電気通信視察団の数奇な経験談 その8 南米編(1)[イグアスの滝]
関東電友会名誉顧問 桑原 守二
電経新聞社企画による視察団はアジア、ロシア、中東、欧州、アフリカを歴訪し、8年目となる平成14年に南米を訪れた。後身に道を譲るため、私はこの年で視察団の団長を退任した。
南米の最初の訪問国はブラジルである。今年はサッカーのワールドカップがあったので多くの方がブラジルに行かれたが、10年前は飛行機で30時間ほどもかかる南米を訪れる人は少なかった。私は昭和60年、NTTが民営化された年に一度出張したことがあるので、2回目の訪問であった。
ブラジルの首都はブラジリアであるが、官庁組織があるだけで、リオデジャネイロが実質上の首都である。視察団はリオデジャネイロで日本総領事の高橋氏やドコモブラジル社長の森谷氏からブラジルの社会・経済事情や電気通信事情について話を伺った。
市内視察では世界最大というマラカナン・サッカー場を観光したが、椅子席13万という大きさには驚いた。1950年使用開始というから、日本はまだ戦後の混乱期に、こんなにも大きなサッカー場が建設されたのである。
ブラジルからチリへ行く旅程で世界遺産「イグアスの滝」を見にいくことにした。イグアスの滝はブラジル、アルゼンチン、パラグアイ三カ国の交点にあり、その幅4キロは世界一である。
サンパウロで飛行機を乗り換え、それから1時間のフライトで着く。私自身は昭和60年のブラジル訪問の折にも訪れており、2度目の観光である。副団長を務めてくれた足立邦彦氏も2年前に引き続いて2度目だという。さらに彼も私も、落差120メートルで世界一を誇るヴィクトリア滝(ジンバブエ)を訪れたことがある。それなのに2人ともナイヤガラの滝を見ていないのは奇妙な一致であった。
滝まで歩いていける距離にダスカタラタスというホテルがあり、ガイドブックに載っている。昭和60年のときはそこに宿泊したが、視察団の時は予約ができなかったとのことで、バスで10分ほど離れたホテルに旅装を解いた。ところが、たまたまポーランドの大統領がイグアスの滝の観光に来ており、滝のある国立公園に観光客を入れないとのことで、ホテルでしばらく待たされた。日の長い季節で、滝の観光に支障がなかったのは幸いだった。後になって、前述のホテルに泊まれなかったのもそのためだと聞かされた。
午後4時に観光が可能になったが、滝の大きさに驚いた団員が多かった。しかし私はヴィクトリア滝の迫力には敵わないとかねがね思っていたし、ナイヤガラ滝の方がもっと水量があって凄いと言う団員もいた。嘗てこの地を訪れたルーズベルト夫人が「かわいそうな私のナイヤガラの滝よ」と嘆いたというが、果たして本当の話であろうか分からない。
滝壷近くまで桟橋が出ていて、水煙につつまれながら滝を仰ぎ見ることが出来る。ここでポーランドの大統領一行と一緒になった。SPに囲まれた数人のうち、どれが大統領か分からないのであてずっぽうに写真を撮っていたら、私に握手をしてくれたのが大統領だった。私は日本の首相と握手をしたことはないが、外国の首脳ではサッチャー、コールに次いで3人目の握手であった。
イグアスの滝を背にして 右端が筆者、左から2人目は足立氏
なお、視察団は時間の余裕がなく行けなかったが、イグアスの滝の上流14kmのところ、ブラジルとパラグアイの国境にイタイプダムがある。ここに作られたイタイプ水力発電所は1984年の完成であるが、発電出力は1,260万キロワットで日本の原子力発電所10基に相当し、黒四の実に38倍である。2009年に中国の三峡ダムが完成するまでは世界1の規模を誇っていた。