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新興国大揺れ、アジアといえども免れない災難。 90年代の危機と異なる事情、夢見た「デカップリング」は今・・・

2018-10-03 10:05:40 | インド・東南アジア・中央アジア

新興国大揺れ、アジアといえども免れない災難

90年代の危機と異なる事情、夢見た「デカップリング」は今・・・

2018.9.28(金) The Economist
 

インドのナレンドラ・モディ首相(2018年7月31日撮影、資料写真)

経済成長率は高いのに、為替相場と株式市場が急落している。

 通貨を防衛する手段はたくさんある。

 アヤム・ゲップレ・ジュアラという、フライドチキンを細かく砕いた料理を出すインドネシアの

レストランチェーンは今月、当日に米ドルを売ってルピアを買った証拠を見せることができた客には

食事代をタダにするサービスを始めた。


 ロイター通信によれば、こうした「ルピア戦士」にはすでに80食以上が提供されたという。 


 このサービスはインドネシア銀行(中央銀行)の職員にも提供するべきかもしれない。

実際、このチェーンの店には同行から20分も歩けばたどり着ける。


 インドネシア銀行はルピアを防衛するために外貨を大量に売却している。今年1月には1250億ドルを

超えていた外貨準備高が、8月には1120億ドルを割り込んだほどだ。


 こうした外貨売りと、5月以降で4度に及ぶ利上げにもかかわらず、ルピアの対ドル相場は年初来

ほぼ10%下落しており、1997~98年のアジア金融危機以来の水準に戻ってしまっている。


 インドルピーの下落率はさらに大きく、対ドルレートは過去最低の水準に落ち込んでいる。


 またアジアの通貨が安定している国・地域でさえ、株式市場が揺らいでいる。香港のハンセン指数は

1月後半から9月12日にかけて20%下落し、「弱気相場」入りの一つの定義を満たした。中国本土の

株式市場も不振にもがいている。

 火星旅行から戻ってきた人がこの惨状を見たら、アジアで何かとてもひどいことが起こったに

違いないと思うだろう――。証券会社CLSAのクリス・ウッド氏はこう語る。


 だが実際には、アジアの新興国は見事な経済成長を謳歌(おうか)しており、消費者物価も安定している。


 トルコやアルゼンチンに匹敵する、甚だしい貿易赤字と財政赤字をセットで抱えているのは

パキスタンだけだ。そのパキスタンでさえも、トルコのような2ケタのインフレには苦しんでいない。


 インドの第2四半期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比で8%を超えている。


 インドネシアの成長率は5%を超えていた(この水準はほぼ常に達成している)。中国の成長率も

6%を超えている(こちらは常にそうだ)。

 

第3四半期になって幅広い国や地域で成長が減速するとの予想もない。


 確かに、貿易戦争は中国と香港の景況感に水を差している。しかし中国の対米輸出は8月になっても、

まだ13%を超える伸びを示していた。


 業界団体の国際金融協会(IIF)によれば、中国・広州で開かれた見本市「広東フェア(広州交易会)」は

ここ6年で一番の盛況だった。米国の顧客の多くは、明らかに、幅広い品目に追加関税が課せられる前に

買い付けを済ませたがっている。

 

 また中国の近隣諸国、特にベトナムは、「難民」を受け入れることで貿易戦争に勝てると考えている。

ここで言う難民とは、追加関税を免れるために中国を脱出する製造業者のことだ。


 インドとインドネシアには旺盛な内需という強みがあるため、貿易戦争からおおむね守られている。

しかしその強みゆえに、原油高と、米国の容赦ない金融引き締めという2つの危険にさらされている。


 インドによる過去5カ月間の原油輸入額は前年同期のそれを50%以上上回っている。

一部の予測によれば、今年度(2019年3月期)の経常収支の赤字幅はGDP比3%に拡大する恐れがある。

インドネシアの経常赤字も同様に増える可能性がある。


 外国人投資家が鷹揚なムードに浸っているのであれば、経常赤字を外国から流入する資金で埋めることも

容易だろう。

しかし、今はそういうムードではない。米国の金利が上昇するにつれ、新興国市場は投資をしてもあまり

報われない、おまけに比較的危険な投資先だという印象を持たれてしまっている。


 インド政府はこれに対応すべく、外資の流入を促しながら外国製品の輸入を抑えるために税制と規制の

調整を行っている。

例えば、「マサラ債(国外で発行されるルピー建ての債券)」の利金への課税を一時休止すると発表した。

また、不要不急の品物については、何が該当するのか具体的に示されていないものの、輸入を抑制すると

決めている。


 インドネシアでは、政府が国有企業に対し、輸入した燃料を国内産パーム油から抽出した

バイオディーゼル油で薄めるよう奨励している。

また大型のインフラ整備プロジェクトの実行を延期したうえに、香水、ぬいぐるみ、トマトケチャップなど

1000を超える品目で関税を引き上げている。「ルピア戦士」といえども生活上の犠牲は免れないのだ。


 理論的には、こうしたその場しのぎの措置は、変動相場制を採用しているこの2国では必要ないはずだ。

貿易赤字が持続不能な水準にあれば、通貨が下落して自動的に輸入を抑え、輸出を奨励すると考えられる

からだ。


 この理屈に従えば、インドルピーとインドネシアルピアの下落は、この下落を反映した問題を最終的には

解決することになる。

しかしインドネシアは、ルピア安になると外貨建て債務の維持が難しくなることを心配している。

外貨建て債務の残高はGDP比約28%と、トルコやアルゼンチンに比べればはるかに少ないものの、無視する

わけにはいかない規模だ。

また、大手銀行HSBCのジョセフ・インカルカテラ氏によれば、ルピア建て国債の約40%は外国人投資家が

保有しており、このことが「大きな資金流出リスクをもたらしている」という。

インドネシアの中央銀行がインドよりも速いペースで利上げを進めてきた理由の一つはここにある。


 また、どちらの国も、通貨の下落がさらなる下落を呼ぶことを恐れている。


 2013年にルピア安と戦った後、インドネシアのチャティブ・バスリ財務相(当時)は、為替が

急落すれば1997年の通貨危機の記憶がよみがえり、投資家のパニックにつながっていただろうと述べていた。 

その2013年に見られた相場の動揺は、米連邦準備理事会(FRB)による余計な発言の後に生じた。

資産の買い入れを近々減らすかもしれないとにおわせたことで米国債利回りが急上昇し、新興国市場が混乱。

米国の弱々しい景気回復も脅かされたのだ。FRBは結局、その立場を明確にし、姿勢を軟化させた。


 最近の米国債利回りの上昇はこれとは異なる。

金利上昇は、気前のよい法人減税も手伝って景気が力強く拡大していることを反映している。

だから今回は、FRBが利上げを考え直すと期待する理由がほとんどない。米国は新興国市場の痛みを

感じていないのだ。


 アジアは長らく、米国からの「デカップリング」を夢見てきた。世界最大の市場である米国が

不調なときでも、繁栄を続けられるようにするためだ。

ところが今では、米国が苦しんでいないのに、アジアは苦しい状況に陥っている。

しかもその理由の一つは、米国が苦しんでいないことにある。