3大学の「新入生歓迎公演」
4月4日(土)の「西南学院大学」、同9日(木)の「福岡大学」、そして21日(火)の「九州大学」(伊都・箱崎キャンパス)と、3校の「新入生歓迎公演」の「舞台」を観た。
この時季、各校の「演劇部」は「新入部員募集」のための「舞台公演」を行う。そのため、上演作品は “親しみやすい作品” を選ぶようだ。今回は、「西南学院大学」を取り上げてみたい。
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「西南学院大学演劇部」といえば、何と言っても昨年の「新入生歓迎公演」の『decoretto』のインパクトが強い。このときの「秀島雅也」氏をはじめ、「平川明日香」嬢や「宮地桃子」嬢の優れた演技は、今でも印象深く甦って来る。ことに今回の「舞台」で「主役」を務めた宮地嬢については、その演技の上手さや感性の豊かさに驚愕したほど。そのことは、本ブログにおいてかなり力を入れて綴った。
さて、今回の『うちに来るって本気ですか?』(作:石原美か子)は、「田中里菜」嬢が「演出」している。作品内容は、“コミカルなファミリー劇” であり、娘2人に息子3人という「5人の兄弟姉妹」の青春の一端を捉えている。三十路目前の長女の「結婚相手」の訪問を巡る、“ややドタバタ調” の「喜劇」ということになろうか。
その長女〈縁(ゆかり)〉を演じたのが「宮地桃子」嬢。筆者としては、彼女の “コミカルな役” は初めてだった。彼女が「名優」であることは今さら言うまでもないが、他の役者諸君にしても丁寧な「役作り」をしており、演技には好感が持てた。
同大演劇部特有の「キャスト」と「スタッフ」のバランスがとれた舞台であり、いつもながらの “節度ある演出・演技”、そして “音響・照明の企画・操作” だった。これといった “欠点” も “矛盾” もなく、“安定” した「キャスティング」であり、また「スタッフ」の高い技術力と言えるだろう。
喜劇への“とまどい”?
しかし、そうではあっても “物足りなさ” が残ったのはなぜだろうか。といってそれは、「物語の内容」や「特定シーン」に「問題」があったわけではない。筆者がそのように感じた最大の理由は、「演出家」や「役者諸君」が、“喜劇というものにとまどっていたのでは?” という疑念だった。
この “喜劇への対応” というテーマは、「学生演劇部」や「アマチュア劇団」が抱える “大いなる弱点” と言ってよい。つまり、それだけ “コミカルな表現の課題” は懸念事項であり、筆者も一度きちんと話をしておきたいと思うに到った。とはいえ、この「課題」については「別の機会」に論じてみたい。
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客席指定は柔軟に
ついでといっては何だが、“もうひとつ” 気になったことがある。それは「観客」に対する「座席の指定」が、少し“固定化” しすぎるように感じられた点だ。「会場」左右の「列」の制限はある程度納得できるにしても、「通路」を挟んだ「前列」をそっくり「着席不可」としたのは、正直言って疑問が残った。
確かに、「舞台より後ろに下がって観る」方が、万遍なく全体を見通せるとの親心なのだろう。無論、その気持ちはよく判る。しかし、“生の演劇舞台” の魅力は、“どの「座席」(位置)から観て” も、それはそれで “観客自身が自己の視界の及ぶ世界” として “選択する” ものでもあるからだ。そこに、テレビドラマや映画では得られない、“生の舞台のダイナミズム” が、そして “その無限の変化を秘めた魅力” がある。
「座席制限」を「食材」に譬えるなら、『ここの部分はおいしくないので、お出しせずに廃棄処分にいたします』と言われているようなもの。しかし、“食通の客” にすれば、まさにその “廃棄処分の部位” を味わいたいのだ。
筆者は、「河豚の肝」を口に入れようとは思わないが、“舞台観客席の肝”は望むところだ。筆者にとっての “生の舞台” の魅力とは、極力、役者と接近した中で “役者の眼を中心とする顔の表情” をつぶさに観ることにある。「役者の眼や顔全体の表情」ほど、“役者が演技をしている部分” はないし、この「顔の演技」にこそ、役者の善し悪しのほとんどが言い尽くされている。
【キャスト】 ●御殿場家:宮地桃子(長女:縁)、鼻本光展(長男:太一郎)、桝本大喜(次男:真琴)、讃井基時(三男:忍)、古賀麻友香(次女:百子)、 ●岸川織江(蝮田聖巳)、井口敬太(相良不見夫)。
【スタッフ】 田中里菜(演出・宣伝美術)、高倉輝(助演・小道具・衣装メイク)、尾野上峻(大道具・照明)、讃井基時(大道具・照明・舞台監督)、瀬川聖(大道具・小道具)、桝本大喜(大道具・制作)、森健一(大道具・制作)、岸川織江(小道具・音響)、宮地桃子(小道具・衣装メイク)、古賀麻友香(小道具・照明)、新ケ江優哉(小道具・音響・宣伝美術)、加藤希(音響・照明)、花浦貴文(音響・照明)、井口敬太(音響・制作)、藤野和佳奈(照明・衣装メイク・制作)、鼻本光展(衣装メイク・宣伝美術)。 以上の諸氏諸嬢。
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※演劇ユニット「 」(かぎかっこ)の『人数の足りない三角関係の結末』の「演劇鑑賞」は、次回の「福岡大学」、次々回の「九州大学」が終了した後に予定しています。