Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

☆☆第79回「自信をなくした人へ~心理療法で実際に回復したお話(その3)」★☆

2021-01-02 16:37:14 | メンタルヘルス

☆☆第79回「自信をなくした人へ~心理療法で実際に回復したお話(その3)」★☆

 

前回の2番目の方法では、小さい頃から形作られた自分、将来、周囲への否定的な考え方のことをスキーマ(抑うつ/不安スキーマ)と呼びました。この深層にある思い込み(抑うつ/不安スキーマ)が、大人になったときに、その思い込みと同じような出来事に出くわすとその深層の思い込み(スキーマ)が刺激され、活性化されて、自信をなくし、うつや不安に陥るとの考え方(領域一致の仮説)を解説しました。

たとえば、小さいときから、「自分は出来が悪い」というスキーマをもった人が、大人になって失敗すると、そのスキーマが活性化され、「やっぱり自分はそうなんだ」と自信をなくし、うつや不安になる、ことが知られています。

 

さて、このスキーマをより詳しく調べていきましょう。

18のスキーマをここでは、すべてを解説はしませんが、「自信」と関係ありそうなスキーマをピックアップしましょう。

 

「C他者への追従」、「D過剰警戒と抑制」と「E制約の欠如」が関係ありそうです。

 

「C他者への追従」とは、自分の欲求よりも他人の欲求を満たそうとすることで、自分よりも他人を重視します。こどもの頃から、自分の中に自然と生じる欲求に従うのではなく、親の愛情や承認を得るために、自分の中にある大切な面を抑えてきた人たちです。とくに、他人から評価されたり、承認されたり、注目されたりすることに、過度にとらわれており、しっかりした自己感覚を育ててこなかった人々です。地位、外見、経済力、業績にひどくこだわり、「評価と承認の希求スキーマ」をもつことになります。

 

「D過剰警戒と抑制」とは、自分自身の行いに対して厳格なルールをもっている人たちです。厳格で、抑圧的な家庭に育ち、自然な感情、幸福感やリラックス、健康といったことを犠牲にして、ルールを守るために日々の生活、仕事を行っている人たちです。子どもの頃、遊びを楽しむことなく、始終警戒し注意深くしていた人たちです。完璧主義や業績を上げることに没頭したり、厳格な基準と”~すべき”ことを求める、「厳密な基準/過度の批判スキーマ」をもつ人たちです。また、失敗した人は厳しく罰せられるべきであるという信念をもち、自分の期待や基準に見合わない人に対して、イライラしたり、怒りを感じたり、罰を与えるべきと考えます。自分の失敗も他人の過失も許すことができず、他者の気持ちに共感することができないタイプです。これは「罰スキーマ」となります。

 

Dのスキーマとは真逆なのが、「E制約の欠如」です。

小さい頃に甘やかされた家庭に育ち、自己中心的で、無責任で、自己愛的な人たちです。他人の権利を尊重したり、他者と協力したり、約束を守ることができない人々です。子供のとき、誰もが従うべきルールを守ったり、他人を配慮することがなく、自己制御についてのしつけを受けていません。自分が他人より優れており、特権と名誉を与えられていると信じている人たちです。成功者、著名人になることやお金持ちの人間になることに過剰な関心を抱いている人たちで、「権利要求/尊大スキーマ」をもつことになります。

 

これらの深層の思い込み(スキーマ)が幼少期に形成され、大人になってからも、そのスキーマに服従したり、回避したり、過剰補償したりして、自分の生活を生き抜いてきたのです。

 

服従とは、そのスキーマを真実であると認め、スキーマのいいなりになることで、たとえば、「評価と承認の希求スキーマ」では、自分のことを相手に印象付けるためにもっぱら振る舞うことで、「厳密な基準/過度の批判スキーマ」では、多くの時間を割いて完璧であろうとし、「権利要求/尊大スキーマ」では、自分の業績を自慢することなどがあげられます。

 

回避とは、そのようなスキーマがあたかもないように振る舞い、自らそのスキーマに気づかないように、注意深く生活し、スキーマが活性化しないように無意識的に生きていきます。たとえば、「評価と承認の希求スキーマ」では、この人に良く思われたいという人たちとの交流をさける。「厳密な基準/過度の批判スキーマ」では、成果が評価されるような場面を避け、「権利要求/尊大スキーマ」では、自分が優位性を発揮できない状況や自分が普通の人となる状況を避ける、ことになります。

過剰補償とは、そのスキーマと正反対のことをしてスキーマと闘うことで、たとえば、「評価と承認の希求スキーマ」では、できるだけ目立たないようにしたり、他人から批判されそうなことばかりし、「厳密な基準/過度の批判スキーマ」では、規範を無視したり不注意にあるいは大急ぎで取り組みます。「権利要求/尊大スキーマ」では、極端に下手にでたり、他人の要求に応じてばかりすることになります。

 

自分の胸に手を当ててみると、そうそうだ、といったことが思い当るかもしれません。

 

これらの深層の思い込み(スキーマ)は、そのとき、つまり、幼少期や思春期にはそれなりの意味があったはずです。そのときに、生きるために必要なことでもあったわけです。ところが、大人になって、周りの状況も環境も変わっているのに、深層の思い込み(スキーマ)は、当時のままで、なかなか気づかないまま、ここまで来てしまったのです。

 

今、自信がなくなったことと、幼少期からもっていて、今まで気づかなかった深層の思い込み(スキーマ)との関連を考えます。そうすると、自信喪失の深~い理由が、絡まった糸をほぐすように、すこしずつ分かってきます。

深層の思い込み(スキーマ)が分かっただけでも、自信喪失のひとつの原因が分かり、そこから生じてくる、表面的な考え方(表層ビリーフ、自動思考、不合理な考え方、否定的な考え方)の間違いが分かり、それに気づくことで、自分でその間違いを修正することができます。

 

[注γ]

【参考】スキーマ療法 (ジェフリー・E・ヤング)

Mental Health First Aider (メンタルヘルス=こころの健康実践援助家)より


☆☆第78回「自信をなくした人へ~心理療法で実際に回復したお話(その2)」★☆

2021-01-02 16:26:25 | メンタルヘルス

☆☆第78回「自信をなくした人へ~心理療法で実際に回復したお話(その2)」★☆

さて、前回の方法では、まだまだ自信が回復しないよ、という方々には、2つ目の方法を検討してみましょう。

 

はっきりしたきっかけがないか、いろいろなきっかけが混ざり合ってはっきりしないけれども、自分自身、自分を取り巻く世界(経験)や自分の将来について、否定的なビリーフ(考え方、解釈の仕方、意味づけ、認知の仕方)が現れる場合です。これは、自分は不完全で、人から拒絶されていると思ったり、自分を取り巻く世界には克服できない障害があると思ったり、今後、困難や苦悩はずっと続いていくので、自分はきっと失敗するだろう、と考えるもので、このようなネガティブな考え方によって、自信を失うというものです。

 

否定的な考え方(ビリーフ)は、前回[α]で取り上げた「不合理なビリーフ」に似たところがありますが、この方法では、ビリーフを表層と深層の2層に分けて考えます。表面的なビリーフと深く自分のこころに巣くっているビリーフの2種類です。表面的なビリーフとは、失敗した(きっかけ)⇒この仕事・課題は難しい、自分には無理だ、といったように、あるきっかけで頭の中に浮かぶ考えやイメージのことで、深く考えるまでもなく半ば自動的に起きるビリーフです。

 

2つ目のビリーフは、1番目のビリーフを形作っているもので、深く自分のこころに巣くっていて、普段の生活ではなかなか見つからないビリーフのことで、深層にある思い込みで、「スキーマ」といいます。小さい頃から形作られた自分、将来、周囲への否定的な考え方(ビリーフ)のことです。この深層にある思い込み(スキーマ)が、大人になったときに、その思い込みと同じような出来事に出くわすとその深層の思い込み(スキーマ)が刺激され、活性化されて、自信をなくし、うつや不安に陥ることが知られています。

 

深層にある思い込み(スキーマ)からは、いろいろな先入観(推論の誤り、認知の誤謬)が作用し、表面的な考え(表層ビリーフ。自動思考)に大きく影響を与えます。

 

いろいろな先入観(推論の誤り)とは、たとえば、

・成功か失敗か、つまり、成功しなければ、自分は失敗者だという「全か無かの考え方」

・現実的にありそうな可能性を見ずに、否定的な予想をして、「私はこんなに自信をなくしている。今後も、物事がうまくいくことはないだろう」といった、「運命の先読み(破局観)」、

・業績を悪化させた。自分はダメ人間だという「誤ったレッテル貼り」

・自分の短所や失敗を拡大ししたり、逆に自分の長所や成功を過小評価する「拡大視・微小視」

・この仕事でうまくいかなかったから、結局自分には仕事をうまくやることができないといった「過度の一般化」

・自分が何かへまをしたから、上司の態度が変わったんだと、理由もなく、他のありそうな見方を考えずに、自分のせいだと思いこむ「自己関連付け」

・こんなに評価が低いということは、自分の仕事全体がどうしようもなくひどかった、というように、良いことも悪いことも実際は起きているのに、否定的な面だけを取り上げる「心のフィルター(選択的抽出)」

・ミスをしてしまった。自分は常にベストを尽くさなくてならないのに、という「ねばならない思考」、などなど、

自分自身では気がつかないけれど、現実の仕事や生活で、知らず知らず思い込んでいる、間違った判断の枠組みのことです。

 

実際にこの方法をどう活用したらよいでしょうか。

 

まず、どんな状況がいつ自分に問題になっているか、そしてその時に頭にある考えは、何だろうか?、その時の気分は?、と表面的な考え(表層ビリーフ。自動思考)をモニタリング(観察・記録)します。表面的な考え(自動思考)は、本当に、自動的に一瞬に通り過ぎていくものですから、しっかり、モニタリングします。

つぎに、その表面的な考えが正しいと思う根拠や理由を探します。同時に、その表面的な考えについて、もしかしたら間違っているかもしれない根拠や、見逃しているかも知れない事実を挙げてみます。

 

たとえば、

表面的な考え(表層ビリーフ、自動思考)が、「この仕事・課題は難しい、自分には無理だ」と考えた場合、それが正しいと思う根拠や理由を考えます。

たとえば「この仕事は、今までやったことがない、これまで、上司がやっていた仕事で、自分には経験も知識もないから、無理だ」とか、いうことです。そのことを考えると、不安になってしまい、現在やっている仕事もままならない、などです。

一方、もしかしたら間違っているかもしれない根拠や見逃しているかもしれない事実というと、「いや、今までやったことがないというが、これまでも、新しい事業にチャレンジしてどうにか上手くこなしてきたではないか、経験や知識がないときでも、同僚や上司のオンザジョブトレーニング(OJT)やいろんな研修を受けて、すこしづつでも習得してきたんじゃないの」といった考えのことです。

 

表面的な考え(自動思考)が見逃しているかも知れない事実を判断する場合、最悪の事態ではなく、最良の事態を想像してみる、自分の同僚や友人が同じ状況に置かれたときに、もし自分だったらどうアドバイスするか、相手の身になって考えてみる(これはなかなか難しいですが)、自分の能力や責任以外の事柄を考える、などがあります。

 

このように、表面的な考え(自動思考)の前提となっている「深層にある思い込み」(スキーマ)から出ている先入観(推論の誤り)を明らかにしたり、表面的な考え(自動思考)が見逃している事実を見直し、別の考え方を取ったりして、なくなった自信のもととなる考えを変え、自信を取り戻していこうという方法です。

 

次回は、この「深層にある思い込み」(スキーマ)に焦点を当て、より深掘りした方法をとりあげ、どう自信を取り戻すかを考えてみましょう。

[注β]

【参考】認知療法実践ガイド基礎から応用まで (ジュディス・S・ベック)

    心理療法ハンドブック (乾吉佑 他)

Mental Health First Aider (メンタルヘルス=こころの健康実践援助家)より