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旅日記

望洋−86(米国人弁護人−2)

50.米国人弁護人−2

50.1.2.ブレイクニー弁護人


続いて証言台に立ったのはベン・ブルース・ブレイクニー弁護人だった。

ブレイクニー弁護人は、まず戦争は犯罪ではないと言った。

国際法は国家利益追求のために行う戦争を、これまで非合法とみなしたことはないという。

歴史を振り返って見ても戦争の計画、遂行が法廷において犯罪として裁かれた試しはひとつもない。

我々はこの裁判で新しい法律を打ち立てようとする検察側の抱負を承知している。

しかしそう云う試みこそが新しくより高い法の実現を妨げるのではないか。

平和に対する罪と名付けた訴因は故に総て当法廷により却下されなければならない。

国家の行為である戦争の個人責任を問うことは法律的に誤りである。

なぜならば、国際法は国家に対して適用されるものであり、個人に対してではなく、個人による戦争行為という新しい犯罪をこの法廷が裁くのは誤りである。

<ブレイクニー弁護人>

<極東裁判速記録より>
ブレークニー弁護人 私はブレークニー少佐でありまして、梅津大将のアメリカ側の弁護人であります。

私のなさんとする所は此の法廷に対しまして,アメリカ側弁護人に依って代表せられました総ての容疑者の為に、アメリカ側弁護人に依って差出されました補助的の第一項,第二項第七項に對する理由を述べることであります。

若しアメリカ側の弁護人が或る点に於きまして、既に日本側弁護人に依って提起せられました論点を再び申立てるやうなことがありましても、是は決して法廷が此の弁論を成べく拡大しないやうに、或る一定の範関内に置くようにと云ふ御希望に背くものではないと存じます。

是は寧ろ異なった法律家達が種々の違った法律的の訓練、法律的の制度の下に立って居ります為に、異なつた觀点から同じことを見るのであらうと云ふ風に解して戴きたいと思うのであります。

本動議の基礎となるべき理由は私は茲に読む必要はないと思うのでありますが、唯戦争を一つの犯罪として見ると云う一般的の問題を茲に提起致しました。

其のことと之に多少の開係のある事項とに要約することが出来ると思うのであります。

私の第一の点は戦争は犯罪でないと云うことであります。

此の観念は戦争には必ずカがこれに加はって居ると云うことであります。

国際法に於きまして戦争に関する法規がございますのは、即ち其の儘戦争は合法的のものであると云うことの証拠であります。

此の合法的である所の開係は、此の手続きや若しくは主義と云うものの一体を成すものを正しく監督することを必要とするのでありまして、而して如何に戦争は開始せられ、又如何に交戦国が相互に対して注意を与え、又如何に戦はれ、そして此の戦争が如何に終るべきであるかと云う法律があることは、若し戦争それ自身が非合法的なものであるならば全く意味のないことになるのであります。

今申しましたことは、戦争が一つの特別な観点から見まして、若しくは全然客観的に見まして、是が正しいものであるか、若しくは正しくないものであるかと云う観点から見ましても、此の今申しましたことは真実に妥当するのであります。

此の点は非常に明白のものでありますから、従ってこれに付て更に演繹的に述べる必要はないと思うのであります。

(中略)

歴史を遡つて考へて見ましても、戦争を計画し若しくは之を遂行したと云う行為が、かつて法廷に於いてを犯罪として審判されたことはないのであります。

かかるが故に現在の審理に対しては是の先例となるものは何もないのであります。
勿論そう云うことも言はれるでありましょう。

即ち先例のないと云うことは法律を成長させると云うことを猶予させる、之を妨げると云う原因にはならないと云うことも言はれるでありましょう。

併しながらもう既に何人かが申しましたやうに、一つの先例を立てると云うこと、即ちそれは一つの犯罪を不遡及効的に定義すると云う結果を生ずる所の一つの先例を茲に打立てると云うことは、即ち行為が遂行されました時には、是は犯罪として認められなかった。

是は罰せられるべきでなかったことに後に刑罰を科すると云ふことは、文明的な法律の制度にしては実に厭うふべきことであったのであります

避けなければならないことであったのであります。

ライト卿、此の方は大英帝国の名声ある優れた法律家であります。

そして此の方は戦時犯罪委員の委員長をして居られたのでありますが、曽て斯く云うことを渓谷して居られます。

即ち人類の通念的なる一般的なる良心に基かない所の法律以上のもの、若しくは或る法律的の、法律がかった所の規則と彼が呼んで居られるのでありますが、そう云うものを以て一つの独裁権力と云うようなるのを打立てると云うことに対して警告を与えて居られます。

併しながらライト卿は又斯う云われました。

我々は法律に依る統治と云ふものの下に生き、而して此の法律を行う所の、强制する所の合法的な機関の下に我々が生活して居ると云うととを誇りとすると云ふことを言はれました。

此のことから我々には斯う云う事を演繹し得ると思うのであります。

即ちライト卿は、恐らくはナチの下にありましたドイツが、所謂人民の正しい観念に従って判決を行ったと云う所の、所謂法律の制度を厭う、之を排除する第一の人であったろうと思うのであります。

此の法に依る統治と云ふものは、我々が時としては法律以上のもの、若しくは一つの法律的の観念と云うものに時々は従はなければならないと云う危険を犯してまでも、是れよりも更に悪い所の気紛れな、それの代替物として必要であると一般的に認められました所の法律以上のもの、若しくは一つの法律観念と云うやうなものに我々が時としては従わなければならなかったのでありますが、此の今の気紛れなもの、若しくは独断的のもの、若しくは絶対主義と云うやうなものよりは、宜いと認められたものであります。

以下通訳なし

 

ブレイクニー弁護人の原爆投下についての論議

ブレイクニー弁護人はさらに論議を続けた。

しかし、次の発言が始まると、チャーターで定められている筈の同時通訳が停止し、日本語の速記録にもこの部分のみ「以下、通訳なし」としか記載されなかった。

この発言は、後に裁判の記録映画を作る際に初めて、翻訳されて一般人の知るところとなった。

戦争での殺人は罪にならない。それは殺人罪ではない。それは戦争は合法的だからです。

つまり、合法的な人殺しなのです。殺人行為の正当化です。

たとえ、嫌悪すべき行為でも犯罪としての責任は問われなかったのです。

キット提督の死が真珠湾爆撃による殺人罪になるならば、我々は広島に原爆を投下した者の名を名を挙げることができる。

我々は投下を計画した参謀長の名前も承知している。

我々はその国の元首の名前も承知している。

彼らは殺人罪を意識していたか? してはいなかっただろう。

我々もそう思う。それは彼らの戦闘行為が正義で、敵の行為が不正義だからではなく、戦争自体が犯罪ではないからであります。

何の罪科で、いかなる証拠で戦争による殺人が違法なのか?

原爆を落とした者がいる!この投下を計画し、その実行を命じ、それを黙認した者がいる。

その人たちが裁いている。

キット提督

アメリカ合衆国の海軍軍人。海軍少将。

1941年12月7日の日本海軍による真珠湾攻撃において、戦艦アリゾナの艦橋で戦死した。

 

ベン・ブルース・ブレイクニー

1908年にオクラホマ州に生まれ、オクラホマ大学、ハーバード・ロー・スクールを卒業後、オクラホマのマゲーリア石油会社の法律顧問をはじめ各種裁判所に勤務した。

1942年に陸軍に入隊し、日本課および戦時俘虜尋問班のチーフを務めるなど、日本の事情に通じていた。

陸軍少佐として占領軍将校であったブレイクニーは、東京裁判の弁護人となり、東郷茂徳・梅津美治郎両被告を担当した。国際法と外交関係に詳しく、ジョージ山岡と並んで日本語を解する数少ないアメリカ人弁護人の一人でもあったことから、日本人弁護人の知らないアメリカ側の資料を活用するなど、法廷では随所で重要な役割を果たした。

その後、東京に法律事務所を開設したが、1963年3月4日セスナ機を操縦中、伊豆半島にある天城山の山腹に激突し死亡した。

(ウィキペディア(Wikipedia)より、抜粋)

 

ブレイクニーの論法は、必ずしも原爆という新兵器の非人道性を正面から攻撃するものではなかった。

だが昭和21年5月という時期、占領下の日本において原爆問題に触れるだけでも連合国代表によって構成される法廷を刺激したに違いない。

昭和23年(1948年)3月2日から始まった弁護側最終弁論の中で、3月3日ブレイクニー弁護人は、再び米国の原子爆弾使用について批判的発言をするが、この発言は「極東軍事裁判速記録」に記録されている。

 

50.2.弁護人の異議申し立て却下

昭和21年5月17日(金)10時5分に開廷されると、ウエッブ裁判長は、弁護人からの動議は総て却下された、と言葉少なに申し渡した。

理由は将来宣告するとして明らかにされずに、6月3日まで休廷となった。

こうして、この裁判の成立に関する大きな疑問は解かれることなく終わり、裁判は有無を言わせず成立したのである。

 

<続く>

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