☆☆第75回「大麻とメンタルヘルス・リテラシーのお話」
大麻など薬物(アルコール)使用事件が続いています。ファンである芸能人の人たち、沢尻エリカ、伊勢谷友介氏など有名人による使用が増えています。
薬物・アルコール使用でどのようなことが身体、こころに起こり、どう変わっていくかを知っておくことは大事なことです。そして、もっと大切なことは、そのような人に対して、身近な人が、どう接するか、どのように応急処置をするか、です。
もちろん、薬やアルコールを使用しているひとがすべて、問題を起こすということではありません。アルコールや他の薬物使用のレベル次第で、心身の不調(障害)を引き起こす、ということです。
薬物・アルコール障害になると、その人の生活に有害で多大な影響がでてきます。
・自分が思っているよりも、しばしば量が多くなり、長い期間、摂(と)るようになります。
・使用をやめたいけれども、なかなかやめることが難しいと分かります。
・薬物・アルコールの使用は長期間続き、その影響から回復するのに、また長期間かかります。
・薬物・アルコールの使用を激しく求める(たとえば、せきたてられるような強い衝動で)
・繰り返しの使用は、仕事、学校、家での責任能力に影響を与えます。たとえば、欠勤、仕事の処理能力の低下、こどもたちや家事へのニグレクト(無視)。
・口論や暴力など他人へ引き続き問題を起こしても、使用を繰り返します。
・そのほかの大事な活動を無視するようになります。
・薬物に対する抵抗力が増すため、同じ量では満足せず、とる量をもっと増やしてしまう。
・使用をやめた時に、離脱(禁断)症状が起こるので、その症状を避けようと、また使用する、という悪循環に陥ってしまいます。
アルコールの適量とは
アルコールについて確認しておきましょう。一日平均20g以下が、「節度ある適度な飲酒」(厚生労働省「健康日本21」スライド#68, 76-78)となっています。
20gとは、生ビール中グラス(アルコール度数2.7%で425ml)で約2杯、缶ビール(3.5%で375ml)で約2本、ビール中ビン(5%で500ml)で1本、清酒(15%で1合180ml)1本弱、酎ハイ(7%で350ml)1缶、ウイスキー・ブランディ(43%でダブル60ml)で1杯、ワイン(13.3%で100ml)グラス2杯、というところでしょうか。
オーストラリアなど海外では、毎日20g以下、一回の飲酒で40g以下が、健康に害になるリスクを下げるとされ、推奨されています。
アルコール依存症のリスクとは
【短期的なアルコール問題】
・身体を傷つけやすくなる。交通事故への主要要因はもちろんのこと、よろめいたり、倒れたり、はっきりしない会話などは、よく見る光景です。
・攻撃的、反社会的行動をとる。犯罪に関与するリスクが多々あります。
・性的なリスクテイキング(危険を承知で行う)と無計画な性的接触。酔っぱらってないときには同意しないだろう、性的行為につい進んでしまいます。望まない妊娠や性的感染症へのリスクが大きくなります。
・犯罪の犠牲者になります。アルコールや他の薬物に影響され、暴行や性暴力の犠牲者になるリスクが高まります。
・自殺や自傷行為。アルコール依存症のひとは、自殺の考えや自傷行為(自分の身体を傷つける、リストカットなど)をしやすくなります。
【長期的なアルコール問題】
・アルコール使用障害(依存症)。一日20g以上のアルコールを定期的にとっている人、特に、年齢が若いときから飲みはじめた人は、依存症になるリスクが高くなります。
・他の薬物関連障害になりやすいです。
・過度のアルコール依存は、うつと不安障害のリスクを増加させます。
・社会的問題-過度のアルコール依存は、家族との不和、学校からの逃避、仕事が見つからない(非雇用)、社会的孤立、法的問題を起こします。
・長期的に過度な飲酒を続けると、身体的な悪影響をもたらします。肝機能障害、脳障害、心臓疾患、がん、糖尿病、筋力の低下、膵炎、潰瘍、胃腸内出血、手足の神経系疾患、体重増、胎児へのリスクなどが報告されています。
さて、本題へもどりましょう。
大麻など薬物へのリスク要因は、アルコール依存症に述べたことと似たようなものがあります。
ここでは、薬物依存症の人が身近にいた場合、どう対処したらいいか、を説明しましょう。
【薬物の症状】
◇刺激効果:コカインや覚せい剤のアンフェタミンは、人をエネルギッシュに、自信を強めます。より急性の依存症のサインは、欲求不満になる、怒り出す、心臓がドキドキする、体温異常(高温)、脱水症状。
◆うつ効果:大麻やトランキライザーは、疲れたようにみえる、ろれつが回らない、反応が遅いなど、うつ症状を示します。より急性のサインは、移動・動きが困難、嘔吐(モノを吐く)、意識をうしなう。
【どのように援助するか】
- 静かに、自分のこころを落ちつける。
- 相手を尊重して、簡単な、はっきりした言葉で問いかける。
「どうしたんだ。心配しているよ」「何がほしい?」「どうしたらいい?」
相手が理解できないようであれば、簡単な要望と指示を繰りかえす。怒ったり、笑ったり、茶化したり、相手を怒らせてはだめですよ。
- 症状がみられるとき、リスクのある行動(モノを壊すとか運転する)を取っているかもしれません。そのときは、まず、相手や自分、周りにいる人が安全であるかを確認してください。
- 相手の安全を確保してください。一人にしないで、相手と一緒にいるようにしてください。機械や乗り物など動くものは近くにないか、危険なモノから遠ざけてください。たとえば、運転したいと考えているときは、本人も同乗者にもリスクがあるからと、やめさせるように説得します。
- 救急車を呼ぶか、その場の状況が安全でなければ、警察に電話をします。
【救助の方法】
◇意識のない人を見つけたら、その人の身体を横向きにして、救急車を待ちましょう。
◇もし、室内で、攻撃的な(あるいはそう思える)薬物・アルコール依存症の相手に接するときは、自分自身は、出口を背にし、でも出口をふさがず、肩幅に両足を少し広げます。肩の力を抜いてリラックスします(相手が興奮しているときは、こちらも動揺してなかなかできませんが)。
相手の正面に立ってはだめで、すこし斜めの位置に、利き足を前に出し、両手はお腹の所において合わせます。
そして、【どのように援助するか】で述べた、アプローチをします。
※ アルコールの国際基準は、アルコール10gを飲酒量1として計算される。
タイトルの写真左は、オーストラリア政府「飲酒量について健康リスクを減らすために」
のガイドラインから引用した。海外のブックレットは分かりやすい。
タイトル写真右上は「パッチギ!」2005年の画面から、タイトル写真右下は、NHKドラマスペシャル「白洲次郎」2009年から。
※※「メンタルヘルス・リテラシー」とは、1997年に豪メルボルン大学教授のA.F. Jormらにより提唱されたもので、「こころの不調を認識し、管理し、防止する手助けをするための知識とBeliefs考え方」としている。その構成要素は、 a)特定のこころの不調やいろいろなタイプのこころの苦悩を認識する能力、b)そのリスク要因や原因についての知識や考え方、c)セルフヘルプの介入についての知識と考え方、d) 役に立つ専門的支援についての知識と考え方、e) メンタルヘルス(こころの健康)についての認識を促進し、適切な援助手段を提供する態度、f)メンタルヘルスについての情報をいかに求めるかの情報、と説明しています。
これは、1993年にシドニー大学教授Don Nutbeamらが、「ヘルスリテラシー」を「健康を維持、促進していくための情報に、アクセスし、理解し、そして活用する能力」と定義したものに、呼応したものです。
もともと、リテラシーとは、「読み書き能力」からはじまり、IT時代には、「情報リテラシー」という用語が、情報を収集、分析・活用するための知識や技能のことと意味づけられています。
Mental Health First Aider (メンタルヘルス=こころの健康実践援助家)より