泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

田村隆一詩集

2007-11-13 23:22:37 | 読書
 小説ばかり読んで、書いていて、詩に飢えたのでしょうか。
 詩が、本物の詩が読みたかった。詩に触れたかった。
 そこで探したのが、田村隆一。ある版元さんがおすすめしてくれたのもあり、荒川洋治が絶賛し、その死を悼んでいるのを知り、読みたくなっていた。
 書店を探しても、手ごろなのがない。読みたい読みたいと思っていて、自宅の本棚を整理していたら、なんとこの本が出てきた。そうか、僕はもう買っていたのか。失いつつある記憶力を嘆きつつ、かつてやはり欲した自分の感性に、ほっとしたりもした。
 そして・・・。最初の詩、『幻を見る人』から、冒頭を引用してみます。

空から小鳥が堕ちてくる
誰もいない所で射殺された一羽の小鳥のために
野はある

窓から叫びが聴こえてくる
誰もいない部屋で射殺されたひとつの叫びのために
世界はある

空は小鳥のためにあり 小鳥は空からしか堕ちてこない
窓は叫びのためにあり 叫びは窓からしか聴こえてこない

どうしてそうなのかわたしには分からない
ただどうしてそうなのかをわたしは感じる

小鳥が堕ちてくるからには高さがあるわけだ 閉ざされたものがあるわけだ
叫びが聴こえてくるからには

野のなかに小鳥の死骸があるように わたしの頭のなかは死でいっぱいだ
わたしの頭のなかに死があるように 世界中の窓という窓には誰もいない

 これが書かれたのは、戦後間もなくのこと。田村さんが兵隊としての赴任地から、実家の大塚に帰ると、そこは焼け野原だった。
 「荒地」という詩のグループがありました。田村さんが言っているのは、二回もの大戦で、私たちは何を失ったかということ。それは物でもなく、国でもなく、人の想像、創造ではないかと。焼け野原を体験した人たちの、頭の中が死でいっぱいになった人たちの、熱い思いこそ、人間への飢えこそ、詩にはあった。
 あっという間に読んでしまった。興奮しながら。
 言葉が、すごいのです。切り立っていて、無駄がひとつもなく、かっちりとしていて、そのなかに感情がこもっている。それは田村さんの持ち味なのでしょう。学生時代にはまった落語を、すっかり暗記し、友人に披露するくらいなのだから。
 こんな言葉も忘れられません。「詩人という心のエンジニア」
 そうか、詩人って、心の技術者だったのか。
 田村さんの詩が、一見技巧的で、概念的で、つるつるした世界のようですが、間違いなく田村さんは、心を、感情を知っていた。そこに種が宿り、発芽するのを感じていた。だから残る、響く。じゃなかったら、どうして小鳥のために野はあるなんて断言できるでしょうか。
 読み終わって、こう思う。僕はやっぱり、詩も書きたいのだ、と。いや、詩が必要なのだと。
 詩は、田村さんが言うように、感情の歴史。感情こそ、人間発達の鍵。そこに触れずに、文学の発展もない。
 これからまたちょっと、詩に浸りそうです・・・。

田村隆一著/思潮社・現代詩文庫/1968

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4 コメント

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Unknown (えったん)
2007-11-15 09:54:29
私は菊田さんの詩のファンなので、嬉しいですね。

書いて下さい。ぜひ書いて下さい。
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じゃあ (きくた)
2007-11-15 10:41:30
書きます。

その前に、今は詩人の書いたもの(詩だけじゃなく、エッセーとか)を読んでいます。
そうやって改めて詩を見ると、新鮮です。

立原道造詩集(岩波文庫)も手元にあります。

小説終わったら、詩集だなあ。と思っています。
返信する
立原道造 (えったん)
2007-11-15 11:02:39
立原とはこれまた嬉しいですね。

彼の詩は、菊田さんがまだ影も形もなかった、私の10代の頃のチャンピオンでした。
24歳の若さで夭折した詩人だけど、今読んでも充分に新しい!
特に“光に耐えないで死んでいった草木がどうして
美しいことがあろう...”

この詩が、50になった今の私には一番訴えてきますねぇ。

忙しいでしょうけど、機会があったらぜひ読んでみて下さいな(*^。^*)

返信する
荒地 ()
2007-11-15 11:28:54
 田村隆一は少し苦手でありますが、読んでいるとやはり面白いのです。現代詩文庫の田村隆一は現在版元品切れのようで棚には並んでおりません。なかなか重版をかけないようです。営業の人が来るたびに重版まだ?と言うものが何点かあるのですが、難しいらしいです。その為、最近の詩人の詩集を多く揃えはじめました。平台にも配置してあるので買ってみてください。中堅どころの良い詩集も棚にさしてありますよ。目をつけたのはよく売れるのでタイミングが悪いと在庫がないこともありますが。
 そんな中で、『荒地の恋』が出ましたね。もうお読みになりましたか? 田村隆一や北村太郎、鮎川信夫、加島修造などなど荒地の面々のその後が描かれている小説です。この間読みましたが、なかなか面白かったですよ。お勧めです。
http://spindle.blog.shinobi.jp/Entry/10/
 微妙に感想書いた。
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