●イノベーション競争力: 日本、世界1位の中身。
~EIUの調査から~
07年5月14日Economist Intelligence Unit (EIU)は、「日本が、世界で最もイノベーティブな国家。研究調査の結果で判明」とのプレス発表(白書とよんでいる)をしている。この場合の競争力とは、国の競争力というよりも、産業の競争力(ひいては、国の経済成長力)と考えた方が理解しやすい。
EIUの調査方法は2つ。
485人のグローバル上級取締役からのオンライン調査。もう一つが、世界82ヶ国の、2002-2006年のイノベーション業績(後に説明)と2011年までの予測に基づいて、ランク付けを行ったもの。
2002-2006年では、2位はスイス、3位米国、4位がスウェーデンだった。
2007-2011年の間も、このランクは変わらないと予想している。
ちなみに、2002-2006年では、5位はフィンランド、6位ドイツ、7位デンマーク、8位台湾、9位オランダ、10位イスラエル。一方、2007-2011年では、5位ドイツ、6位台湾、7位フィンランド、8位イスラエル、9位デンマーク、10位オーストリアの予想。(82ケ国中、中国は54位(2007-2011年で37位、以下同様)、香港は23位(21位)、ブラジルは52位(40位)、シンガポールは17位(11位)、インドは56位(50位)、メキシコは45位(39位)。
EIUによるイノベーションの定義は、「一義的に経済的利益や優位性を求めるために、新しく、他と異なった、普通ではない方法で、知識を応用すること。the application of knowledge in a novel way, primarily for economic benefit」(報告書3ぺージ目)となっており、企業や政府にとっての重要性が増しているとの認識だ。学界や経営者の中では、イノベーションが生き残りのコア(中核)の一つだという人が多い。
日本はなぜ、世界1位の座にいるのか?
彼ら(著者:Nick Valery and Laza Kekic)のイノベーション業績評価項目(アウトプット)を見よう。
‐イノベーションの尺度としての人口100万人当たりの年間特許件数
‐人口100万人当たりの科学技術ジャーナルからの引用回数(US National Science Foundation and Thomson ISI's Science Citation Index)
‐UNIDO(国連工業開発機関)から導き出した、2つの比率の平均値:一国の製造 アウトプットでの中クラス―先端クラスの技術を使った製品のシェア、そして全 製造輸出品の中での中クラス―先端クラスの技術輸出品のシェア。この2つの平 均値。
‐World Economic Forum国際競争力報告書2006年からの調査質問の結果(新技術を 吸収できた、または精通した125ヶ国にある会社を評価したもの)が挙げられて いる。
一方、イノベーションのインプットを見る。
これは、上記のアウトプットとこれから述べるインプットの差異を分析して、イノベーションの効率を図ろうとするもの。
「イノベーションを直接牽引するインプット」としては、Business Environment
Rankings (BER)と呼ばれる、幅広いインデックスから次のような項目が選択されている。(各項目の重み付けなし)
日本は、この直接インプットでは11位(2007-2011年では12位)
‐GDPに占めるR&D費の割合
‐地方の研究インフラの質
‐仕事場での教育研修
‐仕事場でのテクニカル・スキル
‐ITと通信インフラの質
‐ブロードバンドの浸透度
次に、「イノベーションを間接的に牽引する(あるいは阻害する)インプット」として、経済、社会、政治要因と幅広いインデックスからなる。次の12要因だ。(*印が若干、他項目よりも重み付けしてある)
日本は、このインプットでは、23位(2007-2011年では25位)
‐政治の安定度*
‐マクロ経済の安定度
‐制度的フレームワーク*
‐政府の規制環境*
‐税制度・体制
‐労働マーケットの柔軟性(固定化されていない)
‐海外からの投資への国内経済の開放性
‐海外労働者の雇用が容易かどうか
‐海外からの影響力に対する国の文化の開放性
‐投資ファイナンスに対してのアクセス度
‐知的所有権への保護度
‐科学の発展へ対しての大衆の態度
まあ、よくもこれだけ、評価項目(要因)を挙げたものだと思いますが、それだけ、正確な結果(差異)がでると思われます。重みづけは、直接が70%、間接が30%だそうです。
さてこれから、彼らのデータベースを駆使しての分析が始まります。
日本は、直接インプットのランクは世界11位なのに、アウトプットは世界1位。ということは、極めて「イノベーションの効率が良い」ということになります。
一方、中国は、「イノベーションの非効率」が指摘されています。つまり、直接インプットが42位(2007-2011年は37位)なのに、アウトプットは17つ下の59位(同54位)なのです、等々。
結論として、EIU白書は、
「よりイノベーティブになる最善の方法は何か?この報告書で明らかなように、一つだけの、正しい方法というものはない。イノベーションはもちろん、西欧社会の領分だけであるはずがない。日本のポジションをよく見てください。ランキング・トップですよ。同様に、中国の台頭は言うまでもなく、台湾やシンガポールの強さを見ましょう。全員が強調していることは、イノベーションを強力に支えているのは、その国の政策と大多数の科学者やエンジニアを育てる教育システムなのですよ」と。
今回のイノベーション調査は、「2020年を展望する(Foresight 2020)」(2006年3月EIU報告書)から出て来たもので、3種類の調査モノの1つとなっている。3種類とは、「パーソナライぜーション」、「コラボレーション」、そしてこの「イノベーション」から成る。これらは、主要な産業の今後の展望と会社活動に深い影響を与えるものとの前提がなされている。でも、他の2つも結構興味が引かれるテーマですね。
ところで、
報告書の補遺(Appendix C: Survey results)の中で、485人のグローバル上級取締役の回答は、なかなか興味をそそらせるものがある。
例えば、こういった質問への回答である:
最も成功したイノベーションの源は?、どの分野で?、どういうやり方でイノベーションを主導していったか?、などなど。
その中で、「従業員にどのようなインセンティブを?」の質問には、
会社リーダによる周知(対外への告知)38%、
賞(プレゼント)33%、
会社リソースへのアクセス特権27% (これは何でしょうか。トレードシークレットなどのことでしょうか?)、
「規定の仕事から解放しイノベーションのための休暇」と「昇給」がそれぞれ22%となっていました。
また、「あなたの組織では、長期的な成功のために、イノベーションはどのくらい重要ですか?」との質問には、
当然のごとく、
非常に重要47%、重要40%、幾分重要12%、重要ではない1%との回答が述べられている。
以上、日本の強みは、アウトプット(イノベーション業績)にあることが分かりましたが、
弱みは何でしょうか。
お分かりのように、そのインプットにあります。
「イノベーションに最適な場所はどこか」との問いに、40%の回答者がアメリカを、インドが12%、イギリスが6%。一方、日本は2%となっている。
これをどう解釈するか、ということです。
イノベーションの環境(間接インプットのこと)が日本の場合、2002-2006年で82ヶ国中23位、2007-2011年で25位と示されているけれども、「最適な場所でない」理由として、報告書は、「言語のバイアス(偏見)かも知れない。この報告書は英語のみでなされたものだから。疑いもなく、日本はイノベーションをするのに最も快適な場所ではないというのが、回答者の上級取締役の共通見解である」と言う。
これだけのインベーション環境の不利な状況から、最大の効果(イノベーション業績)を出している日本は、今後、この環境を変えていけば、よりもっと、効果があげられると考えた方がいいのだろうか、それとも、このまま、これまでのように、日本人だけで、「イノベーション、さもなければ死か」を胸に、生きていくのだろうか。。。
P.S.
さて、国際競争力の格付けでは、上のイノベーション分野とは違って、IT(情報技術)分野の国際競争力を扱うWorld Economic Forum(世界経済フォーラムWTF。ダボス会議)の「世界IT報告書」や総合的な国の競争力を測定しているIMD(スイスの国際経営開発研究所)の「世界競争力年鑑World Competitiveness Yearbook」が有名ですが、今日はこの辺で。
※ EIUは、英経済誌The Economist (エコノミスト)の調査部門、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)のこと。
※※ 調査方法は、2006年11月、オンラインでのサーベイ。対象は、485人のグローバル上級取締役。大半は財務サービス産業で、その次にIT・技術産業、専門サービス業、製造業、健康管理業、製薬業、バイオテクノロジー産業と続く。回答者の48%が年間売上高5億US$までの会社に働き、26%が50億US$以上の売上げ。地域的に
は、欧州・中近東の会社が56%、25%がアメリカ、20%がアジア・オセアニア地域(%
は切上げのため、101%になっている)。
【参考】
■
Innovation: Transforming the way business creates includes a global ranking of countries(報告書本文PDF 44ページ)by The Economic Intelligence Unit (EIU)
■
時事ドットコム「技術革新度、日本が世界トップ=資源乏しく生命線-英社番付」(2007/05/17)