ミャンマーは民族浄化をしていない スーチー氏独占インタビュー
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2017年04月6日 BBC
ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問は、同国西部ラカイン州でイスラム教徒の少数派ロヒンギャに対する人権侵害が相次いでいることについて、民族浄化ではないとの認識を示した。BBCとのインタビューで述べた。
スーチー氏は、民族浄化という言葉は「表現が強すぎる」と指摘し、国外に一時避難したロヒンギャの人々が住んでいた場所に戻ろうとするなら喜んで受け入れると語った。
インタビューで同氏は、「民族浄化が行われているとは思わない。今起きていることを言い表すのに民族浄化は表現が強すぎる」と述べた。
さらに同氏は、「多くの敵対行為があると思う。当局と協力しているとみられたイスラム教徒がイスラム教徒に殺されてもいる。あなたが言うような民族浄化ではなく、人々が分断されていて、我々はその溝を狭めようとしている」と語った。
ミャンマーはロヒンギャの人々を隣国バングラデシュからの不法移民だと考えており、国籍が与えられていない。公的な場での差別は頻繁に起きている。
2012年に起きた戦闘を逃れた多くのロヒンギャの人々が難民キャンプでの生活を余儀なくされている。
昨年10月に起きた国境警備隊への組織的攻撃で警官9人が殺害されたことを受け、軍はラカイン州で軍事作戦を開始。約7万人がバングラデシュに逃れた。
国連は先月、ミャンマーでの人権侵害の疑いについて調査すると発表した。軍がロヒンギャを無差別に攻撃し、強姦や殺人、拷問を行っているとして、非難の声が上がっている。ミャンマー政府は人権侵害を否定している。
スーチー氏がロヒンギャをめぐる問題について沈黙していると受け止められたことで、ミャンマーの軍事政権に長年抵抗してきた同氏の人権運動の象徴としての評判が傷ついたと多くの人々は考えている。
ロヒンギャ問題をめぐり、スーチー氏に対する国際的な圧力は高まっている。
しかし、今年初の単独インタビューとなった今回、スーチー氏は自らについて、マーガレット・サッチャー(故人・英首相)でもマザー・テレサでもないものの、政治家だと語り、ロヒンギャ問題については以前から質問に答えてきたと指摘した。
「ラカインで前回問題が起きた2013年にも同じ質問を受けている。彼ら(記者たち)が質問して私が答えても、人々は私が何も言わなかったと言う。単純に人々が求めているような発言をしなかったからだ。人々が求めていたのは、私がどちらかの共同社会を強く非難することだった」
スーチー氏は昨年10月の攻撃がなぜ起きたのか全く分からないとしながらも、ミャンマー和平の取り組みを阻害しようとする動きだった可能性を指摘した。同氏はさらに、ミャンマー軍がしたいようにふるまえるわけではないと語った。
しかし、スーチー氏は政府が依然として国軍に対する統帥権を取り戻そうとしていると認めた。現行の憲法では、国軍は政権から独立している。
スーチー氏は「彼ら(国軍)に強姦や略奪、拷問することは許されていない」とした上で、「彼らは出動して戦うことはできる。憲法にそう書かれている。軍事的なことは軍にまかされている」と述べた。
インタビューで同氏は昨年3月末に政権についてからの成果も強調した。
道路や橋の建設、電線の敷設への投資が、政権が最優先課題に挙げる雇用創出に役立ったほか、医療サービスも改善した。自由選挙も実施されるようになった。
政権がこのほかに取り組んでいる優先課題には、内戦状態がほぼ途切れることなく続いているミャンマーの和平実現がある。
また、軍事政権時代には国籍の取得を拒まれてきたロヒンギャの人々に市民権を与えようとしている。
近隣国に逃れたロヒンギャの人々についてスーチー氏は、「戻ってくるならば、彼らは危害を加えられない。決めるのは彼らだ。一部の
人々は帰ってきた。私たちは歓迎しているし、これからも歓迎する」と述べた。
ミャンマーは民族浄化をしようとしている=国連当局者
2016年11月25日 BBC
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の幹部は24日、ミャンマー政府が同国内に住むイスラム教徒の少数民族ロヒンギャの民族浄化をしようとしていると非難した。
ミャンマー国境に近いバングラデシュのコックス・バザールにあるUNHCR事務所のジョン・マキシック所長は、西部ラカイン州で軍がロヒンギャの人々を殺害しており、多くの人がバングラデシュ側に避難していると語った。
ミャンマー政府は、国境近くで先月起きた組織的な攻撃を受けて、制圧作戦に乗り出している。政府は残虐行為は起きていないとしている。
政府の広報官は、国連当局者の発言について「非常に、非常に残念」と述べた。
政府関係者は、ラカイン州北部でロヒンギャの人々が自分たちの家に火をつけていると語った。政府がジャーナリストや人道支援団体の現地入りを許可していないため、BBCの取材班は実際に何が起きているのか確認できていない。
ロヒンギャ虐殺はあったのか ミャンマー
ミャンマーの多数派を占める仏教徒たちは、約100万人いるロヒンギャの人々を、バングラデシュからの不法移民だと考えている。
バングラデシュは違法な越境を認めていないものの、同国外務省はすでに何千人ものロヒンギャ族がバングラデシュ領内に避難してきていると認めた。加えて多くの人が国境近くに集まってきているもようだ。
マキシック所長はBBCのアクバル・ホサイン記者に対し、ミャンマー国内の根本的な問題の解決に焦点が当てられるべきだと語った。
マキシック所長は、先月9日に9人の国境警備隊員が殺害されたことを受けて、軍や国境警備隊が「少数者のロヒンギャたちに対し、集団的な処罰をしている」と述べた。一部の政治家は隊員たちの殺害はロヒンギャ族による犯行だと主張していた。
所長は、治安部隊が「男たちを殺し、銃撃し、子どもたちを殺し、女性に暴行し、家を焼き、略奪しており、人々に川を渡って(バングラデシュ)国境に越えさせようとしている」と語った。
マキシック氏は、「バングラデシュ政府が今、国境を解放すると言うのは非常に難しい。なぜならミャンマー政府がイスラム教徒の少数派の民族浄化をするという究極の目標を達成するまで、残虐行為を続けて追い出そうとするのを、さらに促すことになるからだ」と述べた。
ミャンマー大統領府のザウ・ハティ報道官は、マキシック氏は「単なる疑惑で物を言っている」として、「国連当局者としての立場や倫理を維持すべきだ」と語った。
バングラデシュ外務省は23日にミャンマー大使を外務省に呼び、ラカイン州での軍の行為について「深く懸念している」と伝えた。
外務省は「追いつめられた人々」が安全な避難場所を求めて国境を越えているとし、国境が守られるよう求めた。
バングラデシュ当局は、何百人ものロヒンギャの人々を拘束し、ミャンマーに送還しており、人権団体のアムネスティー・インターナショナルは国際法の違反だと非難している。
アムネスティーによると、バングラデシュ政府はミャンマーから逃げてきたロヒンギャ族を難民とは認めておらず、多くの人々は「隠れ住むことを余儀なくされ、食料や医療サービスの深刻な欠如に悩んでいる」。
バングラデシュには、早くは1970年代からロヒンギャ族の難民が流入し始めた。コックス・バザールにあるクトゥパロングとナヤパラの2つの難民キャンプには3万3000人の難民が登録されている。
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は先週、ミャンマー内のロヒンギャ族の村々で、過去1カ月半で1200以上の住居が焼かれたことを示す衛星写真を公開した。
アウン・サン・スー・チー氏はどこに? ジョナ・フィッシャー特派員
ノーベル賞受賞者でもあるアウン・サン・スー・チー氏は微妙な立場にある。ミャンマーの事実上の指導者だが、治安は自律的な軍が管理している。
もし、スー・チー氏が国際的な圧力に促され、ラカイン州で起きているとされる暴力についてきちんとした調査を開始すれば、軍との関係が悪化するリスクがある。まだ発足したばかりの政権の安定を脅かす可能性がある。
このためスー・チー氏は過去1カ月半、全く目をそむけ、ジャーナリストらを避けて、記者会見も開いてこなかった。
コメントを余儀なくされた際には、軍はラカイン州で「法の支配」に基づいて行動していると語った。それが本当だと考える人は少ない。
海外での非難は高まっているが、大部分のミャンマー人はロヒンギャ族に同情的ではない。軍による「暴力的な攻撃」に対する「制圧作戦」には人々の強い支持があって、国内ではスー・チー氏に行動を求める圧力は非常に弱い。