太陽LOG

「太陽にほえろ!」で育ち、卒業してから数十年…大人になった今、改めて向き合う「太陽」と昭和のドラマ

「大都会 闘いの日々」#24 急行十和田2号

2019年02月17日 | 刑事・探偵モノ


新米記者の九条(神田正輝)にそろそろ一本立ちの機会を与えようと、
キャップのバクさん(石原裕次郎)は少女売春の実態を取材し連載記事を書くよう命じる。

暴力団の息のかかった東金商事に、水商売や芸者として売り飛ばすために少女を騙して連れてくる役目のスケコマシを
紹介してくれと直球取材する九条。
呆れつつも四課の丸山刑事(高品格)の口利きならと、新宿のイナケンこと稲田健一(川谷拓三)を紹介された九条は
さっそく彼に会いに行く。




新聞記者から取材を申し込まれ、戸惑いつつも顔を出さない約束で応じるイナケン。
九条から乞われ上野駅で少女たちに声をかけるところを見せるが、その日はことごとく不発に終わる。
彼が気に入っているのは青森発急行十和田2号。
その乗客でイナケンが簡単に騙せたという少女の話を聞いた九条は、彼女に会わせてくれと頼みこむ。

元々どこか人のよさそうなイナケンですが、若い記者が自分を頼り記事にしようとしているのをどこか喜んでいるようす。
喫茶店で最初に会った時、生クリームたっぷりのいちごアラモード?を食べるイナケンに対し九条はコーヒーゼリーでしたが、
次に行った時にはイナケンと同じものを食べていました。

彼女に会わせてくれと言われ当初の話と違うと断るイナケンですが、九条が自分の飲みかけの水を頓着なく飲み干すのを見て
思わず尋ねる。
「にいちゃん、あんた人間の種類にはあんましこだわらないタチなの? 堅気じゃないモンに対してもさ」

「わかんないです」
ぼそっと答え黙々と弁当を食べる九条を見てイナケンは態度を軟化し、彼女に自分の正体を明かさぬ条件で会わせてくれる。
人たらしで海千山千のスケコマシを、記者になりたての愚直な若者がたらしこんだ瞬間ですw

このあたりの空気感は、キャスティングの勝利と言えるかもしれません。
憎めないスケコマシに拓ぼんこと川谷拓三さんはぴったりですし、九条の堅さとまっすぐな感じは
不慣れな神田さんが無我夢中でやっているからこそ説得力があると思います。

そして、九条の前に現れた初代(坂口良子)。

か、かわいい…!

可憐な初代の気の毒な生い立ちと、騙されているのも知らずイナケンへの信頼と感謝の気持ちを聞くうちに、
そんな彼女を売ろうとしているヤクザに怒りを抑えられない九条。



「悩むなとは言わん、怒るのも結構。だがな、ブンヤってのはその怒りを記事に書くんだ。
それが俺たちの正義感ってもんじゃないの?違う?」
ボス、いやキャップの言葉は厳しくも温かく、新米記者の胸に刻み込まれます。
昭和の職場では、だいじなことはすべて屋上で学んだのでしょうか。


いよいよ伊香保温泉に芸者として売られていく初代。
出発の前の晩、初代が作った焼きそばを食べるイナケンが、畳にこばした麺を取ろうと屈んだときに見えた初代の脚に
発情して襲いかかる場面の目の表情が巧いです。いつもは丁寧な口調なのが急にぞんざいになって、ふだんとは違う
イナケンの一面が垣間見られました。

翌日上野駅で初代に弁当を買ってやり伊香保まで送っていく途中で、だんだんと初代に情が移っていくイナケン。
冬から編んでいた靴下を夏になった今くれる初代。お守りをくれる初代。
大切にしている金魚と鉢植えの世話を頼み、自分をお兄ちゃんができたみたいだと言ってくれた初代。



おそらく家族との縁も薄く生きているであろうイナケンにとっても、自分を信じ頼ってくれる初代は妹のように可愛かったのでしょう。
伊香保に着き、改札の外で迎えのヤクザの姿を見たイナケンは、ついに自分の正体を明かし、初代に逃げるよう告げる。
驚きショックを受けながらも一緒に逃げてとすがる初代を、イナケンは東京で合流すると約束しヤクザから逃がす。

初代を逃がしたことがバレて、イナケンは組織から追われ暴行を受けた挙句、刺されて死んでしまう。
イナケンに言われ九条に電話してくる初代。たぶん自分が行けない可能性が高いと覚悟し、九条に託したイナケン。
友情とまではいかなくても、このふたりのあいだにも何らかの情のつながりができていたんでしょうね。



身よりもなく、東京でひとりぼっちの初代を不憫に思い、とりあえず今夜は自分のところで面倒をみようと
妹の恵子に電話をする黒さん(渡哲也)。
このときの黒さんが、ぶっきらぼうながら優しさがにじみ出ていて大好きです。
恵子の声は聞こえないんだけど、電話のむこうの様子が目に浮かぶようで、渡さん巧いよなあと思います。

そして、実はバクさんも奥さんに初代の面倒を頼んでいた!
黒さんが恵子に頼むのを聞き、奥さんに「やっぱさっきの話はなし」と断るバクさん。
面倒見の良さが嘘っぽく見えない、裕次郎さんと渡さんの説得力。さすがです。


「大都会」はレギュラー陣の豪華さが、あらためて観るととんでもなく贅沢ですが、
ゲストも毎回素晴らしいです。
特に今回の川谷拓三や坂口良子は、このふたりがいたからこその物語になったと思います。

描かれていないイナケンの生い立ちにまでも思いを馳せてしまう拓ぼんのお芝居は、
45分のドラマとは思えない深みと余韻を残してくれました。
おふたりとも50代の若さで亡くなってしまったのが本当に惜しまれます。


【本日の衝撃】

徹夜で記事を書き上げる九条。彼のモノローグで本編が終わるのですが、記事を読んでいる態で語られているとはいえ
けっこうな棒読みで驚きます。

しかし、そんなことを吹き飛ばす衝撃がイナケンが23歳だったということ。
当時拓ぼんは30代半ばだったはず。実年齢でよかったんじゃないか?

23歳といえば九条と同年くらいですよね。いやいやいや、見えない見えない。

昭和の刑事ドラマなどでは、たびたび容疑者や被害者が見た目よりも若い設定で驚かされますが、
なかでもイナケンはダントツでした。