Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

●第18回「第4の波『コンセプチュアル社会』とハリウッドの世界戦略~”右脳流出の時代へ?”」

2007-08-18 16:28:58 | ■日本人はどこへ往く?

■第18回「第4の波『コンセプチュアル社会』とハリウッドの世界戦略~”右脳流出の時代へ?”」

ダニエル・ピンクは、彼の著書「A Whole New Mind」で、情報化社会(第3の波)に続く、第4の波として、「コンセプチュアル社会(時代)」の到来を予言している。

コンセプチュアル社会(時代)とは、西欧社会が培ってきた「論理中心の社会(時代)」ではなく、日本社会が育んできた「感性社会」に通じるものである。
(参照:当ブログ「感性系の勝利(日本人の良さを見直す)」)

ハリウッドは、現在、「日本人を待っている!!」ようだ。
確かこれまでにも、ハリウッドで映画のスタッフ(とくにアート分野)として活躍する日本人の名前を何人か目にしたことがある。今は、ご存知のように、日本人の俳優もハリウッドで活躍する時代となっている。

千歳香奈子のハリウッド直送便(2007年08月14日)によると、
現在の日本ブームの背景について、米プロデューサーのティム・ゴールドバーグ氏は、「日本の文化がアメリカで受け入れられつつあり、興味が増している。それに対して、ハリウッドには才能ある日本人俳優が少なすぎる」と分析し、「(彼が立ち上げたハリウッド映画オーディションサイトの)目標は、日本人のタレントを発掘して、育てて、管理すること。俳優やモデルだけでなく、監督やカメラマン、アニメーター、デザイナーなどあらゆる分野の才能ある日本人を発掘してハリウッドに送り出していきたい」と話し、「ハリウッドは常に新しいアイディア、人材を求めているのです」としめ括っている。

どうも、ダニエル・ピンクのコンセプチュアル時代(社会)の到来と、アメリカ(ハリウッド)の日本文化受容が交差しているような気がしてならない。
つまり、ハリウッドは、第4の波を見越した世界戦略に着手しているのだろう。彼らの世界戦略とは、コンセプチュアル時代でのリーダーとなること、および、ハリウッド・ムービーのマーケティング戦略(メジャーリーグと同じく、人材供給源と消費マーケットとしての日本)という双方の意味である。

アメリカは、これまでにも世界の波をリードしてきた。第2の波「工業化社会」では、フォードの車で世界を制覇。第3の波のときには、シリコンバレー、コンピュータ、インターネット関連で現在も、世界的な優位性を保ち、世界の富を牛耳ってきた。

そして、第4の波、来るべき「コンセプチュアル社会」でも、ソフト的な分野、つまり、創造力、エンパシー(他人の感情や問題への理解能力)、直観力(第3の波で重宝された事実分析能力よりもむしろ感情に基づいた理解力や認識力)の中心時代にも、君臨し続けようとしているのだろうか。

さて、ダニエル・ピンクに戻ろう。
現代では主流ではあるが、左脳に基づく第3の波は、直線的、論理的、分析的な意味づけ(理由付け)が中心になっており、それに続くコンセプチュアル社会は、創造力、エンパシー(他人の感情や問題への理解能力)、直観力(第3の波で重宝された事実分析能力よりもむしろ感情に基づいた理解力や認識力)といった、右脳による能力を中心としている。

この右脳重視の能力開発は、日本では、知らず知らずに(計画されたものではなく、日本という国の環境下で)開発されてきたものであり、自然なカタチで日本人には身についているもので、感性系分野、とくに、アート分野では、成功をおさめてきている。この日本人のもつ感性は、日本だけでなく、普遍性があるようで、(アジアだけでなく、世界に通用している!)、比較優位性をもつ能力に違いない。

さて
なぜ、米国(たぶん、日本を含む先進国)は、第3の波から第4の波へ移行しなければならないのだろうか?

ダニエル・ピンクは、その理由を米国内の経済状況を基に、
以下の3つの要因で捉えている。

1.裕福さ
2.技術
3.グローバリゼーション

1.裕福さ:
消費者は過剰なほどの商品の豊富さにアクセスでき、商品は、美的に消費者を満足/幸せにするものでなければならない。この現在の飽和市場では、際立つ商品が求められている。
20世紀のアメリカンドリームとは、家とクルマを保有することであった。現在、3分の2以上のアメリカ人が家を持った。クルマは言うまでもないだろう。免許保持者数以上のクルマ台数が確保されていて、平均して言えば、運転できるあらゆる人が彼/彼女自身のクルマを保有している。米国では、個人倉庫の市場が、年170億ドルになってきている、等々。
これらの繁栄は、もちろん左脳によってもたらされてきたものである。けれども、これからのビジネスは、もはや機能や納得できる価格といったものだけに頼る時代ではなくなってくる。それにプラス、人々の消費行動に強く影響する「美的で、ユニークで、意義あるもの」、つまり、デザイン、エンパシー、プレイ、ビジョンなどの「ソフト(右脳)」な能力が必要とされる。

2.技術:
19世紀の黒人労働者ジョンヘンリーの逸話が語られる。トンネル工事現場に蒸気パワードリルの売込みがあった。ジョンは、ドリルとの競争を申し出、超人的な力で競争に打ち勝った。そしてその場に倒れ、死んでしまった。
この逸話は、工業化時代の到来を告げた。また、チェス世界チャンピオンのカスパロフトと IBMのスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」との対戦。コンピュータが勝利する等々。
ジョンの逸話は、人間の肉体が、機械に取って代わられたこと。カスパロフトの敗北は、人間の左脳の代わりにコンピュータが取って代わったということを意味する。また、コンピュータの進展は、決まりきったステップを取る職業に取って代わる可能性をもつ。

3.グローバリゼーション
コンピュータプログラマーのアウトソーシングを例に出す。各種調査によれば、米国や欧州のシステム開発の仕事が、インド、中国、ロシアへの低賃金オフショア開発に移行する。また、工場労働者が何もしなければ、つまり右脳開発を怠れば、早晩、コンセプチュアル時代には取り残される等々。

右脳開発のため、ダニエル・ピンクは、6つの感覚開発を提示する。
1.デザイン能力、
2.情緒を育む物語能力(組織的な物語傾聴と物語創作)、
3.シンフォニー能力、つまり一見無関係なものを結びつける総合化・統合化能力
  (分析や特定の回答を与えるのではなくて)、
4.エンパシー能力(他人の感情や問題への理解能力、共感。シンパシー「同情」
  とは違う。)
5.プレイ(遊び。冗談や笑いの効用を重視する)
6.人生の意味を問う。


◎☆戦略のない日本にとって、最後の日本遺産、つまり、感性能力、右脳文化の遺産が、日本ではなく、アメリカあるいは、海外へ流出する「右脳流出」は、
日本・日本人にとって、
是なのだろうか、
非なのだろうか、
それとも、
新たな次元への挑戦なのだろうか?


【参考】
1.Daniel H. Pink (March 24, 2005) A Whole New Mind: Moving from the Information Age to the Conceptual Age, Riverhead Books
(邦訳:ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代 (単行本) ダニエル・ピンク (著), 大前 研一 (翻訳) 三笠書房 2006/5/8 )

2.千歳香奈子のハリウッド直送便2007年08月14日 「ハリウッドは日本人を待っている!!」
http://blog.nikkansports.com/entertainment/chitose/archives/2007/08/post_127.html#more

●第16回「個人と集団人 ~西欧人と日本人~ (グローバル・国際化)」

2007-06-08 18:23:08 | ■日本人はどこへ往く?

●個人と集団人 ~西欧人と日本人~

最近、ここメルボルンで、2種類の情報に触れることがあった。
そして、日本人の行き先について、とても考えさせられました。

一つは、
オーストラリアの幼児教育ビデオ。

もう一つは、
日本へ英語教師として1年半日本に赴任した、英国生まれのオーストラリア人の投書です。

幼児教育ビデオのシリーズの題名は、「Diversity(多様性)」。
その第一巻が、Individuality(「個性を育む」)。

幼稚園か保育園での幼児の行動がビデオに収録してあり、そのビデオを見ながら、幼児の個性を伸ばすには、どういうアプローチがあるのかについて、幼児教育の専門家(10名位)が議論をしている内容です。

まず、見ていて、日本人の私として、衝撃だったのは、
幼児にとって、危険のない限り(ムリに飛び降りるとか)、
すべて、幼児のセルフ・ヘルプ(自分で何でもやらせる)が
基本になっていることでした。

カウンセラー(ヘルパー)の人は、なんの指示も、手伝いもしないのです。
例えば、トイレ、食べ物、お絵かき、遊びなど、自由にやらせて、それを見守っているのでした。

だから、幼児は、自分で、何でもやらなければならない。
最初は、試行錯誤、時間がかかっても、
最後には、それなりにその行動を完成する。
親は、それも見て、何にも手伝わず、
言葉で「褒める」。
子供は、褒められた後は、その行動を学習する。

西欧の「個人主義」の源泉は、幼児からの教育にあったんだ、と初めて気がつきました。

日本人が海外へ出て、特に、大学留学で周囲の個人主義的生活に親しむのと、
断然、歴史が違う。

集団主義的生活は、他人の視線の中で「気に」しながら、行動をする。
これは、幼児だけでなく、その後ずっと大人になってからも。
もちろん日本人だけでなく、日本にいる西欧人も日本人の視線を気にかける。
以前、アメリカから来ていた若い女性が、こう言っていたことを思い出します。
「いつも見られているから、時々、わざと突飛なこともするのよ」って。

よく、日本は、high context society という表現がなされている。
つまり、状況/他人に左右されやすい世界が、日本なのだ。

そういえば、比較文化学の古典である、ベネディクトの「菊と刀」(1946: 2)にも、

『日本人は、最も高い程度で、双方の行動を取る。アグレッシブ(攻撃的行動を取ったり)だったり大人しかったり、軍国主義的であったり審美的であったり、横柄であったり丁寧であったり、柔軟性がなかったり融通がきいたり、従順であったり小突きまわされると憤慨したり、忠実であったり裏切ったり、勇敢であったりおずおずしたり、保守的であったり進取の気象に富んだり、と。彼ら日本人は、他人が彼らの行動についてどう考えるかについて、驚くほど、気にする。そして、日本人の行動の誤りについて、他人が何も知らないと思ったとき、自責の念にかられて打ちのめされるのです』

他人がどう考えるかを気にするというのは、良く言えば、相手の気持ちを察することが出来る、悪く言えば、人の意見(特に海外の意見)に左右されやすいということでしょうか。

一方、
個人主義的生活は、他人の視線をほとんど「気にしない」。
自分のやりたいようにやる。
キスをしたい時にキスを、抱擁したい時にホウヨウを。
食べたい時には、列車の中でも、歩いている時でも、飲食禁止の図書館の中でも。

大部、日本も、現象的には、近づいているところがあるようですが。

♪♪♪
さて、メルボルンで夕方の退勤時にほとんどの人が読んでいる、フリー・タブロイドのmX(日刊)の6月6日のmX TalkのLetter of the day。
4段抜きの大きな見出しで、
Lessons to learn from polite Japan (礼儀正しい日本から学んだ教訓)とあり、

「最近、私は日本で過ごした1年半の間に、幸せな気持ちになりました。」
ではじまるAlexander, Pakenham(町名)からの投書は、こう続きます。

「日本人については、その美しく、真面目で誠実な性格を、私は保証できますよ。
私は、英国で生まれ、思い切って日の出ずる国に行く前は、スペインとオーストラリアへ住んでいました。
それぞれの国が従っているマナーの範囲や領域を発見しました。
そして、こう結論づけました。
オーストラリアは、マナーや人に対する尊敬が、明らかに欠如していて、それが非常にたやすく分かることです。道路で事故が起きたとき、中指を突き出して侮蔑しているしぐさは頻繁にみられますし、ストアでの失礼で冷たい客への扱いなど。こんなことは、日常でよく見られることです」

そして、日本が登場します。

「日本は、この私を吹き払ってしまいました。
私は、この国が外国人をどのように扱うのか、何の先入観ももっていませんでした。
何故なら、比較のもとになるのは、オーストラリアでしばしば見た人種的偏見からなっていましたので。
.....

そこは、私を、特別な感じにさせてくれて、尊敬されて、啓発された環境だったのです。

日本にいるときを振り返ると、店のスタッフの親しげな挨拶を思い出します。
通りで迷っている外国人への親切な態度、必要なことを喜んで助けてくれるその優しさ、、、、
それらのことを思い出します。

。。。。と続くわけです。

さて、個人主義の国で暮らすことは、集団主義に慣れた日本人としては、
何か、さびしい感じもするし、また逆に、自由な気もしますネ。
大学院での授業中でも、出入りは自由で、教授もそんなことは
全く気にかけない。

日本人が、海外で活躍するには、「自立心」(自分だけの力で物事を行っていこうとする気持ち)と「自律心」(自分で自分の行為を規制すること。外部からの制御から脱して、自身の立てた規範に従って行動すること)とが必要だと考える一人ですが、これらの態度・心・生き方は、集団主義的社会からは育まれないものなのでしょうか。

とまあ、いいとこ取りをもくろんでいるわけですが。
つまり、相手を思いやる、察しがよい日本人の美点はそのままにして、相手(特に、海外)からの意見や論議には、正々堂々と主張をする、というようなことです。
これはあたかも、日本の『和をもって尊しとなす(以和為貴)』と西欧の『異をもって尊しとなす』の文化の衝突のようなものでしょうか。

学界で以前議論されていたものの中で、
Convergence vs. Divergence (「一つに収束する」 対 「発散して多様になる」)という議論があります。

西欧の学者先生方が思うように、日本社会だけでなくアジアが、西欧社会にコンバージェンスする必要もないと考えますが、ただ、世界と伍してたたかう(?)には、自立(自律)心の教育が絶対不可欠なのは、言を俟たないことでしょう。

そのためには、どんな処方があるのか、これは、考える価値あることだと思っています。

※ mXの発行部数(Web siteによれば)は、ブリスベン、シドニーとメルボルンで合計288,000部以上とある。
http://www.mxnet.com.au/

【参考文献】
Benedict, Ruth (1946) The chrysanthemum and the sword: Patterns of Japanese culture. Boston, MA: Houghton Mifflin.

●第13回「イノベーションさもなければ死か」 イノベーション競争力:日本、世界1位の中身

2007-05-19 23:43:00 | ■日本人はどこへ往く?

●イノベーション競争力: 日本、世界1位の中身。
~EIUの調査から~

07年5月14日Economist Intelligence Unit (EIU)は、「日本が、世界で最もイノベーティブな国家。研究調査の結果で判明」とのプレス発表(白書とよんでいる)をしている。この場合の競争力とは、国の競争力というよりも、産業の競争力(ひいては、国の経済成長力)と考えた方が理解しやすい。

EIUの調査方法は2つ。
485人のグローバル上級取締役からのオンライン調査。もう一つが、世界82ヶ国の、2002-2006年のイノベーション業績(後に説明)と2011年までの予測に基づいて、ランク付けを行ったもの。

2002-2006年では、2位はスイス、3位米国、4位がスウェーデンだった。
2007-2011年の間も、このランクは変わらないと予想している。

ちなみに、2002-2006年では、5位はフィンランド、6位ドイツ、7位デンマーク、8位台湾、9位オランダ、10位イスラエル。一方、2007-2011年では、5位ドイツ、6位台湾、7位フィンランド、8位イスラエル、9位デンマーク、10位オーストリアの予想。(82ケ国中、中国は54位(2007-2011年で37位、以下同様)、香港は23位(21位)、ブラジルは52位(40位)、シンガポールは17位(11位)、インドは56位(50位)、メキシコは45位(39位)。

EIUによるイノベーションの定義は、「一義的に経済的利益や優位性を求めるために、新しく、他と異なった、普通ではない方法で、知識を応用すること。the application of knowledge in a novel way, primarily for economic benefit」(報告書3ぺージ目)となっており、企業や政府にとっての重要性が増しているとの認識だ。学界や経営者の中では、イノベーションが生き残りのコア(中核)の一つだという人が多い。

日本はなぜ、世界1位の座にいるのか?

彼ら(著者:Nick Valery and Laza Kekic)のイノベーション業績評価項目(アウトプット)を見よう。

‐イノベーションの尺度としての人口100万人当たりの年間特許件数
‐人口100万人当たりの科学技術ジャーナルからの引用回数(US National   Science Foundation and Thomson ISI's Science Citation Index)
‐UNIDO(国連工業開発機関)から導き出した、2つの比率の平均値:一国の製造 アウトプットでの中クラス―先端クラスの技術を使った製品のシェア、そして全 製造輸出品の中での中クラス―先端クラスの技術輸出品のシェア。この2つの平 均値。
‐World Economic Forum国際競争力報告書2006年からの調査質問の結果(新技術を 吸収できた、または精通した125ヶ国にある会社を評価したもの)が挙げられて いる。

一方、イノベーションのインプットを見る。

これは、上記のアウトプットとこれから述べるインプットの差異を分析して、イノベーションの効率を図ろうとするもの。

「イノベーションを直接牽引するインプット」としては、Business Environment
Rankings (BER)と呼ばれる、幅広いインデックスから次のような項目が選択されている。(各項目の重み付けなし)
日本は、この直接インプットでは11位(2007-2011年では12位)

‐GDPに占めるR&D費の割合
‐地方の研究インフラの質 
‐仕事場での教育研修
‐仕事場でのテクニカル・スキル
‐ITと通信インフラの質
‐ブロードバンドの浸透度

次に、「イノベーションを間接的に牽引する(あるいは阻害する)インプット」として、経済、社会、政治要因と幅広いインデックスからなる。次の12要因だ。(*印が若干、他項目よりも重み付けしてある)

日本は、このインプットでは、23位(2007-2011年では25位)

‐政治の安定度*
‐マクロ経済の安定度
‐制度的フレームワーク*
‐政府の規制環境*
‐税制度・体制
‐労働マーケットの柔軟性(固定化されていない)
‐海外からの投資への国内経済の開放性
‐海外労働者の雇用が容易かどうか
‐海外からの影響力に対する国の文化の開放性
‐投資ファイナンスに対してのアクセス度
‐知的所有権への保護度
‐科学の発展へ対しての大衆の態度

まあ、よくもこれだけ、評価項目(要因)を挙げたものだと思いますが、それだけ、正確な結果(差異)がでると思われます。重みづけは、直接が70%、間接が30%だそうです。

さてこれから、彼らのデータベースを駆使しての分析が始まります。

日本は、直接インプットのランクは世界11位なのに、アウトプットは世界1位。ということは、極めて「イノベーションの効率が良い」ということになります。
一方、中国は、「イノベーションの非効率」が指摘されています。つまり、直接インプットが42位(2007-2011年は37位)なのに、アウトプットは17つ下の59位(同54位)なのです、等々。

結論として、EIU白書は、
「よりイノベーティブになる最善の方法は何か?この報告書で明らかなように、一つだけの、正しい方法というものはない。イノベーションはもちろん、西欧社会の領分だけであるはずがない。日本のポジションをよく見てください。ランキング・トップですよ。同様に、中国の台頭は言うまでもなく、台湾やシンガポールの強さを見ましょう。全員が強調していることは、イノベーションを強力に支えているのは、その国の政策と大多数の科学者やエンジニアを育てる教育システムなのですよ」と。

今回のイノベーション調査は、「2020年を展望する(Foresight 2020)」(2006年3月EIU報告書)から出て来たもので、3種類の調査モノの1つとなっている。3種類とは、「パーソナライぜーション」、「コラボレーション」、そしてこの「イノベーション」から成る。これらは、主要な産業の今後の展望と会社活動に深い影響を与えるものとの前提がなされている。でも、他の2つも結構興味が引かれるテーマですね。

ところで、
報告書の補遺(Appendix C: Survey results)の中で、485人のグローバル上級取締役の回答は、なかなか興味をそそらせるものがある。

例えば、こういった質問への回答である:
最も成功したイノベーションの源は?、どの分野で?、どういうやり方でイノベーションを主導していったか?、などなど。

その中で、「従業員にどのようなインセンティブを?」の質問には、

会社リーダによる周知(対外への告知)38%、
賞(プレゼント)33%、
会社リソースへのアクセス特権27% (これは何でしょうか。トレードシークレットなどのことでしょうか?)、
「規定の仕事から解放しイノベーションのための休暇」と「昇給」がそれぞれ22%となっていました。

また、「あなたの組織では、長期的な成功のために、イノベーションはどのくらい重要ですか?」との質問には、
当然のごとく、
非常に重要47%、重要40%、幾分重要12%、重要ではない1%との回答が述べられている。

以上、日本の強みは、アウトプット(イノベーション業績)にあることが分かりましたが、
弱みは何でしょうか。
お分かりのように、そのインプットにあります。

「イノベーションに最適な場所はどこか」との問いに、40%の回答者がアメリカを、インドが12%、イギリスが6%。一方、日本は2%となっている。

これをどう解釈するか、ということです。

イノベーションの環境(間接インプットのこと)が日本の場合、2002-2006年で82ヶ国中23位、2007-2011年で25位と示されているけれども、「最適な場所でない」理由として、報告書は、「言語のバイアス(偏見)かも知れない。この報告書は英語のみでなされたものだから。疑いもなく、日本はイノベーションをするのに最も快適な場所ではないというのが、回答者の上級取締役の共通見解である」と言う。

これだけのインベーション環境の不利な状況から、最大の効果(イノベーション業績)を出している日本は、今後、この環境を変えていけば、よりもっと、効果があげられると考えた方がいいのだろうか、それとも、このまま、これまでのように、日本人だけで、「イノベーション、さもなければ死か」を胸に、生きていくのだろうか。。。

P.S.
さて、国際競争力の格付けでは、上のイノベーション分野とは違って、IT(情報技術)分野の国際競争力を扱うWorld Economic Forum(世界経済フォーラムWTF。ダボス会議)の「世界IT報告書」や総合的な国の競争力を測定しているIMD(スイスの国際経営開発研究所)の「世界競争力年鑑World Competitiveness Yearbook」が有名ですが、今日はこの辺で。

※ EIUは、英経済誌The Economist (エコノミスト)の調査部門、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)のこと。

※※ 調査方法は、2006年11月、オンラインでのサーベイ。対象は、485人のグローバル上級取締役。大半は財務サービス産業で、その次にIT・技術産業、専門サービス業、製造業、健康管理業、製薬業、バイオテクノロジー産業と続く。回答者の48%が年間売上高5億US$までの会社に働き、26%が50億US$以上の売上げ。地域的に
は、欧州・中近東の会社が56%、25%がアメリカ、20%がアジア・オセアニア地域(%
は切上げのため、101%になっている)。

【参考】

Innovation: Transforming the way business creates includes a global ranking of countries(報告書本文PDF 44ページ)by The Economic Intelligence Unit (EIU)


時事ドットコム「技術革新度、日本が世界トップ=資源乏しく生命線-英社番付」(2007/05/17)

●第11回「大学 グローバル大競争時代に生き残る ~豪名門メルボルン大学の挑戦~」

2007-04-29 15:40:38 | ■日本人はどこへ往く?

●メルボルン大学は来年の2008年からスタートする、新メルボルン大学のキャンペーンを4月17日から始めている。連日、テレビ・ニュースなどで副学長(事実上の学長)のインタビューや大学のアドがなされている。

これは、グローバルな大学競争時代を生き残ろうとする試みで、The Melbourne Modelと呼ばれている。

1853年に英国の教育制度の下で、大学が設立されて以来、大幅な大学教育システムの転換となる。

中身を見ると、英国システムから米国の大学システムへの転換のようだ。

従来の10以上もある大学学部を6つ(arts, biomedicine, commerce, environments, Music, Science)に絞り、3年間の学部教育のあいだ、学部間の単位取得が幅広く選択でき、学部間の垣根が緩やかになっている。これは、学部教育では、幅広く学び、その後、大学院で専門分野を極めるということらしい。欧州の大学でも2010年を目途に、同様の大学改革が進行中とのこと。

確か、19世紀末のハーバード大学で、当時のチャールズ・エリオット学長が、大学学部の変革を行った内容と共通しているようだ。

メルボルン大学の学生数は、42,704名(2005年12月)で、内訳は、大学生28,822人と大学院生13,882人、その内留学生が9,522名と全体の22.3%を占めている。(大学学部では、24.2%。大学院では、18.4%が留学生)。

ご多分にももれず、欧米系の大学卒業率は、日本に較べて、極めて厳しい。入りやすくて、出にくいのだ。コースレベル(講義主体のコースで、リサーチレベルを除く)で平均59%(2004年末のデータ)、つまり、10人に4人は卒業していない(転学か退学?)ことになる。内訳は、大学卒業率60%、大学院卒業率57%となっている。

これは、大学経営の観点から見ると、入学金、授業料はプリペイド方式を取っているため、採算面ではかなり有利になる。事実、当大学は、自主財源が豊富になってきているため、国からの補助金削減に相当寄与している(参照、ABC記事)。

☆The Melbourne Modelのプロモーションビデオ
http://www.dreamlarge.edu.au/?pageID=video
☆生徒数のリスト
http://www.upo.unimelb.edu.au/public/StatsBook/sb_ts.04_2005.xls
☆関連ABC記事
http://abc.net.au/news/newsitems/200704/s1899828.htm
http://abc.net.au/news/newsitems/200704/s1897603.htm

※ジョンさん、コメントありがとうございます。国立を削除、副学長は、日本語での通常表記を使用して、「事実上の学長」との説明を入れておきました。(6月9日追加、修正)

●第10回「破壊的な害をもたらす、赤カミアリのお話」

2007-04-17 21:11:20 | ■日本人はどこへ往く?

●本日の豪ABC The7.30Reportより、

みなさん、赤カミアリって知ってますか。

アリの一種で、南米から侵入したRed Fire Antのことです。

米国では、この赤カミアリの封じ込めに失敗したため、このアリによって、毎年、数百万ドル(日本円で数億円)の農作物被害が出ています。

一方、ここオーストラリアのクイーンズランド州では、破壊的な新型害虫退治に、6年前に科学者が立ち上がり、命がけの闘いをスタート。ついに、この厄介な害虫赤カミアリの撲滅に成功したという、うれしいレポートでした。この被害に遭っている諸外国に対して、その対策を利用してくれたら、と述べていました。

空港の検疫で、世界で一番くらい厳しいと思っていたオーストラリアだからこそ、出来たのかもしれません。

ブログで検索したら、

●TBS 報道特集をみて・・(4.10二胡とbikeのブログ)
http://blogs.dion.ne.jp/erhu2/archives/5406717.html
●殺人アリの日本への上陸の可能性!(4.11五感教育研究所)
http://ameblo.jp/senses/entry-10030462441.html

が出てきたので、

検疫の甘い日本には既に、上陸してそうな気がしますが、早めに対策をしないと、湖のブラックバス状態になりそうですね。

■ABCテレビ The7.30Report (2007.4.17Winning the War)
http://abc.net.au/7.30/

■TBS報道特集「“殺人アリ”・・・日本に上陸間近!」(2007.4.8.頭出しだけ動画real playerあり)
http://www.tbs.co.jp/houtoku/2007/070408.html

●第9回「盗用問題について、もう一つの見方から」

2007-04-14 21:19:26 | ■日本人はどこへ往く?

●第9回「盗用問題について、もう一つの見方から」

学界の論文盗用から始まり、社説の盗用、テレビ番組の企画内容の盗用と、日本国内では、盗用が日常茶飯事のように行われている。

また、音楽界では、2006年の10月19日に、「松本零士氏、槇原敬之に歌詞パクられた」と日刊スポーツが松本氏の言い分をのせ、2007年3月23日には、「盗作の証拠出せ!」と槙原敬之氏が松本零士氏を提訴(日刊スポーツ)、2008年7月7日に両者出廷となっている。
ちなみに、問題の歌詞は以下の通り。

松本「時間は夢を裏切らない 夢も時間を裏切ってはならない」
槇原「夢は時間を裏切らない 時間も夢を決して裏切らない」

さて、今回は、この盗用問題自体ではなく、なぜ盗用が行われるのか?その背景を考えてみた。

盗用とは、ぬすんで使用すること。文章などでは、「剽窃」(ひょうせつ。他人の詩歌・文章などの文句または説をぬすみ取って、自分のものとして発表すること(広辞苑)、と言われている。

欧米の書き物文化では、剽窃(plagiarism)については、厳しくルールが設定されている。それも、「知ってやった(意図的)」と「知らないでやった(無知や不注意)」のどちらであっても、その責任は免除されない。だから、著作者は、一生懸命他の著作を勉強して、それを防ぐ。一方、日本では、どうも、その教育がなされていないようだ。

欧米では、盛んにplagiarismを避けるために何をするかが言われている。

1.直接引用(カッコやインデントで他人の文章・言葉を明示する)
2.パラフレーズ(自分の言葉に直して、言い換えをする)
3.サマリー(他人の言葉やアイデアを要約する) 
などである。

また、plagiarismではないことは、
1.自分自身の、考え・議論・理論・図表・研究成果
2.一般的な常識
3.一般的な参考文献からの引用
(例えば、教科書・辞書・百科事典など。明示すべし)
といわれている。

このため、書き物文化では、引用する場合の細かな表現法がルール化され、学界論文では、文末には参考文献リストが必要になってくる。

さて、ここまで厳格ではない、マスコミや一般社会ではどうなんだろうか?

以前、経営関係の書物を読んだ時に、ある著者(達)のずさんな原稿を見たことがある。いろんな関連の書物から、換骨奪胎、自分の記述はほとんどないと言ったくらい、寄せ集めも甚だしいものだった。参考文献のリストもない。出版社も、剽窃のチェックまでは行っていない。著者のモラルだけに頼っているのが実態ではないだろうか。これは、専門家だけでなく、一部のマスコミ人やテレビ制作者にも言えることではなかろうか。そうでなければ、上記のような盗作は、起こることは考えられないのだから。

以前、この種の事柄について、欧米文化の一端を垣間見たことがある。英国人のジャーナリストが書物を出版するに当たって、関係していたこちらの出版物から引用をしたいといって、20~30箇所の図表の掲載確認を求めてきたことがあった。当時は、何だこれはと思ったが、これが、やはり欧米文化では普通なのだなあと分かったのは、それから大部経ってからの事だった。

この、誰にもわかりはしない、分かったときに考えればいいや、との思いは、企業倫理にとどまらず、個人の倫理(モラル)までもが、知らずしらず破綻をきたしていることの兆候なのだろうか。

スピードが求められる社会の中で、脇目もふらず生きてきた日本人は、その代償として、ここまで、倫理観を喪失してしまったのだろうか。

※写真は、槇原氏の歌詞を収録している「約束の場所」のCDと松本氏の「銀河鉄道999」のDVDのタイトルより使用した。

■テレ朝がMBSに「酷似番組」謝罪(4月14日8時1分配信 スポーツ報知)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070414-00000005-sph-ent
■松本零士氏、槙原敬之に歌詞パクられた(日刊スポーツ2006年10月19日8時27分)
http://www.nikkansports.com/entertainment/p-et-tp0-20061019-105561.html
■「約束の場所」の歌詞
http://music.yahoo.co.jp/shop/p/53/266851/Y035960
■「盗作の証拠出せ!」 槙原敬之が松本零士氏を提訴(日刊スポーツ2007年3月23日7時23分)
http://www.nikkansports.com/entertainment/p-et-tp0-20070323-173630.html
■「槙原敬之vs松本零士氏が法廷で対決」(日刊スポーツ2008年7月8日9時0分)
http://www.nikkansports.com/entertainment/news/p-et-tp0-20080708-381095.html

●第8回「タスマニアと公害(空気汚染) ~議論沸騰の世界遺産地域~」

2007-04-13 13:48:43 | ■日本人はどこへ往く?

●第8回「タスマニアと公害(空気汚染)~議論沸騰の世界遺産地域~」=最近のABC 時事番組から=

ユネスコの世界遺産に登録されているタスマニア原生地域をもつ、オーストラリア・タスマニア州で今、大問題になっているプロジェクトがある。

Gunns projectと呼ばれ、AU$2 billion(20億豪ドル。日本円で約2千億円)が費やされているパルプミル(製材工場)プロジェクト のことである。このプロジェクトは、雇用促進など地域経済の発展に大きく寄与している一方、空気汚染(公害)によって、周辺の住民に対して、慢性の鼻・胸など呼吸器関連の健康被害を生み出していることが知られている。この問題を、当事者、専門家のインタビューを中心に構成されたものだ。

この番組は、THE 7・30 REPORTという時事問題を取り扱う、ABCテレビの看板番組の一つで、司会者は、数々の賞に輝く、ジャーナリストのKerry O'Brienが務めている。(NHKの「クローズアップ現代」のようなものでしょうか。)

この番組を見ながら、これらの難題解決のために日本の先進環境・公害技術は適用できないのだろうか、公害を乗り越えてきた日本の智(医療など)が活かせられないものだろうか、はたまた、現在議論中の日豪自由貿易協定(FTA)に将来関係してくるような(先進日本の環境技術輸出による貢献など)予感がした、というのが率直な感想でした。

また、ABCニューズ(電子版)には、「ABOの血液型よ、さようなら」とのAFP電(4月3日)が掲載されています。
最新のnature biotechnology(2007年4月号Vol 25 No 4)によると、誰にも輸血できるO型によく似た、「ユニバーサル」(万人のため)の血液型を創る方法を発見した、と科学者のClausen とそのグループが発表しています。
これは、A、B、AB型の血液型を、輸血の際に用いられるO型に安全に転換できる2種の酵素を発見したことによるということです。もしこの予備研究の成果が血液銀行に応用されるとすれば、これらの酵素はO型血液の供給を促進し、O型不足を解決する手段になるかも知れない、と述べられています。

なお、nature関連で、先月でしたか、nature publishing group (英国のネイチャー出版グループ)の新しい編集部が、東京に本社を開設したようです。

nature photonicsといい、光通信・光電子工学関連の最先端の基礎研究・技術論文を掲載していくようです。日本では、日経サイエンスが米のScientific Americanの日本語版を出版しており、日経BP社からは、種々の最先端ジャーナルが出版されていますが、英語→日本語への変化球と英語直球でのスピードの差は、かなりありそうですね。

今では、研究論文は、スピードが命の時代ですから、Online submission (オンライン論文投稿)が一般的になっているようです。初期の半導体関連の論文発表で、西澤潤一博士に以前お話を伺った時のような、郵送による論文到着・掲載の時間ロスの問題は、遥か昔のことになってしまいました。

さて、ABCは、オーストラリアで最も親しみのあるTV・ラジオ局で、日本のNHKと同じ公共放送局ですが、なかなか、NHKとは趣の違った人気番組があります。
例えば、the new inventorsという番組は、町の発明家の作品をプレゼンさせ、辛口の批評と共に、視聴者参加のランキングが示されます。日本にも大分昔に不真面目な似たような民放番組があったような気がしますが、この番組は、とても真面目な番組で、環境に優しい作品(商品)が多いようです。

※ABCとは、Australian Broadcasting Corporationの略で、オーストラリア放送協会のこと。オーストラリア連邦の公共テレビジョン放送局。

■ABCテレビ番組 THE 7・30 REPORT
http://www.abc.net.au/7.30/default.htm
「世界遺産地域のタスマニアで公害論争」2007年4月11日放送(番組録音原稿)
http://www.abc.net.au/7.30/content/2007/s1895040.htm

■ABC News (電子版)「ABOの血液型よ、さようなら」News in Science "health & medical"より
http://www.abc.net.au/science/news/stories/2007/1888637.htm?health
■ABCテレビ番組 the new inventors (ビデオ・オンデマンド)
http://www.abc.net.au/tv/newinventors/txt/s1889939.htm
■どんな血液型もO型に変換、輸血へ活用期待(YOMIURI ONLINE)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070402ik04.htm

■nature biotechnology
http://www.nature.com/nbt/index.html
■上記4月号の要約
http://www.nature.com/nbt/journal/v25/n4/pdf/InThisIssue.pdf

■ネイチャー:日本に編集部なぜ?…光関連産業分野でリード(毎日新聞)
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/kagaku/news/20070320k0000e040078000c.html
■nature photonics 日本本社
http://www.natureasia.com/japan/nphoton/marketing/about_journal.php

●第7回「不老長寿の最先端遺伝子研究、どの国が勝利を?」

2007-04-11 13:34:05 | ■日本人はどこへ往く?

●第7回「不老長寿の最先端遺伝子研究、どの国が勝利を?」

20世紀末から21世紀初頭は、インターネットに代表される情報技術の舞台、21世紀初頭以後は、遺伝子工学による新しい世界がスタートしています。

当地メルボルン大学で世界的に有名なものの一つが、遺伝子治療研究(Gene Therapy Research)。

Ageing (老化)研究だけでも、Faculty of Medicine, Dentistry and Health Sciences (医学・歯学・健康科学学部)の傘下に、5つの専門研究機関がある。
Department of General Practice (一般診療学科)
Department of Medicine: The Royal Melbourne Hospital and Western Hospital (王立メルボルン病院・西部病院内科)
Department of Pathology (病理学科)
Department of Physiology (生理学科)
School of Physiotherapy (物理療法学専門学部)

Genetic Physiology(遺伝子生理学)では、老化抑制・寿命延長に関わる研究、心臓血管リスク、身長や脱毛研究が行われている。

ある生物種(人種=ヒトは代表的生物種)の遺伝子の総和はゲノムと呼ばれ、ゲノムの末端にあるのがTelomere DNA(テロメアDNA。DNAとは遺伝情報を担う物質)です。

このテロメアが、細胞の寿命、つまり、人間の寿命と深い関係があると言われています。このテロメアの長さと人間の特徴の相関関係が測定できれば、たとえば、寿命がどれくらいになるか、若さの秘訣はなんなのかなどの秘密が解明されるのではないか、と言われています。つまり、テロメアが老化のカギを握るのであれば、テロメアの生存期間を長くしておくことで、細胞は死なないで分裂を続け、不老長寿の夢を実現する可能性があるのではないか、との仮説です。

そして、テロメアを合成する酵素「テロメラーゼ (Telomerase)」 も見つかっている。「このテロメラーザは、ガン細胞でも大量の存在が確認されており、ガン細胞の不死化の原因の一つと考えられている」(『ウィキペディア(Wikipedia)』)ため、テロメアとテロメラーゼをめぐる研究が世界的に激しくなっているようです。

こうなると、遺伝子レベルで人間の寿命が測定できるようになり、黒澤明監督の「生きる」ではないけれど、死の時期を悟った人間のその後の行動が変わってくるような気がします。現実の寿命は、環境などの影響要因が関わって、これほど運命論(決定論)的な結末になるとは思いませんが、死を意識した生活とそうでない生活の差はかなり大きいのではないかと思われます。

オーストラリアだけではなく、ヨーロッパ、アメリカなどでは、この種の研究費がたっぷりとつけられ、若い有能な研究者が世界各国から集まってきているようです。

さて、日本の現状は?

ハリウッド映画の「Xメン」やミュータント(突然変異体)の登場も、SF世界だけでなく、ひとつ間違えば、現実となる日が近いようです。そういえば、あのホリエモンも『人の寿命や「不老長寿」などを科学的に研究する「ライフサイエンス」分野に興味を寄せている。』との報道がありましたが、彼のビジネス的な嗅覚は衰えていないようですね。

参考
■メルボルン大学大学院での老化研究 http://www.mdhs.unimelb.edu.au/courses/postgrad/clinscience/ageing.html
■テロメアDNA(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%A1%E3%82%A2
■再生医学(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8C%BB%E5%AD%A6
■不老不死への科学
 http://genetics.fc2web.com/file/gairon.html
■遺伝子治療と臨床研究(大阪大学大学院医学系研究科)
 http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/cont/c_index.html
■理化学研究所ゲノム科学総合研究センター
 http://www.gsc.riken.go.jp/jpn/group/human/contents.html
■不老長寿の薬・鮎沢大さん
(asahi.com マイタウン神奈川【できたらいいな】)
 http://mytown.asahi.com/kanagawa/news.php?k_id=15000160701090002
■BT(バイオテクノロジー)戦略会議(首相官邸)
 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/bt/index.html

●第6回「感性系の勝利(日本人の良さを見直す)」

2007-04-10 12:26:23 | ■日本人はどこへ往く?

●第6回「感性系の勝利(日本人の良さを見直す)」

どうも人間の能力(アビリティ)には、カルチャ系とインテリ系があるらしい。
カルチャ系とは、感性を基盤に行動する系統で、インテリ系とは、知性を土台に行動する系列としましょう。

ご存知のように、戦後日本は、アメリカン・カルチャーの影響を多大に受けてきた。ミュージック、若者文化、ファッションなどである。一方、知識人予備軍の多くは、アメリカへ留学し、当時の最新知識(技術、政治、経済、文化など)を獲得してきた。フルブライト奨学金を利用した数多くの人たちやアイビーリーグの大学院卒業者が、戦後日本の ザ・エスタブリッシュメント(権力の中枢)を構成していたのではないでしょうか。

今、日本のカルチャー、特に、Manga、ゲーム、ファッションなどがアジアの若者を中心に全世界に展開しています。この分野は、国内的に見ると、特に、規制というものがなく、感性の優れた日本人観客に対して、自由に、絶え間ない競争を通して、独自に発展してきたものと思えます。ファッションは、ヨーロッパ(特にフランスを中心に)、アメリカ双方の要因が強く影響しながら、伝統的な日本の美意識がうまく絡まったものだと考えられます。また、細かさを特徴とするデザインへの感覚だけでなく、グルメブームも手伝った味覚に対しての感覚も、個性的な洗練性を完成させてきたのではないかと思う。

日本のインテリ系はどうでしょう。インテリ系の評価の一つである、ノーべル賞の日本人受賞者では、文学賞・平和賞以外は、理工系の学問がほとんどで、社会科学系統の受賞者はいません。(だから、ノーベル賞がどうだという訳ではありませんが、専門の経営学の分野では、野中郁次郎博士くらいしか国際的に評価されている人は知りませんが。)

どうしてなのでしょうか。

理工医生物学分野と違って、社会科学の分野というのは、特に規制が強い分野なのかも知れません。学界から目を離してみましょう。たとえば、身近なTV、政治分野で考えてみると、ジャーナリストの未成熟と相俟って、この分野での真剣勝負は、田原総一郎氏を除いてあとは見当たらないようです。政府・行政からの産業界や市民への規制は、まだまだ、たくさ~んの見えない枠がありそうです。これまでの日本人の知識輸入元としては、時間軸から言うと、中国の儒教思想を取り入れ、その後、文化・社会面ではヨーロッパやアメリカから、経済・経営面ではアメリカから、というのが一般的な流れだったように思います。

感性を育んだカルチャーに限って言えば、規制がなく、激しい自由競争の中で、比較優位性が、結果的に確保されてきたのではないか、と推測しているのです。

さて、日本人の良さは何か?
他国の国民性と比較して、これらのことがよく言われています。コミュニケーションツールとしての英語を除き、日常文化的な側面、つまり、「きれいずき」、「繊細さ」、「時間にルーズではない」、「一定の文化・教養を備えている(特に、先ほど言った感性分野など)」、「階級や階層意識がなく、どのレベルとも分け隔てなく交流ができる」という特徴がありそうです。

では、日本人の弱さは何でしょうか?
世界の異なった価値に不明、日本以外の出来事を知らない(除く自然災害/大事件)、性善説に立つ傾向がある、セキュリティ分野に無頓着、積極的に表に出るタイプ(文化)ではない、等々。

さて、まとめ段階に入りかけていますが、
昨年から今年にかけて、日本の将来の国家戦略として、「グローバル経済戦略」(2006年4月経済産業省)、「イノベーション25」(2007年2月中間報告)、「アジア・ゲートウェイ構想」(2007年3月中間報告)が発表されています。すべてカタカナなのが興味深いですが。

「グローバル経済戦略」では、東アジア経済統合の推進と日本のイニシアティブを中心に、世界各地域への経済戦略が述べられており、「イノベーション25」では、日本をイノベーション立国(2025年を目標に科学技術・社会・人材の革新国家)とすべく、科学技術投資の拡充、環境技術分野を基盤とした経済成長と国際貢献、大学での英語による授業の実施などが提言されています。「アジア・ゲートウェイ構想」においては、アジアとの交流について、インフラ(航空、貿易手続)、人材ネットワーク、金融ネットワーク、農業変革・構造特区、研究ネットワーク分野の提言がなされています。

これらの戦略構想は、将来の日本・日本人にある枠を設定することですから、官邸・行政・シンクタンクとエスタブリッシュメントの方々だけではなく、日本人の全智を傾ける必要があると思うのは、私だけでしょうか。

※写真は、ヨーロッパ最大の日本カルチャーのイベント、「パリ・ジャパンエキスポ」のバーナーより。

参考
日本人ノーベル賞受賞者
http://www1.odn.ne.jp/haru/data-result/nobelsho.html
グローバル経済戦略
http://www.meti.go.jp/press/20060412001/g.senryaku-p.r.-set.pdf
イノベーション25中間とりまとめ(総理官邸)
http://www.kantei.go.jp/jp/innovation/chukan/chukan.pdf
アジア・ゲートウェイ構想(中間論点整理)(総理官邸)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/asia/ronten.html