『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・『山脈をのぼるきもち』:演劇ユニット「」―(下)

2013年11月12日 02時20分33秒 | ●演劇鑑賞

 

  ある夜――。「書き置き」を残して出て行こうとするB――。気づいたが顔を出し、残高300万円の通帳と印鑑をに渡す。とはいえ、『40万円だけ』しか貸さないと念を押し、通帳と印鑑を送り返すように告げるのだが……。男二人の友情と同情と寛容さは少しも損なわれてはいない。は、「借りた金」は5年あるいは7年後に……と曖昧な返事をする。 

   これがであればどうだろうか。言うまでもなく、自分にとって“何の意味も価値もない”に、ビタ一銭貸すことはないだろう。もそのことを百も承知であるからこそ、(恋人)の元を去ったといえる。もっともは、仮にが大金を持っていたにしても、から借りようとはしなかっただろう。

  の遁走を何事もなかったかのように受け止めている。気にするそぶりもなければ、話題にすることもない。

  に向かって、「煙草に火を点ける」よう促す女――。実際(現実)の火”が「煙草」に点される。その瞬間、照明が落ちて「終幕」となった

   も『自分にとっての、自分の山脈をのぼる』のだろうか。そいういう『……きもち』に入りつつあるというのだろうか。この劇自体を象徴的に物語るシーンであり、終幕に相応しい印象的な演出、そして照明操作だった。

       ☆   ☆   ☆

  ……と、以上はあくまでも筆者個人の感想にすぎません。説明を判り易くするため、あえていろいろなものを「削ぎ落とし」たわけですが、細部を語り始めると、とてつもない連載となるでしょう。

  芝居としては、「」、「」という「2組の男女」の恋愛感情も織り込まれているのでしょうが、その感じ方のニュアンスは千差万別です。「の友情」もテーマの一つと受け止めた方もあったと思います。

   ともあれ、期待に違わずいい舞台でした。3人という登場人物に、ゆったりとした物語の進行。微塵も「フラッシュ暗算化」の怖れがありません。そのため、役者個々の台詞や演技をじっくり楽しむことができました。筆者がこの舞台を「3回」にも分けて論じることができるのも、“観客としてのこころの余裕”によるものでしょう。

  それにしても、「」役の「酒井絵莉子」嬢。昨夏の「立ち上げ公演」でも、不思議な存在感がありました。二十歳そこらで、すでに「をんな」という「存在そのもの」を熟知しているかのようです。「役回りや演技」というだけで、あのように「」、そして「をんな」を演じることができるでしょうか。

  この12年余、筆者は九州大学をはじめ、西南学院大、福岡大学等「演劇部」の女子学生諸君を数多く観てきました。今でもいくつかの舞台を想い出すことがあり、何人かの演技の表情や声などが甦って来ます。

  その意味において酒井嬢は、筆者個人というより、多くの観劇フアンの記憶に残り続けることでしょう。そう考えると、彼女を演劇ユニット立ち上げのパートナーとして選んだ「浜地泰造」(「A」役)氏に触れないわけにはいきません。

  同氏についていえば、その飄とした表情や演技は、地味でありながらも「テント小屋」デヴュー当時から独特の個性を放っていたようです。ある年の学祭「テント小屋公演」のとき、筆者は氏の才能を感じ、感想文にそのような内容を記したように記憶しています。 

      ☆

  その泰造氏の今回の演出――。およそ「借金まみれ」などには無縁に見える「」役の「丸尾行雅」氏。その“掴みどころのない”茫洋としたキャラクター。それを活かしながら、うまく「」と「」に対峙させた「演出家」としての力量は評価されるでしょう。

  筆者は、今回の公演に友人で「アドリブログ」(当ブログ「ブックマーク」)の管理人セラビ―氏を誘いました。昨夏の「立ち上げ公演」にも誘い、今回が4回目です。今では彼は、紛れもない「演劇」ファンとなっています。専門の「ジャズ評論」にも活かせることでしょう。

      ☆ 

  演劇ユニット「 」(かぎかっこ)。 “入り”の は、酒井嬢であり、“締めくくり”の は泰造氏を意味しているのかもしれません。そんな二人が、今後その 「 」 の中にどのような芝居を役者を、そして演出を包みこんでいくのでしょうか。楽しみはこれからも続くようです。(了)

 


・学生演劇の公演案内―2013年12月分

2013年11月09日 21時34分27秒 | ○福岡の演劇案内

 

  今年最後の12月分の公演案内です。「西南学院大学」と「福岡大学」の公演が、ともに13日・14両日と完全にかぶっています。この時機、筆者自身個人的な行事が重なり、とても両校の作品を観ることは難しそうです。いえ、ひょっとしたらどちらも……ということも……。

  今回、両校が採りあげた作品は、いずれもプロの「脚本・演出家」である「成井豊」氏のもの。成井氏といえば、豊富な読書量と、ブログ更新の“マメさ”に圧倒されます。ちょっとのぞいてみてください。

  ◆成井豊公式ブログ

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  以下、両校の「公演のご案内」ですが、必ず「各校の公式ホームページ」をご確認ください。また「公演の予約」等につきましては、各校の「公式ホームページ」からお願いします。

 

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  ★西南学院大学演劇部 2013年 冬季定期公演★

  クロノス

●作:成井豊  ●演出:高木理咲子

●日時/平成25年1213日(金) 18:30                   

               14日(土) ①13:00 ②18:00

●会場/西南学院大学 西南会館3階 大集会場
 
●観劇料/前売り券:200円  ・当日券:300円

 あらすじ 住島重工の下請け会社、P・フレック。 ここの開発三課では、人々には内緒で、物質を過去に飛ばす機械、「クロノス・ジョウンター」を作っていた。 そこに勤める研究員、吹原和彦。 地味で内気で優柔不断で、見かけによらず大酒飲みで... そんな彼には中二の頃から想いを寄せる女性がいた。 しかし、その女性は、とある事故によって帰らぬ人となってしまう。 愛する人を救いたい━━━ そのために彼が選んだのは、自分を過去に飛ばすことだった!

 今冬、西南学院大学演劇部が贈るのは、時空を越えたラブストーリー。

  ◆西南学院大学演劇部公式ホームページ

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  ★福岡大学学術文化部会演劇部・第64回秋季単独公演

  『風を継ぐ者

● 作:成井豊、真柴あずき  演出:瀬戸愛乃

●日時/平成25年1213日(金) 18:30              

                14日(土) ①13:00 ②17:30

●会場/福岡大学構内有朋会館3階大ホール

●観劇料/無料

  ◆福岡大学演劇部公式ホームページ

 

 


・『山脈をのぼるきもち』:演劇ユニット「」―(中)

2013年11月07日 22時16分31秒 | ●演劇鑑賞

 

  唐突に始まった「男二人」と「」との三人生活。 は一人甲斐甲斐しく掃除機をかけ、部屋を片づけ、そして洗濯機をまわしている。ありふれた日常行為を淡々とこなしていく――。二人の男の食事の世話もしているのだろう。母性や感覚・感性に導かれたと言えなくはない。

  だが事実は、“今ここにある現実を本能的に受け止めよう”とする“の割り切りのよさ”というもの。男二人に対する配慮でもなんでもない。自分が「掃除をしたいから……、洗濯をしたいから……」、ただそれだけにすぎない。何にも束縛されない生き生きとしたの表情であり、の本質が巧みに表現されている。

  もし以上の“甲斐甲斐しさ”をがするとなればどうだろうか。おそらく、『現実的なものは理性的であり、理性的なものは現実的である……』など、哲学者然として行動倫理・論理の正当性に浸っているだろう……。

  だが、“の登場”によってもたらされた“紛れもない現実”――。男二人に主導権を握られてしまったかのようだ。が来る前までの、男二人だけの生気や自由は感じられない。

  その一方、は「水蒸気の塊である雲」を、そしてその「雲」がかかる「山脈」を「のぼること」ができるかもしれないと呟くように語る。倫理も論理も価値観云々も何もない。の感覚・感性が、ごく自然にそう受け止めうるのだろう。男二人には到底できそうにもない。

  “山脈をのぼるきもち”……は、このメッセージに何を託そうとしていたのだろうか。『をのぼる』ではなく、『山脈をのぼる』とは……。山稜の連なりという漠たる宙空を「のぼる」。しかも「(のぼる)……きもち」という。男は、「をのぼる」ことはあっても、「山脈をのぼる」ことも「(のぼる)……きもち」になることもない。今回、久しぶりに「タイトル」に感心した。

        ☆

  ……余裕の表情を見せながら働き続ける総てを受け止めうる“大らかさ”とともに、の本質たる“即物性”を遺憾なく発揮し始める。 

  洗濯物を干しながら、それぞれの洗濯物に「名前」を付けようとする。同時には、のパンツにウンチが付いていたことを指摘する(この指摘はあとでも出てくる)。

  といっては、ことさらの身体を案じているわけでもない(無論、その気持がまったくないわけでもないだろうが)。“自分に関わる事実”を“事実”として確認しながら、今一度その意味するものを反芻しようとしているようだ。とはいえ、その“事実”は目の前の“確たる現実”を乗り越えうるものでなければならない。そうでなけば、にとっては何の意味も価値もない。その証拠に、借金まみれの恋人Bに関することは、ただのひとことも出てこない

  ここにも、としての“見切りの俊敏性”が生々しく描かれている。の“即物性”を象徴する台詞そして状況であり、存在感と言えるだろう。そうなると無論、の“居場所”などあるはずもない……。(続く)

         


・『山脈をのぼるきもち』:演劇ユニット「」―(上)

2013年11月04日 22時15分13秒 | ●演劇鑑賞

 

  昨3日夜、「学生演劇公演のご案内」でもご紹介した『山脈をのぼるきもち』:演劇ユニット「 」(カギカッコ)を観に行きました。

  脚本家・鈴江敏郎氏の作品を、今回の出演者の一人(男A)、浜地泰造氏が演出したものです。「男B」は九州大学2年の丸尾行雄氏、「」は酒井絵莉子氏。つまりは「男2、女1」の三人芝居でした。

  さっそく「物語」を見て行きましょう。

       ☆   ☆   ☆

  「」「」の男2人と「」。かって三人は、学生時代、友人関係にあった――。

  ギャンブルで「借金まみれ」となった。もはや「トンズラ(遁走)」するしかなく、同棲中の恋人に「書き置き」を残し、逃走資金を借りるためにのもとを訪れる。

  コツコツと地道に300万円まで貯めた。そのから50万円を借りようとする。「借りようとする」に「貸すまいとする」。他愛もない会話を織り込みながらの男二人の駆け引き。いや、“想念の遊戯”とも言うべきものが繰り広げられる。 “想像力”によって「水」を「酒」として愉しみ、火を点けないままの「煙草ふかし」といった児戯にも等しい……やりとり。それでも二人の男は、真剣に取り組んでいる。

  は、“何がなんでも貸すまい”とする態度ではなく、に対する友情と同情と寛容さを秘めてもいるようだ。“想念の遊戯”の中、「40万円」ならと……男二人は一応了解し合うが…。

       ☆   ☆   ☆

  そこへやってくる恋人。無論、「書き置き」を見、“捨てられた”との想いでを追って来たもの。の「立ち周り先」を、自分の共通の旧友Aの所と確信しての追跡だった。は、「学生時代の友人」という気安さもあってか、鬱積(うっせき)していた感情をの前でぶつける。 

  が自分を愛していると信じたい。しかし、を愛していないという。無論それは、に対するの“含羞(がんしゅう)”であり、一縷(いちる)の“思いやり”というものだろう。も薄々そのことに気づいてはいる。

  だが、「」と「男A・B」間に横たわるどうしようもないほど“大きななズレ”。男女間の感覚・感性や倫理・論理そして価値観の“違い”と言ってしまえばそれまでだが、所詮、この“違い”を乗り越えることなどできるわけがない。

  それに加え、男A・B間に纏(まと)いつく“微妙なズレ”。そのズレが、の登場、すなわち“の感覚・感性、倫理・論理、そして価値観”によって否応なく晒される。そのためは、今まで抑えていた感情を爆発させ、テーブルの物を床に投げ捨てる。は怯(ひる)むものの、は平然としている。

  に、床に落ちた煙草を拾うよう呼びかける。の世界の確たる行動倫理や論理が、二人の男のそれらを凌駕(りょうが)していることを物語っている。

  これを機に、奇妙な「三人の生活」が始まるのだが……。(続く)

 


・「九大祭」の「大テント演劇公演」のご紹介

2013年11月02日 07時21分03秒 | ○福岡の演劇案内

 

 「学園祭」の季節

 やって来ました深秋の候、「学園祭」の季節です。そして筆者にとっての「学園祭」と言えば「大学祭」のそれであり、「大学祭」といえば、「九大祭」ということになるでしょう。それは、以前、本ブログでも述べたように、筆者がかって住んでいたマンションが福岡市中央区の梅光園(ばいこうえん)にあり、そこから徒歩5分ほどのところに、「九州大学」の「六本松(ろっぽんまつ)キャンパス」があったからです。

 そして、この六本松での「九大祭のテント公演」こそ、筆者と「演劇」とを結びつける大きなきっかけの一つとなりました。この“いきさつ”については、本ブログの記事「テント小屋の学生演劇」(2009.11.28)をご覧ください。 

 筆者も、もちろん観に行きたいと思います。寒風対策を抜かりなく整え、できれば例年どおりの「かぶり付き」を……。

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 素晴らしいパノラマが広がるキャンパス……駐車場

 「九大・伊都キャンパス」は敷地が広大なため、訪問者用の「駐車スペース」もかなりあります。駐車できないのでは……という心配はまったくありません。ご安心ください。

 近頃「歩く」ことがめっきり少なくなっているのでは……という(?!)あなた――。「九大伊都キャンパス」の駐車場から「演劇」公演会場の「大テント(小屋)」まで歩いてみませんか? ん百メートルを歩くことになりますが、歩く距離の遠さも、それにかかる時間の長さもまったく感じないのです。目を見開いて、「卑弥呼の郷」……そして“知と未来”……の“まほろば”に広がる「光と風と緑」を堪能してください。“見えるもの”が、“あなたにしか見えないもの”があるはずです。

 ぜひ、一度「テント小屋」の「演劇体験」を……。できればご家族で……。

 

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  九州大学演劇部
 【2013年九大祭大テント公演】

◆公演日時…2013年1123日(土) ・ 24日()  「九大祭」当日

◆場所…伊都キャンパスセンタ1号館裏の白テント

  ◇九州大学伊都キャンパス交通アクセス案内図

  ◇九州大学伊都キャンパス内の案内地図

  ◇九州大学伊都キャンパスの案内動画(12:51)

 ◆料金…1公演観劇100

 

 上演予定作品(以下、全作品)

 1 『Baseball』

●作/演:石松紘宇 
●出演:丸尾行雅 秀島朱里 兼本峻平 白居真知 伊東雅史 小林佑 山本貴之
●公演:24日10:00~、17:00~

 あらすじ:「『野球?ボール投げて打つだけのスポーツでしょ?』いえいえ、その一球にも様々な駆け引きが行われています。
 真剣勝負です。これはそんな野球のお話。でももしかしたらただ青いだけのお話なのかもしれません。」

 2 『命名』

●作/演:若藤礼子
●出演:石川悠眞 田中斐佳 伊東雅史 八浪陽 長野真結
●公演:24日12:00~、15:00~

 あらすじ:「自分が自分として存在することができるのは、自分でない他者が存在するからである。
 ある年の晩夏に出会った博士が教えてくれた。過去の記憶、1番好きな花の異称…。
誰もが名前を与えられ、自分の人生を歩み始める。」

 3 『7人のイトウ』

●作/演:石川悠眞
●出演:小林佑 長野真結 兼本峻平 木下智之 白居真知
●公演:24日9:00~、14:00~

 あらすじ:「『ユウキ、それユウキが聞いたらきっと怒るよ?』『…は?何言ってんの?』
唐突に聞かされた自分と同じ名前の人の存在。妄想と、悪ふざけと、ちょっぴりの前進の物語」

 4 『小さくて大きな1つの家族』

●作/演:山本貴之
●出演:木下智之 白居真知 丸尾行雅 中村彩乃
●公演:24日11:00~、18:00~

 あらすじ:「少し未来の話。平和な家族にやってきた1つのボタン。
 笑いと涙と感動と、プレミアムロールケーキな毎日」

 5 『110~クリステルのなく頃に進撃の伊都から愛を込めてアルマゲドンに届け:Q~』

●作/演:木下智之
●出演:兼本峻平 石川悠眞 山本貴之
●公演:23日17:00~ 24日16:00~

 あらすじ:「少年は諦めない。囚われてなお足掻き続け、挑み続ける……そこに未来があると信じて。
 全てが終わった時、彼の目に映るのは希望か絶望か、彼の未来に光はあるのか。
 若き眼差しは前のみを見つめ進み続ける。」

 6 『深海』

●出演:若藤礼子 石松紘宇 木下智之
●作/演:白居真知
●公演:23日18:00~、24日13:00~

 あらすじ:「男が目を覚ますとそこは竜宮城。息子として接する見知らぬ夫婦。
 深い海の底で愛という名の玉手箱は男をどのように変貌させるのだろうか?