Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

★☆第44回「翻訳文化の危うさ~NHK報道に見る誤解」★☆

2009-09-02 21:50:29 | ■ことばの背景(英語と日本語の備忘メモ)

★☆第44回「翻訳文化の危うさ~NHK報道に見る誤解」★☆


今回も引き続き、NHK報道の脆弱さを指摘したいと思います。

私はジャーナリストではなく、コンサルティング分野の専門職ですので、単に批判のための批判というつもりでこのブログを書いているわけではありません。微力ながら、報道の正確さを保ちながら、できるだけいい方向へ変えていくために、なんらかのヒントになればと思い、書いています。
もちろん、NHKには何の恨みも、利害関係もないです。

本日、
ワシントンポスト紙の9月1日付けの社説の翻訳が
NHKで報道されていました。

9月2日 16時35分
『アメリカの有力な新聞「ワシントン・ポスト」は、日本の新しい総理大臣となる見通しとなった民主党の鳩山代表について、アジアに軸足を置く外交政策を掲げていると指摘したうえで、北朝鮮の核による脅威があるなかで「アメリカとの決別を模索するものであればあまりにも危険だ」と厳しく論評しました』

となっています。

この記事は気になったので、すぐに、原文をチェックしました。

原文はこうです。
But the threat of a nuclear North Korea makes Japan's neighborhood too dangerous, we think, for the government in Tokyo to seek a rupture with Washington or for the Obama administration to let one develop.

普通の文章に直すと、

「しかし、核保有の北朝鮮の脅威が、日本周辺をあまりに危険にしているため、
東京の政府がワシントンとのこれまでの関係を断絶しようとすべきではないし、
オバマ政権がその断絶を促進するべきではないと、私たちは考える」

となります。

これは、簡単な例で言うと、

The cat is too high in the tree for me to reach her.
(その猫が木の上の方にいるので、私は捕まえることができない)
の構文と同じです。

別の英語に言い換えれば、
But the threat of a nuclear North Korea makes Japan's neighborhood too dangerous, so we don't think that the government in Tokyo may (should) seek a rupture with Washington or the Obama administration may (should) let one develop.(訳文は、「普通の文章」と同じです)

つまり、
あまりに危険なのは、
「北朝鮮の核の脅威のこと」を言っているのであって、
NHKの報道にあるような
「アメリカとの決別を模索するもの」が「あまりにも危険」
とは言っていないのです。

このニュアンスの違いを知ることは、とても大事なことです。
(たまに、意図的にそのような翻訳をする報道機関もあるようですが)

これは、以前、
レッドソックスの松坂報道(米大リーガーのトレーニング方法)でも、似たような間違い(誤解)がありました。

「米メディアも激怒! 松坂“機密漏えい”に厳罰必至 」(夕刊フジ7月29日。ボストングローブ紙7月29日付けより)

首脳陣レッドソックスのマネージャTerry FranconaとピッチングコーチのJohn Farrellが話した言葉は、

"Disappointed, yeah,,,"(がっがりした、ほんとに、、)
"So the disappointment comes from [him] basically airing his dirty laundry."(がっかりしたのは、内輪の話を公開したことです。)

"Not disappointing that he has an opinion, because that's very welcome. Disappointing in that we took a meeting that was confidential and he decided to air it publicly. Yeah, we're very disapopointed."
(彼が自分の意見を持っていることに、がっかりしたのではないですよ。自分の意見をもつことは、とても好ましいことですから。
がっかりしたのは、内輪の話で、マル秘の話を、公開したということなんです。本当に、そのことにとてもがっがり(失望)している。)

なぜ、disappointedが「激怒」になるんでしょうね。

「激怒」と「がっかり(失望)」は、 かなり、日本語では、ニュアンスが違うのに。


報道機関に携わる翻訳者は、相当、気をつけて仕事をしないと、
なんでもないことが、両国の誤解を増幅することになるいい例です。

なお、ワシントンポスト紙は、1877年創刊の新聞社で、共和党のニクソン大統領の辞任につながった、ウォータゲート事件の報道で有名。その報道で1973年のピューリッツァー賞を受賞する。また、1970年にオンブズマン制度(いずれの党派にも加担しないで、冷静な判定者の役割を果たす)を新聞社で初めて導入したことで知られています。



【参 考】

米との決別 模索なら危険”(NHKニュース 国際)

★なお、
産経ニュース・国際(2009.9.2 01:53【ワシントン=山本秀也】)では、
米主要紙、鳩山氏の対米姿勢に相次ぎ懸念

『日本が米国との決裂を求めたり、オバマ政権がその溝の広がりを許すことがあれば、「北朝鮮の核の脅威は日本の周辺をきわめて危険なものとする」と警告した』となっている。 (←日本語として、よくわからないが、、、、)

★Washington Post
Editorials: Shake-Up in Japan_Two parties are better than one. Tuesday, September 1, 2009

★The Boston Globe
Sharp replies issued - Matsuzaka gets pointed response
By Amalie Benjamin
Globe Staff / July 29, 2009


米メディアも激怒! 松坂“機密漏えい”に厳罰必至~
フランコナ監督「とてもおろかな判断」

ZAKZAKは、産経新聞社が発行する「夕刊フジ」の公式サイト。

◆第43回「討論のできない日本人、朗読得意な日本人」◆▽

2009-09-01 01:12:26 | ■ことばの背景(英語と日本語の備忘メモ)

◆第43回「討論のできない日本人、朗読得意な日本人」◆▽


生身の人間同士が討論をして、解決の道を探すというのが、ソクラテス以降の伝統的な欧米社会のスタイルだ。

一方、ふみの文化、すなわち、書き言葉を中心に発展してきたのが日本だ。海外の有名な小説、論文、記事などを輸入して、翻訳して、国民へと知らしめる。これが、伝統的な日本社会の輸入文化のスタイルだ。

さて、
NHKワールド(海外向けのNHK放送)で、民主党の圧勝に終わった、09年衆議院選挙報道(Newsline: Japan Decides)を見ていて、なんだか、違うなあ、との思いが募ってしまった。

NHKの政治記者が、その割り当てられた半分以上の時間を、英文記事の朗読にあてているのだ。アンカーパーソン(司会者)との会話というよりも、原稿朗読に熱中して、ほとんど目を上げず、選挙解説をしていた。日本の最高の報道機関の記者が、海外向け英語番組で、会話をしていないのだ!

これは、NHKの他の海外向け放送の番組を見ていたときも、時々不思議だなと感じることと一緒だ。
Asia 7 Daysのときもそうだった。Asian Voicesのときもそうだった。他の日本人ゲストと同じように、原稿を読むのが主で、会話や討論というスタイルではない。これは、NHKだけに限らず、政府関係の国際会議や国際学会でも、日本人参加者によくみられる光景である。

なぜ、こんな演出が許されているんだろう。

このグローバル化された社会で、
生身の人間同士が意見を交換しあい、
互いの弱み・強みを認識して
別の解決策を見つけようという舞台では、
ほとんどと言っていいほど、日本人が登場してこない。

さて、今回の衆院選挙報道では、アルジャジーラでは、中国系リポーター(香港出身かな?)が、CNNでは、中国系アメリカ人のリポーターが東京からリポートをしていた。
NHKワールドの記者も、エスノセントリック(自国中心主義)から現地リポーターの活用へと変化しつつあり、以前と較べたら、柔軟性もいや増しているようだ。

世界英語という視点から考えると、これまでの安易な(アメリカン)ネイテイブ崇拝はもうそろそろ終わりにしたらどうだろう。日本には、英語をしゃべれる人材が、そんなに枯渇しているのだろうか、それとも、日本国民の完璧症がそうさせているのだろうか。(もし、完璧主義を貫くのなら、ハードルが高すぎて到底マスターできないだろう)

また、経験上から判断すると、
「読む-書く」時に使う脳の部位と、
「聞く-しゃべる」時に使う脳の部位は、
どうも違っているらしい。

一方、NHKワールドのJ-Techでは、パックンマックンのマックンが英語で解説をし、J-Waveでの別所哲也の長年の起用もなかなか素晴らしい演出だ。

今後とても大事になると思われるのは、

・グローバル時代に即した、英語で主張できる人材の育成(原稿を読むのでなく)
・ネイティブやバイリンガルに限定せず、日本語なまりの英語でも、討論に参加し、しゃべれる人材への応援

である。


最後に、ちょっと視点を変えてみよう。

情報のデザイン面で言うと、
情報のサイクルは、情報を収集して、蓄積し、分析/活用し、それを配信(発信)するというのがグローバルに知られたことだが、世界を相手にするときは、どうしても、英語という世界語の存在を語ることなくしては意味がない。

吉原欽一氏が提言するように、この情報の流れに必要なシステムやインフラを構築することは、オールジャパンの喫緊の課題である。

その中でも、最も遅れをとっているのは、英語での情報発信の仕組みづくりであり、これなくしては、日本は、ますます孤立化への道を歩み、ガラパゴス化の世界へ浸りつづける、ことは言を俟たない。


※上記の写真は、左がJ-Wave Tokyo Morning Radio Blogから、中央と右はNHK WorldのWebサイトから使用した。


【参考サイト】
NHK Newsline
吉原欽一『米中のG2時代で問われる日本のスタンス~「情報安全保障」の重要性を認識せよ』
(日経BPnet 特集:09衆院選 政権選択 新政権が実行すべき政策は何か2009年8月26日より)
「日本の国益に資する情報を収集し、守り、活用し、そして発信するために必要な制度、システム、インフラを構築することは、変わりつつある世界のなかで、オールジャパンで取り組む最重要課題である」