ジョン・ラ・ファージ(1835-1910)、アメリカ。
黒い背景の中に椿はよく似合う。
紅をまといながら、彼女は拒絶しているのだ。
何かを。
ぬばたまの闇にもとけぬくれなゐの声をこそ聴け深更の月 揺之
冬の池に住む鳰鳥のつれもなく底に通ふと人に知らすな 凡河内躬恒
冬の池にすんでいる鳰という水鳥が、つれもなくひとりで水底に通っている。
それを人に知らさないでくれ。
愚かと思っていても、とめられない思いがあるのだ。
海を見るきみの頬をぞとほく見て風のへだつる道をうれひき 揺之
トーマス・アレクサンダー・ハリソン(1853-1930)、アメリカ。
暗い水の上に一艘の小舟が浮かんでいる。
それにひとりの裸の少年が乗っている。
だれの心だろう。さまよっているのだろうか。
それとも、行かなければならないところが、苦しいのだろうか。
青春の真木戸のまへにたたずみてわづかにも触る孤独の祈り 揺之
誰をかもしる人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに 藤原興風
わたしも年をとった。
だれを友としたらよいだろう。
あの高砂の古い松さえ、昔からのわたしの友ではないのに。
行く人のかげをおひつつ昔知る人を探せり老いならなくに 揺之
ジョン・ヘンリー・トヮクトマン(1853-1902)、アメリカ。
何げない風景だ。
土手の向こうから雲がしみだしてきている。
何かが向こうからやってくる。
心配はないと、自分に言えない何かが、自分の中を漂う。
あすかがはかはべの土手をそぞろゆき夏の雲見るわらはべの空 揺之
チャールズ・メルヴィル・デューイ(1849-1937)、アメリカ。
潮が引き、陸に半身を乗り上げたような舟。
なんでこんなものに引かれるのだろう。
世界に流れている何かに、ついていけない自分を感じているのか。
虚ろなる心を割りてその片身をみづにおとせばやるせなき船 揺之