韓国で広がるアフリカ豚コレラ感染......南北境界線の一般開放を中断
<韓国でアフリカ豚コレラが確認され、非武装地帯(DMZ)の一般開放が相次いで中断されるなど、
その影響が広がっている......>
韓国で豚肉の価格が上昇している。韓国北部の京畿道坡州市や漣川(ヨンチョン)郡、仁川の江華島で
アフリカ豚コレラが確認され、農林畜産食品部は1万頭あまりの殺処分を決定し(6万頭以上の殺処分
予定ともいう)、一時移動停止命令を発令した。発症地域の観光行事が中止や縮小に追い込まれるなど、
影響が広がっている。10月9日以降は、新たな発症は確認されていないが、当局はなお危険な状況に
あるとして防疫に力を注いでいる。
東アジアで感染が報告されていないのは日本と台湾のみ
アフリカ豚コレラ(ASF)は豚やイノシシのウイルス性感染症で、40度から42度の高熱や食欲不振、
起立不能、嘔吐、皮膚出血などの症状が現れる。人体には無害だが、有効なワクチンはなく、
致死率は100%近い。1912年にケニアで発見され、英国の獣医病理学者モンゴメリーが
African Swine Fever(アフリカ豚コレラ・ASF)と命名した。
ASFは1957年にポルトガルとスペインに上陸し、2007年に黒海沿岸のジョージアで確認された後、
ロシアにも拡がった。2018年8月には中国で発症が確認され、100万頭を越す豚が殺処分された。
2019年5月、北朝鮮で見つかり、韓国でも確認されたいま、東アジアで感染が報告されていないのは
日本と台湾のみとなっている。
2019年9月17日、京畿道坡州市にある養豚場で発症が見つかったのを皮切りに、仁川江華島など
計13箇所で感染が報告された。韓国農林畜産食品部は、全国の養豚場や飼料工場、出入り車両などに
移動制限を発令し、京畿道、仁川市、江原道の重点管理地域に消毒車両303台を投入して関連施設や
主要道の消毒を行った。発症が確認された養豚場から半径3キロ以内にある施設などおよそ600箇所で
精密検査を行い、命令に違反した車両3台を摘発している。
北朝鮮から韓国へ伝播した?
韓国への感染経路は明らかになっていないが、北朝鮮から伝播したという見方が有力だ。南北間の
流通はなく、国防部もイノシシなどが北から越境した例はないとしているが、南北国境の非武装地帯
(DMZ)で野生イノシシの死骸が発見されており、環境部はASFに感染したイノシシの死骸が
イムジン河を流れてきた可能性を指摘する。発症が国境に隣接する地域に限られているからだ。
北朝鮮の畜産業は、公式には国営と農業協同組合の共同畜産だが、個人副業が少なくないと専門家は
指摘する。飼料の供給不足で国営や協同農場の生産能力が大きく落ちており、当局が個人畜産を
推奨しているというのだ。
牛は中央が管理するが、豚は個人飼育が可能で、豚1頭でコメ100キロを入手できる。農村はもちろん、
多くの都市でベランダや便所などで育てられており、個人副業が北朝鮮の市場で取引される豚肉の
80%から90%を占めるとさえいわれている。有名無実化した衛生管理制度のもと、非衛生な環境で
育てられた豚から感染した野生のイノシシが、DMZやイムジン河を通って越境入国した可能性が
高いのだ。
南北国境の非武装地帯(DMZ)の一般開放を相次いで中断
国防部は9月19日以降、「DMZ平和の道」の一般開放を相次いで中断した。文在寅大統領と金正恩
朝鮮労働党委員長が板門店で会談を行った一周年を記念して2019年4月27日から行っているツアーで、
京畿道庁がある水原市も10月に開催している「水原華城文化祭」の実質的な中止を決めるなど、
京畿道を中心に行事の縮小や中止が相次いでいる。
「9・19平壌共同宣言」一周年記念式典も縮小して実施された。北朝鮮は2019年2月以降、韓国との
対話や一切の要請に応じていない。韓国政府は単独で国境近くの坡州・都羅山(トラサン)駅一帯で
平和行事を行う予定だったが、アフリカ豚コレラの影響から開催地をソウルに変更し、100人規模まで
縮小した。
消毒と防疫を推進しても、感染源を断たない限り収束することはない。有効な対策は北朝鮮国内の
消毒や環境改善と鴨緑江や豆満江など中朝国境の防疫で、南北協力は必須だが、北朝鮮側が応じる
可能性は期待できない。国防部は非武装地帯(DMZ)にヘリコプターを投入し、10月4日から防疫作業を
実施した。イノシシの越境を防ぐ以外に対策がないのである。
2017年の韓国人1人あたり豚肉消費量は24.5キログラムで、13.3キログラムの鶏肉や11.3キログラム
の牛肉を大きく上回る。拡大防止に農林畜産食品部や国防部が取り組むいっぽうで、感染した豚は流通
しないから危険はないということなのか今のところASFに対する市民の反応はあまり大きくはない。