2014.9.29
『火のように さみしい姉がいて』
at シアター・コクーン
http://www.siscompany.com/ane/
作 清水邦夫
演出 蜷川幸雄
出演 段田安則/大竹しのぶ/宮沢りえ/山崎一/平 岳大/
満島真之介/西尾まり/中山祐一朗/市川夏江/
立石涼子/新橋耐子/さいたまゴールドシアター
■魅力的な演者たち
清水邦夫の作品。
初演(1978年)、再演(1996年)を経ての再々演ということになるのか。
再演の蟹江敬三(男)/樫山文枝(男の妻)/松本典子(中ノ郷の女)を観ているのだが、当時一緒に観劇した人が言うには、今回よりも男を中心にすえた演出だった、と。
私も蟹江さんの演技がとても印象に残ってはいるのだが、今回の作品も、「二大女優の初共演」という宣伝文句はあるものの、女優たちががっぷり四つに組んだというよりも、段田さん扮する役者の男を間に、あくまで、夫と妻、姉(と思われる女)と男の絡みが濃厚な演出だったように思う。
「二大女優初共演」というなら、もっと二人が正面切ってぶつかる芝居を今後期待したい。
とはいっても、それが不満だったわけではなく、芝居の内容も役者たちもステキに輝いていたことはたしかだ。
虚と実の世界を行ったり来たりして危なげな役者を演じる段田。『オセロ』をはじめ、シェークスピアの芝居のセリフを朗々と披露するときのオーラと、フッと戻される現実の中での弱さや戸惑いであらわになる本質のギャップが、自然にこちらに見えてくる。
宮沢りえの心地よい高さの声質と凛として立つ姿の圧倒的な美しさ。映像ではなく舞台にあがることが定められた運命なのかもしれないとこちらに強く思わせる何かがたしかにある。元女優として、虚実の中をさまよう夫と芝居のセリフを交わす場面では、いっそうの輝きがあった。
そして大竹しのぶ。宮沢りえが陽の部分で輝くとすれば、ここで大竹しのぶに課せられるのは陰の裏側の輝きと言えるか。いつもの他を圧倒する迫力の演技というよりは、セリフ以外の表情や目の強さや、宮沢りえ扮する元女優の真逆をいく田舎の疲れた女の匂いを、不気味に漂わせる。第一幕では拍子抜けするほど見せ場を持たないのだが、第二幕では、一転、私たちの目をくぎ付けにし、最後は鋭い視線で床屋の商売道具のナイフを研ぐ凄みを見せる。
平岳大ら脇をかためる演者一人ひとりが光る。田舎の住人のそれぞれの迫力が小気味よい。
毒消しのおばばたちを演じるさいたまゴールドシアターの迫力は本当に魅力的で見ごたえがあった。ちょっと感動してしまった。
■虚と実
楽屋の鏡、故郷の床屋の鏡が、虚と実を行ったり来たりする主人公、あるいは芝居の進行を象徴しているのか。
観ている私は、男やその妻、床屋の女(男の姉?)のセリフに左右されて、誰の言うことが事実なのか混乱してくる。精神的にバランスをくずしている男の不安定さから、彼の混乱は認めつつも、男の妻をも取り込もうとする田舎の住人たちの狡猾さ、偏りも見えてきたりする。
その不可思議な様子を、役者の演技、言葉、ときにシェークスピアの台詞、鏡を象徴とする舞台装置、舞台の奥行きを利用した効果的な舞台展開、日本海沿岸の土地柄を彷彿とさせる雪、毒消したちの行脚・・・、それぞれが絡み合って高めていく。
最後の救いようのない「悲劇的な」結末さえ、そう、転地療養として訪れた事実さえ、もっと疑れば男の尾根の存在さえ、虚の匂いをさせながら目の前を漂っている感じ。
湿った地方での過去は近親相姦の事実をほのめかせ、芝居をもっと深く見知らぬ世界へと進めていく。
余談ですけど、これだけの役者をそろえて蜷川演出となると、チケット代は1万円前後。芝居好きだけではなく一定の年齢層に限られてしまう。
これって、どうにかならないのかなと、いつも思ってしまう。
(ちなみに、私たちはコクーンシートから、隣の人との阿吽の呼吸で、多少身を乗り出したりして観劇していました)
若いときには歌舞伎座の幕見席を利用していた私にとって、よほど「絶対に観たい!」と思わない限り、1万円のチケット代のために清水の舞台からは飛び降りられない。だって、つまんなかったら、「損した!」ってなりそうだし(本物の芝居ファンではないな・・・)。
若い人たちならなおさらだろう。R25は3000円とか・・・、そういうサービスがあれば、蜷川演出を観ることもできるだろうに。
★今後が楽しみな「猫屋台」
http://www.1101.com/nekoyatai/
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