◆第32回「グローバルな競争優位を築くには~M・ポーター、RBVと両者の統合理論」
前回では、加速されるグローバル経済のただ中で、企業がどういう経営資源に注意をしなければならないか、について簡単に説明を加えた。
今回は、競争優位一般について、
-古典的なM・ポーターの5フォーシズ(5つの競争要因)とジェネリック(一般基本)理論
-ポーターを乗り越えようとするRBV(リソースベース理論)
-上記の統合理論
そしてこれら両理論の前提ともなっている
-シュムペーターの創造的破壊・イノベーション理論
を概説しよう。
まず、競争優位の定義を、P・コトラーの言葉を借りて述べておくと、
「競合企業が対抗できない、あるいは、対抗しようもない一つかそれ以上の方法で業績を上げる能力のこと」
コトラーによれば、持続可能な競争優位は、それほど多くはなく、どんな競争優位も顧客にとっては、顧客優位性として捉えられている。例えば、企業が顧客に対して、競合企業より早く、何かを顧客に提供したとしても、顧客がスピードに価値を置かないとすれば、それは、顧客優位性とはならないであろう。企業は、この顧客優位性を構築することに集中しなければならない。その時に企業は、高い顧客価値と顧客満足を提供できる。このことが顧客の高い購買率につながり、結局、企業の高い収益性へと結びつく、と定義している。
まず、競争優位の内容で、古典的かつ有名な、M・ポーターの5フォーシズとジェネリック理論をしっかり掴んでおこう。
ポーターの5フォーシズ(5つの競争要因)モデルとは、ある産業内の潜在的な利益の極大化を決定する要因のことで、「既存企業間の継続的な競争」(中心になる一つ目のフォース=影響力や多大な力を持つ要因)に対して、その周りから影響を与える4つの要因を分析している。残り4つの要因とは、「新規参入の脅威」、「買い手の交渉力」、「売り手の交渉力」と「代替製品からの脅威」である。一つずつ見てみよう。
「既存企業間の継続的な競争」とは、
その競争の範囲(競合関係)のことを指し、もしこの競合関係が弱いならば、企業は価格を上昇させ多大な利益を享受できるし、もし、この競合関係が強いときは、価格競争に陥る可能性がある。このように、激しい競合関係がある場合、利益獲得に極めて強い脅威となる。
「新規参入の脅威」とは、参入するためのバリアが高ければ高いほど、新規参入の脅威が低くなるということだ。新規参入のバリア(障壁)とは、例えば、ブランドに対するロイヤルティ、絶対的なコストでの優位性と規模の経済性、スイッチング・コスト(ある製品/サービスから他の製品/サービスへ乗換えるコスト)、政府の規制などが考えられる。
「買い手の交渉力」の買い手とは、
消費者であったり、卸売業者であったり、小売業者だったりする。買い手が強い立場にあるとき(買い手の交渉力が強い場合)、仕入れ価格を下げさせたり、もっとよいサービスを要求したりできる。これは、競争上の脅威になる。他方、買い手の立場が弱いときは、供給業者は、納入価格を上げて利益を確保することができる。従って、買い手が納入業者に要求ができるかどうかは、かれらの力関係にかかっている。
つまり、買い手が極めて少なく、大量に発注するときは、価格を下げることが可能である。また、その業界が多くの、比較的小さな販売業者から成り立つ場合、その販売業者は買い手に圧力をかけることができない。その代わり、買い手はたぶん、仕入れの会社間を容易く渡り合い、販売競争は激しくなるだろう。
「売り手の交渉力」とは、
売り手が強い立場にあるときは、売り手が価格を上げたり、品質を下げたりすることにより、買い手の利益を圧縮することができる。そのような脅威だ。他方、売り手が弱い立場にあるとき、価格を下げられたり、品質の向上を求められたりする。売り手が強い立場にある(売り手の交渉力が強い場合)とは例えばこういうことだ。売り手が寡占のとき、これら売り手の競争関係は低下する。もし売り手が競合しないなら、マーケットシェアを増加させるために、価格競争に陥ろうとはしない。これは、例えば、携帯電話の基本ソフトを考えれば理解しやすいだろう。マイクロソフトと英Psion社がこのソフトウェアの主要開発会社だ。
「代替製品からの脅威」とは、
同じ産業内とは限らず、既存の製品/サービスと同じ機能を持つ製品/サービスがあるとするならば、それらが現実的な代替品になる可能性があるということだ。現実的な代替品が存在するとき、それら代替品は、既存の産業が値付けする価格に上限を設定することができる。何故なら、ある価格を超えると消費者は、その代替品/サービスを考えるからである。ビジネスでの移動手段としての、新幹線と航空機利用を考えてみれば分かりやすい。
更に、ポーターは、これら5フォーシズ分析を活用し、基本的な事業戦略の枠組み(ジェネリック理論)を開発した。ポーターのジェネリック理論は別名、ポジションアプローチと呼ばれている。業界を一単位として分析をスタート。コスト・リーダーシップ、差別化、集中(コスト集中および差別化集中)の基本3戦略を使って、自社が排他的利益を得ることのできる位置「ポジション」の確立を目指すという考え方だ。このポーターの理論は、メイソンやベインの理論を発展、集大成したもので、日本企業に全面的に支持され、特に、1980年代の日本企業の成功要因の一つになったと考えられる。
このポーターの考え方に対して、イノベーションの役割が看過されている。ゼロサム・ゲームが前提となっている(供給業者、買い手、ライバルとの協力によるパイの拡大が見落とされている)。業界構造の特徴よりも、個々の企業の利益が重視されている。業界の定義が困難である、などの弱点の指摘がなされた。
一方、RBV(リソースベース)理論は、ポーターのポジショニングアプローチと違ったアプローチを取る。
つまり、ポーターの言うことは理解できる、しかし、現実問題として、一般の企業では、既存のリソース(資源。ブランド、パテント、顧客や従業員の信頼など)や能力に制限があり、その選択は自ら制約される。また、新しいリソースや能力を構築する速度にも制約がある。企業は、それぞれ異なった性格をもち、リソースの流動性は制限されており、多くのリソースや能力は、即座に構築できないし、マーケットに投入できるものではない。この前提から、自社内のリソースや能力開発に集中することが、競争優位の源泉になる、との考え方へと展開する。かれらは、このリソースや能力のことを、ディスティンクティブ・リソース/能力(他から区別される独自の資源/能力のこと)と呼ぶ。競争優位の幅を広げるためには、これらリソース/能力が「価値あるものか」と、「稀(他の企業にないもの)」とを問うことが必要であり、競争優位の持続性を保つには、これらリソース/能力が「たやすく真似されないものか」、そして「簡単に代替されるものか」との疑問を発することが、ディスティンクティブ・リソース/能力の発見/維持につながっていく。
このRBV理論は、チェンバレンの流れを汲み、J・バーニーになどにより、実際のエクセレント企業の業績からも実証がなされ、プラハラードとハメルのコア・コンピタンス(自企業が独自にもつ能力。例えば、ソニーのウォークマンなどに見られる「小型化技術」、ボルボの自動車安全技術、ホンダのエンジン技術など)へと展開し、競争優位の大きな意味を持つものへと受け継がれている。現代マーケティングの大御所と言われている、P・コトラーもどちらかと言うと、RBV理論を重視している。
ジェネリック理論とRBV理論の統合理論も登場している。この統合理論は、大別するとハンフリーのSWOT分析(強み・弱み・機会・脅威のマトリックスによる分析)と、プロセス毎により両理論を適用しようという、2つがある。前者は、コンサルティングの際、頻繁に利用される分析手法であるが、もちろん限界もある。SWOT分析の限界とは、いかに競争優位を獲得するかを示すことができないことだ。後者は、主に企業内部向けのリソース・能力から企業の活動(プロセス)までRBV理論を活用し、その後の製品属性の分野にポーターのジェネリック理論を応用し、顧客価値(WTP:顧客がよろこんで支払う価格のこと)の満足を得ようとの理論である。
更に、自社のリソースや能力不足に対処する方法としては、他社のリソース/能力を積極的に確保するための、M&A、戦略的提携が有効であり、内部リソース開発、ダイナミック能力開発などの方法が推奨されている。
※写真は、マイケル・ポーターのCompetitive strategy: techniques for analyzing industries and competitorsと5フォーシズから。
【参考】
●M・ポーターの5フォーシズとジェネリック(一般基本)理論:
Porter, M.E. (1980), Competitive strategy: techniques for analyzing industries and competitors, Free Press
マイケル・ポーター(1995)「[新訂]競争の戦略」土岐坤、中辻萬治、服部照夫/訳、ダイヤモンド社 "
Porter, M.E. (1983), Industrial Organization and the Evolution of Concepts for Strategic Planning: The New Learning, Managerial and Decision Economics, Vol. 4, No. 3, Sep., Corporate Strategy
Porter, M.E. (1985), Competitive advantage: creating and sustaining superior performance, FreePress
マイケル・ポーター(1985)「競争優位の戦略:いかに高業績を持続させるか」土岐坤、中辻萬治、小野寺武夫/訳、ダイヤモンド社
●コトラーの競争優位の定義:
Kotler, P. and Keller, K.L. (2006), Marketing management, 12 ed., Pearson Prentice Hall, p.150
●RBV(リソースベース理論)
Barney, J.B. (1986), Types of Competition and the Theory of Strategy: Toward an Integrative
Framework, Academy of Management Review, 11(4), pp.791-800
Barney, J.B. and Zajac, E.J. (1994), Competitive Organizational Behavior: Toward an Organizationally-Based Theory of Competitive Advantage, Strategic Management Journal, Vol. 15,
Special Issue: Competitive Organizational Behavior, Winter, pp. 5-9.
●プラハラードとハメルのコア・コンピタンス
Prahalad, C.K. and Hamel, G. (1990), The Core Competence of the Corporation, Harvard Business Review, May-June, pp.79-91
●SWOT分析の限界
Dess, G.G., Lumpkin, G.T. and Eisner, A.B. (2007), Strategic Management: creating competitive advantages, 3rd Version, McGrow-Hill/Irwin, p. 78
●ダイナミック能力開発
Eisenhardt, K.M. and Maratin, J.A. (2000), Dynamic Capabilities: What are They?, Strategic Management Journal, 21, pp. 1105-1121