Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

●第16回「個人と集団人 ~西欧人と日本人~ (グローバル・国際化)」

2007-06-08 18:23:08 | ■日本人はどこへ往く?

●個人と集団人 ~西欧人と日本人~

最近、ここメルボルンで、2種類の情報に触れることがあった。
そして、日本人の行き先について、とても考えさせられました。

一つは、
オーストラリアの幼児教育ビデオ。

もう一つは、
日本へ英語教師として1年半日本に赴任した、英国生まれのオーストラリア人の投書です。

幼児教育ビデオのシリーズの題名は、「Diversity(多様性)」。
その第一巻が、Individuality(「個性を育む」)。

幼稚園か保育園での幼児の行動がビデオに収録してあり、そのビデオを見ながら、幼児の個性を伸ばすには、どういうアプローチがあるのかについて、幼児教育の専門家(10名位)が議論をしている内容です。

まず、見ていて、日本人の私として、衝撃だったのは、
幼児にとって、危険のない限り(ムリに飛び降りるとか)、
すべて、幼児のセルフ・ヘルプ(自分で何でもやらせる)が
基本になっていることでした。

カウンセラー(ヘルパー)の人は、なんの指示も、手伝いもしないのです。
例えば、トイレ、食べ物、お絵かき、遊びなど、自由にやらせて、それを見守っているのでした。

だから、幼児は、自分で、何でもやらなければならない。
最初は、試行錯誤、時間がかかっても、
最後には、それなりにその行動を完成する。
親は、それも見て、何にも手伝わず、
言葉で「褒める」。
子供は、褒められた後は、その行動を学習する。

西欧の「個人主義」の源泉は、幼児からの教育にあったんだ、と初めて気がつきました。

日本人が海外へ出て、特に、大学留学で周囲の個人主義的生活に親しむのと、
断然、歴史が違う。

集団主義的生活は、他人の視線の中で「気に」しながら、行動をする。
これは、幼児だけでなく、その後ずっと大人になってからも。
もちろん日本人だけでなく、日本にいる西欧人も日本人の視線を気にかける。
以前、アメリカから来ていた若い女性が、こう言っていたことを思い出します。
「いつも見られているから、時々、わざと突飛なこともするのよ」って。

よく、日本は、high context society という表現がなされている。
つまり、状況/他人に左右されやすい世界が、日本なのだ。

そういえば、比較文化学の古典である、ベネディクトの「菊と刀」(1946: 2)にも、

『日本人は、最も高い程度で、双方の行動を取る。アグレッシブ(攻撃的行動を取ったり)だったり大人しかったり、軍国主義的であったり審美的であったり、横柄であったり丁寧であったり、柔軟性がなかったり融通がきいたり、従順であったり小突きまわされると憤慨したり、忠実であったり裏切ったり、勇敢であったりおずおずしたり、保守的であったり進取の気象に富んだり、と。彼ら日本人は、他人が彼らの行動についてどう考えるかについて、驚くほど、気にする。そして、日本人の行動の誤りについて、他人が何も知らないと思ったとき、自責の念にかられて打ちのめされるのです』

他人がどう考えるかを気にするというのは、良く言えば、相手の気持ちを察することが出来る、悪く言えば、人の意見(特に海外の意見)に左右されやすいということでしょうか。

一方、
個人主義的生活は、他人の視線をほとんど「気にしない」。
自分のやりたいようにやる。
キスをしたい時にキスを、抱擁したい時にホウヨウを。
食べたい時には、列車の中でも、歩いている時でも、飲食禁止の図書館の中でも。

大部、日本も、現象的には、近づいているところがあるようですが。

♪♪♪
さて、メルボルンで夕方の退勤時にほとんどの人が読んでいる、フリー・タブロイドのmX(日刊)の6月6日のmX TalkのLetter of the day。
4段抜きの大きな見出しで、
Lessons to learn from polite Japan (礼儀正しい日本から学んだ教訓)とあり、

「最近、私は日本で過ごした1年半の間に、幸せな気持ちになりました。」
ではじまるAlexander, Pakenham(町名)からの投書は、こう続きます。

「日本人については、その美しく、真面目で誠実な性格を、私は保証できますよ。
私は、英国で生まれ、思い切って日の出ずる国に行く前は、スペインとオーストラリアへ住んでいました。
それぞれの国が従っているマナーの範囲や領域を発見しました。
そして、こう結論づけました。
オーストラリアは、マナーや人に対する尊敬が、明らかに欠如していて、それが非常にたやすく分かることです。道路で事故が起きたとき、中指を突き出して侮蔑しているしぐさは頻繁にみられますし、ストアでの失礼で冷たい客への扱いなど。こんなことは、日常でよく見られることです」

そして、日本が登場します。

「日本は、この私を吹き払ってしまいました。
私は、この国が外国人をどのように扱うのか、何の先入観ももっていませんでした。
何故なら、比較のもとになるのは、オーストラリアでしばしば見た人種的偏見からなっていましたので。
.....

そこは、私を、特別な感じにさせてくれて、尊敬されて、啓発された環境だったのです。

日本にいるときを振り返ると、店のスタッフの親しげな挨拶を思い出します。
通りで迷っている外国人への親切な態度、必要なことを喜んで助けてくれるその優しさ、、、、
それらのことを思い出します。

。。。。と続くわけです。

さて、個人主義の国で暮らすことは、集団主義に慣れた日本人としては、
何か、さびしい感じもするし、また逆に、自由な気もしますネ。
大学院での授業中でも、出入りは自由で、教授もそんなことは
全く気にかけない。

日本人が、海外で活躍するには、「自立心」(自分だけの力で物事を行っていこうとする気持ち)と「自律心」(自分で自分の行為を規制すること。外部からの制御から脱して、自身の立てた規範に従って行動すること)とが必要だと考える一人ですが、これらの態度・心・生き方は、集団主義的社会からは育まれないものなのでしょうか。

とまあ、いいとこ取りをもくろんでいるわけですが。
つまり、相手を思いやる、察しがよい日本人の美点はそのままにして、相手(特に、海外)からの意見や論議には、正々堂々と主張をする、というようなことです。
これはあたかも、日本の『和をもって尊しとなす(以和為貴)』と西欧の『異をもって尊しとなす』の文化の衝突のようなものでしょうか。

学界で以前議論されていたものの中で、
Convergence vs. Divergence (「一つに収束する」 対 「発散して多様になる」)という議論があります。

西欧の学者先生方が思うように、日本社会だけでなくアジアが、西欧社会にコンバージェンスする必要もないと考えますが、ただ、世界と伍してたたかう(?)には、自立(自律)心の教育が絶対不可欠なのは、言を俟たないことでしょう。

そのためには、どんな処方があるのか、これは、考える価値あることだと思っています。

※ mXの発行部数(Web siteによれば)は、ブリスベン、シドニーとメルボルンで合計288,000部以上とある。
http://www.mxnet.com.au/

【参考文献】
Benedict, Ruth (1946) The chrysanthemum and the sword: Patterns of Japanese culture. Boston, MA: Houghton Mifflin.

●第15回「イスラム教とマネジメント~異文化での仕事と経営」

2007-06-02 18:23:40 | ■カルチャからの解放

●イスラム教とマネジメント
~マネージャの行動へのイスラム教の影響力~

メルボルンには、湾岸諸国(サウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦など)やトルコ、パキスタン、インドネシアなど、イスラム諸国からの留学生が多く見られます。また、私の身近にも、ムスリムの学生が何人かおり、個人的印象としては、儒教の影響を受けている日本人・韓国人と似た面もあるなと感じています。

さて、クロス・カルチャーの勉強で、とても興味深い内容がありましたので、その要点について、知識の共有をしましょう。

国際ビジネスの一コースでは、特に、アジア諸国のマネジメント(中国のGuanxi=関係重視や家族経営、インドのマネジメントとヒンドゥ‐教の影響、東アジアでのマネジメントと儒教の関係など)と経営管理の土台となる宗教・文化の関わり合いについて、主要国ごとのマネジメントの特徴が示されました。そして、アジアの最後は、イスラム文化とマネジメントとの関係でした。

アラブ(イスラム)世界のビジネス関係では、Wasta(人と人との関係。縁故。コネ)が意思決定に影響力を与えている。これは、中国のGuanxiと類似している。でも、振り返ってみれば、日本も、人間関係重視の国ですから、西欧諸国から見ると、アジアのマネジメントは異質なのでしょうね。

さて、イスラム諸国の行動規範(信仰行為)は、以下の5つの柱から成り立っています。

1.信仰告白(Shahada.一人の神様(アラー)しか他に神はない、モハメッド(ムハンマド)は神様の使徒(預言者)です。)
2.お祈り(Salat. 夜明け、正午、午後、日没、晩の5回の礼拝)
3.断食(Sawn.ラマダンの月)
4.義務としての慈善行為(Zakah.喜捨。礼拝と精神的な投資行為;収入の2.5%)
5.巡礼(Hajj.サウジアラビアのメッカへ)

次に、労働倫理のキーになる要素について。

1.合法/適法のビジネスを追求(利益は他者や社会へ)
2.富・財は働いて得なければならない(神は自助努力に報酬を与える)
3.勤勉(質の高い仕事をうまくやればご利益がもたらされる)
4.公平で正当な給与と他者に対する寛容さ
5.自活すること。過度な重荷を負わないこと。

以下の行動/行為は、批判される。

1.独占的行為/行動
2.賄賂と買収
3.欺瞞
4.ウソと隠蔽
5.貪欲と高い利殖

また、労働倫理の4要素は、

1.努力
2.競争(アダムスミス的な新古典主義)
3.透明性
4.責任ある道徳的行為(道徳的行為が経済の繁栄と活力に満ちたビジネス社 会の基盤となる)

Ali のムスリムへ対しての労働倫理の調査 (2005, pp.57-62)によれば、
5点満点で、

4.8 「協力は、仕事上の美徳である」
4.7 「仕事は、義務的な行動である」
4.6 「怠惰は悪である」
4.6 「質の高い仕事への没頭は、美徳である」
4.3 「仕事に終わりはない」 
その反面、
 「ほとんどの時間を仕事に費やすべきである」は、
 2.6となっている。

伝統的なイスラム社会でのリーダーシップについて。

‐リーダーシップは、正義(公正)や思いやりに基づいた理想社会を実現するための方法であること。
‐リーダーは、正義(公正)を促進し、実行する責任がある。

また、ビジネス界のリーダーたる条件として、Ali (2005:145ff)は、

‐道徳の鍛錬(善行、忍耐、寛容さ、紛争・対立の解決能力、無私、責任感)
‐ウソ、怒り、傲慢を避けること
‐知識を保有し、喜んで相談をうけ、神への信仰をもつ
‐親切さや節度(温和)を示し、話をよく聞くこと、を挙げています。

ただし、このリーダーシップについては、理想と現実に大きなギャップが出ていること。ハディース(ムハンマドの言行をまとめた「伝承」のこと)のいくらかが、現代的なリベラリズムを内包しているのだが、多くのイスラム・リーダー達は、権威主義的になっている、との指摘があった。

また、ビジネス界のリーダー達は、専制支配と相談とをないまぜにした、「偽相談的スタイル」を取りながら、あたかも、理想に一致するように振舞うこともある、とのコメントもあった。

■さて、かたい話はここまでで、以下はソフトな話題を。

海外に出かけるときは、その国で流行っているCDやDVDを購入するのですが、昨年インドネシアへ所用で出かけたときに、聞いた音楽が素晴らしかったので、下記にURLをつけておきます。

My Heart by Acha Septriasa & Irwansyah
http://www.youtube.com/watch?v=zZllqlPLYXw

デュエットの一人、Acha Septriasaさんの歌いぶりが純情そのもので、若いときの紀香さんに似ていると思いませんか? 

「紀香&陣内披露宴の平均視聴率が関西地区で、今年最高となる40・0%を記録(関東地区は24・7%)したことが31日、分かった。」という記事で、思い出してしまいました。
日本でも、2~3年前には純情ムービーが流行ったように、インドネシアでも、この映画「Heart」は、音楽と共にヒットしたということです。

My Heartのインドネシア語の歌詞の内容は、

 ここで、あなたと私は、お互い愛し合っていましたね。
 あなたといると、とても幸せでした。
 今までに、最高の美しい一日を過ごせたように思います。
 わたしたちの名前を刻みました。ここは、わたしたちの天国です。
 もし、わたしたちがお互いに愛し合うならば、このこころは強くなることはでき るでしょうか?
 もし、わたしたちが一生懸命に祈るなら、この私の愛を失うことはないでしょう か?

 あなたが誰か他の人を愛するなら、この愛を強くすることができますか?
 私は、愛を勝ち取りたい。わたしたちの愛は、すべてを克服できるもの。
 私の愛を危険にさらしたくない。
 たとえ、一晩だけでも わたしたちの愛がわたしのこころに留まってくれた 
 ら、、、
 My heart, , , , , , , , 。

 (訳は、英語からですので、正確ではないかも)

イスラム文化圏で、ビジネスをされる方/されようとしている方に、少しは参考になったでしょうか。

【参考文献】

☆Abuznaid, S. (2006) "Islam and management: What can be learned?" Thunderbird International Business Review, 48(1):125-39
abstract:
http://www3.interscience.wiley.com/cgi-bin/abstract/112211096/ABSTRACT

☆Ali,A.J. (2005) "The Islamic work ethic", an extract from Abbas J. Ali, Islamic Perspectives on Management and organization, Cheltenham: Edward Elgar, pp.53-69

☆イスラム教
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%A0%E6%95%99

☆☆My Heart by Acha Septriasa & Irwansyah
http://www.youtube.com/watch?v=zZllqlPLYXw