2021年6月28日、神奈川県のとある森を散策していた僕は、不思議な形の幼虫を見つけた。
不思議な色に、ねじれた様な模様、隆起した体、そして尾角。
とても特徴的な見た目だったので、きっと珍しいだろうと調べたところ、とても珍しい虫に辿り着いた。
それが、スカシサンとの出会いである。
この虫が何故珍しいか説明していくと、この虫はサワフタギという草のみを食べて育つが、この草はさほど珍しくない。
生息環境は、高い木の下に生える半日陰の涼しい場所の食草を好む。後に説明するが、産卵数が少なく、産卵の習性も極端である可能性が高い。そのため、この蛾の個体数はとても少なく、見つけることは非常に困難である。
また、標高が低い平地には生息していないと思われる。
簡単に言えば、発達した現代のネットで調べても、わずか370件程度しかヒットしないほど希少な蛾なのだ。
まずは幼虫から見ていこう。姿はもちろん、行動から見ても森の隠者といった感じで、
撮影しているとゆっくり後ろに下がっていき、そのままの姿勢で固まってしまった。
かなり臆病そうな虫だったので、数枚撮ってゆっくりその場を離れた。
幼虫を見てから、僕は成虫を見たさにサワフタギを探すようになった。
食草はサワフタキの仲間のみを食べるが、サワフタギ自体はさほど珍しくないので、やはり生育環境が重要だと考えられる。
また、自分の生まれた木に近い地域には帰らず、離れた場所に産卵すると言われている。(諸説あり)
他者と競合しない食草を選び、人知れず森の中で暮らす、どこか古代生物のような雰囲気に魅力を感じていのだ。
この珍虫との次の出会いは以外にも早かった。
1年後の2022年8月1日、山梨県内の標高1600m付近の道路脇で、僕はいつも通り虫探しをしながらも、
道沿いに生えるサワフタギをチェックしていた時、サワフタギの葉上に蛾を見つけた。
それはキマダラツマキリエダシャクという、遠目で見るとスカシサンにも見えてしまいそうな蛾で、
見つけた瞬間は一喜一憂であった。そこから100m程歩いた道路脇で、クワコに似た蛾を見つけた。
その瞬間、僕は直感的にその蛾が何者か分かった。これこそが、この虫こそがスカシサンであると。
太い胴体、細やかで深い毛、ゆるやかな曲線の翅、緻密な斑紋と線、そして透かし窓と、何者とも似つかないこの姿に、
僕は地球の歴史と神秘を感じたのだ。他の虫や鳥たちからは、この柄はいったいどんな風に見えているのだろうか…
珍しいからこそあまり調査もされていない未解明な虫だけれど、僕はそのままそっとしておいてほしいと思う。
僕とて血眼になって探していたわけではなく、いつかの出会いを期待していたに過ぎないし、
次に会う時も、また運命的な出会いをしたいと思っている。
調査のために住処に分け入られることもない、人間に採集目的で狙われることもない、
人の魔の手が届かない、大いなる自然の中で自由に暮らしていてほしいと願う。
しばらく眺めていると、風に吹かれているうちにの体の向きがどんどん右に曲がっていった。
本人は何も考えていないだろうが、そんな姿も愛おしくて、僕はずっと眺めていた。
こんな風に時を忘れた体験を、僕はずっと大切にしたい。