道元禅師の想い
文字どおり、“眼は横に、鼻は縦に(直に)” と読み、眼と鼻の “有り様(ありよう)” をそのまま表現している。意味は、“当たり前のことを、当たり前としてそのまま素直に受け止める” というもの。
この言葉は、中国での修行を終えて帰国した道元禅師(『一休の頓知問答』参照)が、その成果について語ったものとして知られている。
入宗した道元は、生涯の師である如浄(にょじょう)のもとで四年の修行を積んだ。だが彼が学び取ったものとは、つまるところ、“二つの眼は横に並んでついており、鼻はまっすぐ縦についている” ということであったと。
つまりは、そのことこそが “仏法の真髄” であるとする。
そのため、“経典など何一つ持ち帰ることなく、手ぶらで母郷(母国)に還って来た” と述べている。道元は、このことを、『空手還郷』(「くうしゅげんきょう」又は「くうしゅかんごう」) と表現した。
実際に道元が、一巻の経典も持ち帰らなかったかどうか、残念ながらそこまでは知らない。だがその真偽のほどなど、どうでもよいのかもしれない。
なぜなら、“当たり前すぎるほど” のことを、かくも “愚直なまでに平易” に言いきったことこそ、「禅語」あるいは「公案」的には、計りしれないほどの意味を持っているからだ。
第一に、道元が『眼横鼻直』と気づいたその瞬間、彼は“大悟した” のであり、道元一流の言い方をすれば、“身心脱落(しんじんだつらく)” したことになる。
第二に、洋の東西を問わず、人間存在の “表象” ともいえる「眼鼻」を、これほどまでに単純明解に言いきった哲人を私は知らない。
大悟の域の高僧すら遥かに及ばない“透徹した眼力” であり、的確に言葉を選び抜いた道元の “霊性” には “ただならぬもの” が感じられる。語ることさえ憚られるほどであり、これ以上の言葉は控えるべきかもしれない……。
★★★ ささっと…… ★★★
――ではわたくしが代わりに……。
ねえ? この『眼横鼻直』って言葉。横にすっと糸を引くような「切れ長」の「眼」をイメージしていないかしら? また鼻はまっすぐ、すっと高い方がいいってニュアンスがあるみたい。「縦」の字を避けて「直」の字を使ったところに、その気持ちが出ているように思うの。
それに前回の『喫茶去』にしても、わたくし的には、お茶を飲んだら「さっと立ち去る」という意味が断然好き。
……『新年会』でも『賀詞交歓会』でも、およそ「宴会」と名の付くものは、終わったら潔く……二次会、三次会とやらには、いささかも執着することなく……、さっと……、さっさと……帰る。
余計なことは、言わない……そしてしない……。ねえ? あなたもそう思うでしょ? ねっ!
えっ? 聞いてる? ね~え。 ……やだあ~。 眠っちゃったの?
こういうときだけは、さっと……ささっとって……わけなのね。
やだ、やだ。あたくしも、ささっと帰ろう…………。
★ ◎2020年11月30日 夜 加筆修正 花雅美 秀理