『レジナルド・ぺリンの転落』デビッド・ノブズ
おっさん、しっかりしいや。
46歳、ミッドライフ・クライシスなレジナルド・ぺリン氏。
会社では、それなりの地位。
社長には我慢、部下は目障り、仕事には無関心。
とは言え、仕事もそつなくこなす日々。
社内演劇サークルでは主役もこなし、趣味も充実。
ちなみに最近気になるのは、秘書の膝小僧。
家庭にも不満は無し。
小奇麗なは通りに庭付きの家。
妻とは、特に会話も無いが、平穏な生活。
娘の夫の意見にはいちいち賛成しかねるも、関係は良好。
まだまだすね齧りな息子は役者修業中。
妻の弟には、頼りにされているというか、たかられている。
これもあれも、いつもと変わらない日々。
通勤電車もお約束の11分の遅れ。
そう、そんな悪い人生じゃない...
んだけど─
“なんとなく億劫でやる気がしない。ものごとに集中できない。
生きる喜びを感じない。しょっちゅう頭痛がする。
テレビで劇場中継を見ながらうとうとしてしまう。
以前のようにクロスワードを全部解くことができない。
朝、起きると口の中が嫌な味だ。
女のスポーツ選手が全裸で競技する姿をいつも想像してしまう……”
会社の内線では、
“ダムチョン・プラムのパイパイのミックチュ粉が届きまちぇんでしゅかー?
違うほうのニューポートへ行っちゃったでしゅかー?
だめでしゅねー、いけない子でしゅねー”
と応答したい欲求にかられたりする。
そして。
カバ呼ばわり、ハサミムシ発言、ライオンを挑発とエスカレート。
決断と決行。
ついに計画を実行するレジー。
後半はスコットランド・ヤードが出てきたりして、
ちょっとした冒険小説のよう。
先の読めるような、読めないような展開。
というのも、
後半で、断然レジーが好きになってくるので
(そう、前半のレジーにはあまり好感を持てない)
明るい結末を願いだすという読者願望が介入。
十月のエピソード、エピローグに至っては、
作者に好感を抱かずには居られない始末。
期待以上のラスト。
ノブズ氏に栄光あれ。
本国イギリスではTVシリーズも製作。
しかも、続編も何回にもわたって作られるという人気シリーズ。
続編も自伝も読みたいもんだ。
“自分がわからなくなったから別人になりたいんじゃない。
ぼくにとってアイデンティティの問題とは、
「自分が何者かわからない」ではない。
「自分が何者か、わかりすぎるくらいわかってしまっている」のが問題なのだ。
ぼくはレジナルド・アイオランシ・ペリンであり、
ぼけなすぺリンであり、玄関マットのぺリンだ。
ぼくはあほらしい、それゆえぼくは存在する。
ぼくは存在する、それゆえぼくはあほらしい。”