◇「シンバル」を使わないドラム・ソロの魅力
ともあれ、少年のドラム修行にとってジャズ系の「デューク・エリントン」、「ライオネル・ハンプトン」、それに「ジョージ・ケイツ」という3楽団のドラム奏法(ドラミング)は、とても参考になりました。ことに「ジョージ・ケイツ楽団」の「2小節」や「4小節」のドラム・ソロは、コンパクトな中に “洗練されたキレ” と “豊かな創造性” を感じさせるものであり、“脱エレキバンド・ドラム” を目指していた少年の、その後のドラミングに大きな影響を与えたのです。
特に惹かれたのは、「シンバル」類を使わないところでした。つまりは、何枚ものシンバルを、これでもかと叩きつける “うるさい” ドラム奏法(ドラミング)ではなかった点です。「バスドラ」「スネアドラム」「タム」三者のコンビネーションによる、“落ち着きと品位 ”をもった ドラム・ソロでした。そのとき体感したリズムやビート、そしてテンポは、ほぼ半世紀を経た今も、筆者の身体にはっきりと刻み込まれています。
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当時、日本人ドラマーとしては「白木秀雄」氏や「ジョージ川口」氏に人気があり、ときどきテレビで観ることができました。「フランキー堺」氏や「ハナ肇」氏のドラミングも二、三度観た記憶があります。白木氏については、高校卒業の1966年夏、「後楽園」の野外ステージで実際のプレイを観ました。ステージの一番前に、ドラム・スティックを持った何人もの若者が陣取っていたのが印象的でした。氏のスティックに合わせながら、自分のスティックを叩き、そのドラム奏法のテクニックを盗み取っていたのです。
◇『テイク・ファイブ』のドラム奏法の美しさ
確かに、上記「4人のドラマー」のドラミングやドラム・ソロは迫力があり、「ドラム少年」が遥かに及ばないテクニックを駆使していました。しかし、それを凌駕したのが、前回、「視聴動画-1」でご紹介した「ディヴ・ブルーベック・カルテット(Deve Brubeck Quartet)」の「テイク・ファイブ(TAKE FIVE)」であり、「ジョー・モレロ」のドラム演奏です。
結論的にいえば、それは少年にとっての“究極のドラム演奏”でした。聴けば聴くほど、そして研究すればするほど、ジョー・モレロが叩き出すドラミングに心を打たれ、その崇高な“音楽性” と、テクニックを超えた “芸術性” に打ちのめされたような気がしたのです。これを会得するには、“人間としての成長や芸術家と呼ばれる確たる何かがなければならない” という漠然とした想いが、少年の心に湧き起こっていました。
今回、ほぼ半世紀ぶりに『テイク・ファイブ』を繰り返し聴き込み、またジョー・モレロのさまざまなドラミングを「動画」によって “観聴きした” とき、そのことをいっそう痛感しました。
◇「ドラムス」とは「太鼓」なり
それでは、まず「視聴動画-3」をごらんください。『ジョー・モレロの「テイク・ファイブ」のドラム・ソロ」』となっています。演奏スタイルは、「スネアドラム」と「バスタム」それに「小タム」の3つを「手」で叩きながら「ドラム・ソロ」をしているシーンが大半です。もちろん、この「ドラム・ソロ」は、本シリーズ「初回」の「視聴動画―1」の演奏時のものではありません。
前半は一切「シンバル」類を使わず、ひたすら「ボンゴ」を叩く要領で、「手と指だけの「ドラミング(ドラム奏法)」を駆使しています。途中から「スティック」(いわゆる「撥(ばち)」)をもって通常のドラミング(ドラム演奏)を行うわけですが、それでも「ハイハット」以外の「シンバル」類を使うことなく、「ドラム」に固執した演奏を続けています。まさに“ストイックなまでにシンバル類を排し”という言い方がぴったりしているでしょう。
なお「ハイハット」とは、左足で踏み続ける「小さなシンバル」が2枚合わさった形のものです。上下2枚の「シンバル」が、開いたり閉じたりしているのが見えると思います。
さて、この「ドラム・ソロ」は、いろいろなことを教えており、“JAZZの本質”に迫るものではないかと筆者は考えています。
第1に、「ドラム」の本質は間違いなく「太鼓」であること。
第2に、「ドラム・セット」は、このようなシンプルな構成で充分であること。
第3に、ことに「シンバル」は極力少なくすること。 [続く]
◆視聴動画-3:ジョー・モレロの『テイク・ファイブ』のドラムソロ(1961年)[2:32]
★ ★ ★ 次回予告 ★ ★ ★
次回は、2月25日 午前0時にアップいたします。
この日は、『JET STREAM』の初代機長・城達也氏の命日です。
「哀悼記事」を、2回に分けてお届けしたいと思います。