劇場版「業火~」の後日談です。もちろん盛大にネタバレ注意です。
事件の数日後、阿笠邸。
月の光に輝くような赤みがかった茶色い髪の少女の前に、白いマントを翻し怪盗が音もなく降りたった。
颯爽と少女の前に歩み出でると、「月下の奇術師」と称される怪盗はおもむろにシルクハットを取る。そして、
「ごめんっ!オレが悪かったって」
先ほどまでの気障な気配をかなぐり捨てたかのように必死に謝り始めた。
「私に謝ってもしょうがないでしょ」
憐れをも誘うばかりのキッドの涙目の謝罪にも、哀は容赦なく背を向け取りつく島もない。
「ごめんよ~。まさか博士があんなに向日葵を見たがってるとは思わなかったんだって」
「ごめんじゃ済まないわよ。博士、すっかり落ち込んじゃって、ヤケ食いが止まらないのよ」
ため息とともに向けられた哀の視線の先にはテーブルに積まれたドーナツやクッキーの包みがあった。
「うわっ。アレは酷い。………ってかヤケ食いも俺のせいなの?それに結局あんな騒動になったんだし行っても見れなかったじゃん」
「あんな騒動?貴方がそれを言う訳?」
と哀がジロリと睨まれてあわてて再び謝るキッド。
「あ、いや、その………ごめんなさい」
「………まあ、今回のことは貴方は絵を守ろうとしただけだしね」
背中の真っ白なマントをしょんぼりと丸めて小さくなっているキッドに哀は苦笑を零す。
「ありがとう!おれ、絶対埋め合わせするよ!」
「期待しないで待ってるわ」
部屋に招き入れると、さっきまでの落ち込みようとは打って変わって嬉しそうなキッドの姿に哀は肩をすくめた。
「………それにしても、あの絵を守るためとはいえ無茶をしたものね」
芳しい香りを楽しみながら紅茶を楽しんでいた哀がカップを置きそう呟いた哀に、尤もとばかりにキッドは深く頷いた。
「ホントだよ。さすがに今度ばかりは名探偵も死んだかと思ったよ」
「バカね。貴方のことよ。ウメノさんの話は江戸川君から聞いたけど、でも絵を守るためならもっと他の方法もあったでしょうに」
ジト目を向ける哀の視線を受けながら、言葉とは裏腹にあの時浮いてこないコナンを心配するあまり思わず
『工藤くん…』
と絞り出した哀の声を思い出す。本来ならば決して口に出してはいけないその名前を呼んでしまうほどコナンを思い取り乱した哀の姿に小さく胸の痛みを覚えたが、それは敢えて気のせいだと思い込むことにして
「まあね~」
わざと明るい声で返して子どものようにテーブルにあった博士のドーナツを頬張った。
「でもさ、思い出の絵にだけでも合わせてあげたいじゃん。……本当に会いたい本人には、もう会えないんだからさ…」
ふいにキッドがふわりと傍に置いてあったシルクハットを取り上げ愛おしそうに撫でた。
「………そうね」
そう答えながら哀ももう繋がらないどこかを見つめるように電話器に視線を送る。
しばらく黙っていたキッドの前にすっとクッキーの乗せられたお皿が置かれる。花びらが放射線状に広がるその形はまさに向日葵のそれだった。
「………ウメノさんの向日葵を無事に守ったご褒美よ」
そう照れたように横を向く哀にキッドは嬉しそうに破顔した。
映画を見たときにキッドと哀ちゃんにお互いの視点から語ってほしいなあ、という願望です。ウメノさんと哀ちゃんとキッドはある意味で同じ思いを共有できる三人なんですよね。
事件の数日後、阿笠邸。
月の光に輝くような赤みがかった茶色い髪の少女の前に、白いマントを翻し怪盗が音もなく降りたった。
颯爽と少女の前に歩み出でると、「月下の奇術師」と称される怪盗はおもむろにシルクハットを取る。そして、
「ごめんっ!オレが悪かったって」
先ほどまでの気障な気配をかなぐり捨てたかのように必死に謝り始めた。
「私に謝ってもしょうがないでしょ」
憐れをも誘うばかりのキッドの涙目の謝罪にも、哀は容赦なく背を向け取りつく島もない。
「ごめんよ~。まさか博士があんなに向日葵を見たがってるとは思わなかったんだって」
「ごめんじゃ済まないわよ。博士、すっかり落ち込んじゃって、ヤケ食いが止まらないのよ」
ため息とともに向けられた哀の視線の先にはテーブルに積まれたドーナツやクッキーの包みがあった。
「うわっ。アレは酷い。………ってかヤケ食いも俺のせいなの?それに結局あんな騒動になったんだし行っても見れなかったじゃん」
「あんな騒動?貴方がそれを言う訳?」
と哀がジロリと睨まれてあわてて再び謝るキッド。
「あ、いや、その………ごめんなさい」
「………まあ、今回のことは貴方は絵を守ろうとしただけだしね」
背中の真っ白なマントをしょんぼりと丸めて小さくなっているキッドに哀は苦笑を零す。
「ありがとう!おれ、絶対埋め合わせするよ!」
「期待しないで待ってるわ」
部屋に招き入れると、さっきまでの落ち込みようとは打って変わって嬉しそうなキッドの姿に哀は肩をすくめた。
「………それにしても、あの絵を守るためとはいえ無茶をしたものね」
芳しい香りを楽しみながら紅茶を楽しんでいた哀がカップを置きそう呟いた哀に、尤もとばかりにキッドは深く頷いた。
「ホントだよ。さすがに今度ばかりは名探偵も死んだかと思ったよ」
「バカね。貴方のことよ。ウメノさんの話は江戸川君から聞いたけど、でも絵を守るためならもっと他の方法もあったでしょうに」
ジト目を向ける哀の視線を受けながら、言葉とは裏腹にあの時浮いてこないコナンを心配するあまり思わず
『工藤くん…』
と絞り出した哀の声を思い出す。本来ならば決して口に出してはいけないその名前を呼んでしまうほどコナンを思い取り乱した哀の姿に小さく胸の痛みを覚えたが、それは敢えて気のせいだと思い込むことにして
「まあね~」
わざと明るい声で返して子どものようにテーブルにあった博士のドーナツを頬張った。
「でもさ、思い出の絵にだけでも合わせてあげたいじゃん。……本当に会いたい本人には、もう会えないんだからさ…」
ふいにキッドがふわりと傍に置いてあったシルクハットを取り上げ愛おしそうに撫でた。
「………そうね」
そう答えながら哀ももう繋がらないどこかを見つめるように電話器に視線を送る。
しばらく黙っていたキッドの前にすっとクッキーの乗せられたお皿が置かれる。花びらが放射線状に広がるその形はまさに向日葵のそれだった。
「………ウメノさんの向日葵を無事に守ったご褒美よ」
そう照れたように横を向く哀にキッドは嬉しそうに破顔した。
映画を見たときにキッドと哀ちゃんにお互いの視点から語ってほしいなあ、という願望です。ウメノさんと哀ちゃんとキッドはある意味で同じ思いを共有できる三人なんですよね。
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