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詩人の映画

2021-04-26 22:50:09 | 日記

ジム・ジャームッシュの『パターソン』は詩人の映画である。

登場する男は詩を書き続けている。

しかし、詩集は出していない。

「出版するべき」

と、中近東由来で、今はアメリカ国籍を得ている可愛い妻にいわれる。

普段は市バスの運転手をしている男が詩を書くのは、

朝、バスを動かす前、運転席に座ったほんのわずかなひとときのことだ。

何日かかけて一編の詩を編み上げる。

朝早く起きて、眠っている妻にキスをして、

シリアルを食べてバス車庫に向かう。

月曜から金曜まで、規則正しい日々を送る。

言葉を紡ぎ出すのは、夜、夕食が終わってから犬の散歩に出て、

犬を店の前に留め、

カウンターのいつも同じ席で一杯のビールを飲んでいる瞬間だ。

ジョッキに注がれたビールが半分くらい減ったとき、

男はその液体の表面を見て、

書くべき言葉をなんとなく、ぼんやりと、曖昧なままつかまえる。

そして、それをあたため持ち、翌朝ノートに書きつける。

男は2人の、詩を書く人と出会う。

ひとりは少女で、ひとりは日本人の、大阪に住んでいると思われる男だ。

著名な詩人たちの名前も登場する。

ロン・パジェット、ウィリアム・C・ウィリアムズ、フランク・オハラ、

ジョン・アッシュベリー、エミリー・ディキンソン、ケネス・コック、

そして、アレン・ギンズバーグ。

僕はこれらの詩人の詩集を持っていない。

男の妻は、カップケーキ作りがうまい。町のバザーに出すとよく売れる。

歌も好きで、ギターを買って「線路は続くよどこまでも」を練習する。

カントリー歌手になるのが夢だともいう。

そして、パッツィー・クラインの名前を口にする。

パッツィーは絶頂期を迎えていた30歳のとき、

航空機事故で亡くなったカントリー歌手だ。

1963年のことだが、

いまだにパッツィーのことを憶えているアメリカ人は多い。


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