捜査だからです」(前出経済記者)
米国とEUが「人権」で共闘し、対中圧力を強めることを確認し合ったのが、6月11~13日に
英コーンウォールで開かれた主要7カ国首脳会議(G7)だ。外交関係者はこう指摘する。
「G7ではウイグル問題を念頭に、『国際サプライチェーン(供給網)における強制労働の根絶へ連携を
強化する』という内容を首脳宣言に盛り込みました。これは、中国のウイグル人権問題に対する包囲網を
築くと宣言したようなもの。今後、米欧は人権問題に絡んだ製品の排除に突き進むでしょう」
そのため、これまでウイグル自治区で綿衣料の生産や調達を手掛けていた国際的な企業は、米欧と
中国の双方から経済的な「踏み絵」を迫られることになる。スウェーデンの衣料大手ヘネス・アンド・
マウリッツ(H&M)や米ナイキは、人権侵害に対する告発や禁輸といったリスクを避けるため、
西側につく姿勢を見せて新疆綿の利用を中止した。同じように日本企業では、アパレルメーカー大手の
ワールドやグンゼ、ミズノが新疆綿の使用の取り止めを表明している。
しかし、中国政府はウイグル強制労働問題をめぐり、「米国が誤った情報に基づき制裁している」と
強弁し、中国国内のインターネット上では「新疆綿の利用中止企業」への不買運動が拡大している。
その結果、例えばH&Mの2021年3~5月期決算では、中国向け販売が28%減の約16億クローナ(208億円)
となったという。
無印は新疆綿の利用継続宣言
逆に、海外売上高の半分近くを中国が占める「無印良品」の良品計画は、今年4月、
「(木綿の栽培過程について)第三者機関を現地に派遣し、昨年も監査を行っています。これまでの
監査において、法令または弊社の行動規範に対する重大な違反は確認しておりません」
と、事実上の新疆綿の利用継続宣言を出した。リスク管理に詳しい経営コンサルタントは、
「こうした姿勢は中国のネットユーザーから絶賛され、無印良品はH&Mのような不買運動を免れました。
当然、米欧の告発、禁輸の対象となる恐れはありますが、それでも、中国市場にシフトして、実を取る
という戦略を選ばざるを得なかったのでしょう」
西側と中国の駆け引きは今後、綿花だけではなく、ウイグルで製造される太陽光発電パネルなどにも
広がりを見せている。先述したG7首脳宣言では、人権上の問題取引が多い分野として、「農業、太陽光、
衣料品」が挙げられた。そして次の焦点となるのは、太陽光発電パネルに使われる「ポリシリコン」だ。
実際、米政府は6月下旬、ウイグルを拠点とする中国のポリシリコン製造大手を含めた5つの企業・団体が
強制労働に関わった疑いがあると、これらの太陽光発電パネル部材などの輸入を禁止した。
「太陽光発電パネルや半導体素材に使われるポリシリコンは、ウイグルで世界の半分近くが生産されて
おり、制裁が本格化すれば、日本の電機メーカーに及ぶ影響も甚大です。オーストラリアの安全保障
シンクタンク『豪戦略政策研究所(ASPI)』が昨年3月に発表した報告書では、ユニクロ、無印良品のほか、
ポリシリコンを念頭にウイグルの強制労働で受益している企業として日立製作所や三菱電機、ソニー、
東芝などが名指しされていました」(前出経済記者)
「日本の立場は厳しい」
大手電機メーカーはユニクロ同様、「直接の取引はないことを確認した」などと主張してきたが、
原材料の調達先がウイグルか否か、再確認が必要になることは必至だ。もっとも、こんな楽観論も
あるが……。
「米国の安全保障政策は突然変わることもありますし、気候変動対策で太陽光発電パネルの需要が増して
いますから、『ウイグル製』を排除すれば、米国のエネルギー企業からも不満が出るはずです。
行き過ぎた政策として、どこかでブレーキがかかることも考えられます」(経済産業省幹部)
とはいえ、ウイグル人権問題への対応を強めるG7のメンバー国では、未だに日本だけが中国の人権侵害
に対する制裁に加わっておらず、ウイグル産品の排除に慎重な日本企業も少なくない。外務省関係者は、
「米中摩擦、対立が水面下で激化している中、ウイグル製品や産品を排除する動きが落ち着くとは思え
ない。日本が置かれた立場は厳しい」と顔を曇らせている。