☆★第85回「自信回復7つの習慣~うつ解消・ヘルスマネジメント(心とからだ)技術(その6)」★☆
今回の第6の習慣は、「人生あるがままに、でもちょっとだけいいことをする」、です。
人生あるがままに、ちょっとだけいいことをしよう。
あるがままには、「今、この瞬間に注意を払う」ことで、自分のこころの中で何が起こっているかを、判断を加えないで、意識的に、自分の感情や考えを観察すること(マインドフルネス)です。ちょっとだけいいことをするとは、いいことをしたとき、いい気分になることがあるでしょう。その自分の気持ちを拡げていくことです。ここでは、いい気分になることを説明します。
今は、落ちこんでいて、いい気分ではないよ、と言われるかも知れません。このこころの状態をネガティビティ*(negativity:悪い面だけをみるこころの状態)と呼んでいます。ネガティビティのこころの状態にあるときは、考えや気分・感情がそれに支配されて、目の前が先細りになり、まわりのことがなかなか見えてきません。自分との会話(セルフトーク)もなくなり、判断力も弱くなります。その状態から抜け出すことが、とても難しくなります。繰り返しくりかえしその感情や気分が出てくるのでやっかいです。
ネガティビティは、ネガティブな感情(negative emotions)を引き起こします。たとえば、怒り、無視、抑うつなどの気分・感情です。このネガティブな感情は、からだ全体に少しずつ浸透し、あなたのからだ自体を変化させてしまいます。胃の中が煮えたぎり少しずつ潰瘍が進むだけでなく、血圧が上がり、肩や首の筋肉が石のようにカチカチに硬くなります。顔もこわばりひきつります。そうなると、そんな表情や態度のひとを見ると、ほかの人はできれば避けたい気持ちになります。それだけでなく、ご自身は、あたかも目隠しをして丸一日を過ごすことになります。どこを見ても欠点ばかりが目について、腹の立つことばかりです。解決策は見えてきません。すべてに何ひとつ目新しさがなくなります。
反対に、良いことをしたり、されたり、見たり、体験したりしたときは、いい気分になります。いい気分になることを、ポジティビィティ(positivity: 良い面をみるこころの状態)といいます。ポジティビィティは、ネガティビティと違って、良い気分やよい感情をもたらします。たとえば、誰かからいいことをされたことがあるでしょう。そのときには、「感謝」をしますね。その感謝の気持ちが、ポジティビティで、ポジティブ感情の一つです。ひとや誰かに感謝すると、「いい気分」になりませんか。そのときには、悪くて暗い考えが変化して、前向きな気持ちに変わっているでしょう。気持ちだけでなく、考えかたも少し拡がった気がしませんか。
人生で小さなことを楽しもう。ある日、振り返ったら、それらが大きなことだったとわかるかもしれないから。
ロバート・ブロールト**
ポジティブな感情をもつと、文字どおりあなたに新しい人生観がもたらされます。すべての緑色植物の成長に、太陽光は欠かせません。植物が太陽光に向かうという向日性は、ひとにもあります。ポジティビィティは、ひとの成長にとって欠かせないものです。わたしたちはこのことを生まれながらに知っています。ひとはみな、ポジティビィティ(良い面をみるこころの状態)の方向へ向かい、自分のこころをできるだけ広げて、考え方やモノの見方を拡大しようとします(ポジティビティの拡張効果)。ただ残念なのは、ポジティビィティはデリケートで壊れやすいもので、その効果は一時的なものだということです。すぐに失われてしまう性質のものなのです。
反対に、ネガティビティ(悪い面だけをみるこころの状態)は、強力なもので長続きもするし、なくなりません。実は、私たちの脳は、良い面よりは、自然と悪い面に集中していく傾向があります。そこで、どうしたらいいでしょうか。
たとえば、よい気持ちになりそうななにかをしましょう。好きな音楽を聞くもよし、楽しいTVや映画をみてもよし、外に出て散策するのもよし、友だちに連絡するのもよいでしょう。ちょっとスマイルしてみましょう。部屋のなかを歩きながら、ポジティブな気分になることを言ってみましょう。ご老人がなにか困っていたら、手助けしてあげましょう。一日のうち、周囲のひとになにか小さくてもいいですから、なにか一つでも、親切なことにチャレンジしてみましょう。
ポジティビティを増やすためには、ポジティブ感情の強さや深さを増やすだけでなく、その感情を味わう回数を増やすことが有効です。ポジティブ感情は、感謝だけではありません。喜び、安らぎ、興味、希望、誇り、おかしさ、感動、畏れ敬う(おそれうやまう)、愛の合計10のポジティブ感情が発見されています。
10のポジティブ感情
10のポジティブ感情 |
どんなときに、どんな場所で |
そのメリット |
喜び joy |
安全で、見慣れた所で、うまくいっている |
いろんなスキルを得られる |
感謝 gratitude |
自分のために特別になにかしてくれた |
社会的なつながり、愛のスキル |
安らぎ serenity |
安全で、信頼できる、努力をさほど必要としない |
自分や世界の見方を変えてくれる |
興味 interest |
安全で、新しい、ミステリアスな(謎めいた) |
知識やエネルギーを得られる |
希望 hope |
悲惨な環境で |
行動と発見 |
誇り pride |
個人的な達成感 |
更なる達成感へ |
おかしさ amusement |
まじめじゃない社会的な不調和、 ともに笑う |
友人関係をつくる |
感動 inspiration |
素晴らしいことに立ち会う |
スキルや徳性を得られる |
畏れ敬う awe |
規模の大きい偉大さに接する |
自分が偉大な者の一部だと感じる |
愛 love |
安全で、人と人との結びつき |
信頼、社会的絆、共同体 |
ポジティブな感情を生物学的に考えてみます。
私たちのからだには、新しい細胞が古い細胞に代わる新陳代謝という働きがあります。ポジティビティは、新たな細胞の成長を促す一方、ネガティビティは、細胞の劣化を進めることが科学的に証明されています。
最後に、ポジティビティというこころの態度を習慣にするには
・オープンであること
・感謝のこころをもつこと
・好奇心をもつこと
・親切であること
・誠実であること
が必要だと言われています。
次回は、自信回復7つの習慣の最後、第7の習慣「●立ち直るための工夫をする」です。
【注】
*ネガティビティのときには、特別なネガティビティのメガネをかけているように、世の中のポジティブなことや明るいことが見えなくなっている(こころのフィルターmental filterがかかっている)。それだけでなく、何でもないことや良い出来事を悪い出来事にすり替えてしまうポジティビティの取上げdisqualifying the positiveや、感情による理由づけemotional reasoningがある(それぞれ認知の誤り)。感情による理由づけとは、たとえば、「私はダメ人間のように感じる。そう感じることが、ダメ人間の証拠だ」とか、「もう何の希望もないように感じる。だから、今の私の問題はまったく解決できない」といったように、今の感情を絶対化して、それを根拠に自分をマイナスに判断してしまうこと。感情は、ある意味で、とらえ方によってかわるということ。とらえ方によるとは、出会ったできごとや考え方をどう解釈するか、ということが分かれば、感情を決めつけないで、ポジティブな感情へ転換することも可能になる。
**ロバート・ブロールト(Robert Brault)(英語)50年以上にわたって、米国の一流雑誌や新聞へ寄稿しているフリーランス作家。彼の言葉はいろんなところで引用されている。
【参考】
Barbara Fredrickson (2009) "Positivity: Groundbreaking Research Reveals How to Embrace the Hidden Strength of Positive Emotions, Overcome Negativity, and Thrive"
「ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則」バーバラ・フレドリクソン
「いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法(増補改訂 第2版)」デビッド・D・バーンズ
Mental Health First Aider (メンタルヘルス=こころの健康実践援助家)より