競馬マニアの1人ケイバ談義

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オレと死神の60年戦争1

2016年01月25日 | オレと死神の60年戦争
ちょっと小説を書きました。タイトルはオレと死神の60年戦争。死神てタイトルの落語を聴いたときに思い浮かんだ噺、いや、話です。ゆえに50%くらいは死神のパクリです。ま、死神を書いた人(三遊亭圓朝)はもう亡くなってかなり経ってるようので、問題ないと思います。
では、始めましょう!

 もう12月だ。それなのにオレはいまだに就職先が決まってない。ちょっと色好みしすぎじゃないか? そろそろ本気で決めないと!
 で、いろんな会社を訪問したが、これがまったくのダメだった。オレのオツムじゃ一流企業はハナっからムリだとわかっていたが、小中零細企業さえダメだなんてねぇ… 完全想定外ですよ。今もまた会社訪問してきたが、この会社もムリっぽいなあ…
 いっそうのこと、大学院に進学するか。いや、そっちもオレのオツムじゃとうていムリ。やっぱ地道に仕事を探すか…

 会社訪問の帰り、ちょっと寄り道をして駅前の本屋に入ってみた。暇潰しでいつも寄ってるかなり大きな本屋だ。中に入ってビジネス本を手にするかと思いきや、いつものコミック本のコーナーである。これくらい余裕があってもいいんじゃないかな?
 ほんとうは立ち読みしたいんだが、今のコミック本はみんなビニールに入ってるから、読むことはとうてい不可。表紙を見て中身を想像するのみ。さて、どれを買うかな。
 と、隣りにいるいる2人の男子高校生の声が聞こえてきた。1人はビニールに包まれてるコミック本をもう1人に見せてるようだ。
「これ、どんな話だっけ?」
「さあ、もらっちゃえば」
「あは、そうだな」
と言うと、なんとその男子高校生は自分のカバンの中にその本をポイっと放り込んでしまった。これって万引き? いや、完全に万引きだろ。
 オレは何か言おうとしたが、オレの中にいるもう1人のオレがそれを阻んだ。相手はふつーの高校生に見えるが、万引きを平然とやってのける高校生だ。そんなことしたら何されるかわからんぞ。
 万引き高校生たちは外に向かって歩きだした。オレはちょっとフリーズしてたが、無意識のうちにやつらを追いかけていた。

 エントランスの自動ドアを開けると、さっきの高校生の前に1人の初老だけどガタイのいい男が立ちふさがっていた。この人は万引きGメンだな。よかった、やつらの悪事は阻止されそうだ。
「君たち、カバンの中に会計してないマンガ本が入ってるんじゃないかな?」
 その質問にやつらは興味がないように装った。
「さあ」
「ちょっと見せてくれないか?」
と、万引きGメンが高校生のカバンに手を伸ばした。その瞬間、信じられない出来事が発生した。もう1人の高校生が万引きGメンの身体に当身を喰らわしたのだ。当身した高校生はニヤっと笑った。万引きGメンがギラっとした眼でその高校生を睨んだ。と、次の瞬間、万引きGメンの身体は大きく崩れ落ちた。高校生の手にはナイフが握られていた。真新しい血糊付きのナイフだ。
「きゃーっ!」
 万引きGメンの相方の女の子が思いっきり悲鳴を上げた。
「来い!」
 万引きGメンを刺した高校生は、万引きした高校生の手を握って駆け出した。あたりがざわついた。オレはというと、へたれこんでいた。情けないぞ、オレ。何もできないのかよ、オレ…
 オレはなんとか立ち上がると、別方向に駆けだした。別に逃げる必要はないのだが、なぜか駆けていたのだ。

 路地を曲がるとオレは立ち止まった。ひどく荒い息だ。オレは両手を膝にして、荒い息を整えた。何か無性に悔しかった。オレってここまで情けないのか?
 ふと足下を見ると、何やらドス黒いノートが落ちていた。B5くらいの大きさのノートだ。こ、これはもしや、デ×××ト? もしデ×××トなら、さっきの男子高校生たちの名前を書き込んでやりたい。そうしないとオレの気持ちが晴れないのだ。
 オレは思い切ってノートに手をかけた。
「ノート、返して!」
 その瞬間、ふと声が聞こえてきた。そうだ、デ×××トを拾うとその本来の持ち主の死神を見ることができるんだった。これはきっと死神の声だ。
 オレは顔を上げた。そこには死神がいるはずだ。が、そこにいたのは9歳くらいのかわいい女の子だった。でも、何か変だ。全身真っ黒い水着のような服装。いや、ボンデージと言った方がいいかも。ともかく9歳児とは思えないきわどいファッションなのである。
「そのノート、返してよ!」
「君は?」
「見てわからないの、死神よ」
「ええ…」
 これが死神? 今はこんな小さな女の子が死神やってんのかよ? うそだろ。
「ねぇ、ノート返してよ!」
 女の子、いや、死神が語気を荒げてきた。でも、こんなチャンス、二度とないはず。
「嫌だね」
「どうして?」
「オレは今どうしても殺したいヤツがいるんだ。そいつの名前を書かせろ!」
「何言ってんの?」
「これ、デ×××トだろ?」
「バカ」
 かわいい死神はプッと噴き出した。
「それは近々死ぬ人の名簿よ。それを見て私たち死神は仕事するの。あなたが持ってても意味がないの」
 近々死ぬ人の名簿… んじゃあ、これに名前を書き込めば、やっぱそいつは死ぬってことじゃん。やっぱりデ×××トだ。
 オレはジャケットの内ポケットからボールペンを取り出した。さっきの万引き野郎の名前を書こうと思ったのだ。が、ここで大事なミスに気付いた。やつらの名前がわからないのだ。これじゃあ意味がないじゃん。
「ねぇ、ノート返してってばさぁ!」
 かわいい死神はかなりいらついてきたようだ。
「嫌だ!」
 オレはそれしか言えなかった。が、ここでいいことを思いついた。
「じゃ、お前がやつらを殺してくれよ?」
「殺す? 誰を?」
「さっき万引きをして、店員を刺し殺した男子高校生だよ」
 いや、死んだかどうかは確認してないけど、ともかく今のオレは、あいつらが絶対許せないのだ。
「知らないわよ、そんなの!」
 つれないやつだなぁ。まあ、そりゃそうだよな。こいつ、あのときあの場所にいなかったんだから。
「だいたい私は死神よ。悪魔じゃないの。人の死は見えるけど、人の命を奪うことはできないわよ。
 ねぇ、いい加減、そのノート、返してよ!」
 ヤツはさらに語気を荒げてきたが、オレもこのまま引き下がるわけにはいかなかった。
「じゃあ、何か代わりのものを出してくれよ」
 かわいい死神は困ってしまったようだ。ちょっと考えると、こう言った。
「じゃ、1ついいことを教えてあげる。教えてあげるから、絶対ノート返してよ!
 私たち死神は死にそうな人の前に行くと、まずその人がどういう状況にあるのか確認するの。
 もし死ぬ間際だったら枕元に立つ。死んだら魂が抜け出すから、すぐさま回収できるように枕元に立つの。こうなったらもうおしまい。誰にも邪魔することはできないわ。
 でも、死ぬまでちょっと時間があるようだったら足元に立つ。足元からマイナスのエネルギーを放って、ムリに命を縮めてやるの。それに他の死神に、こいつは私の獲物だってアピールにもなるからね。
 そんな死神を見かけたら、こう呪文を唱えるの。
 クルクルバビンチョ パペッピポ ヒヤヒヤドキッチョの モーグタン!」
 おい、それ、どこかで聞いたことがある呪文だぞ。だいたいなんで1文字だけひらがなが入ってるんだよ。
「この呪文を唱えたら死神は強制的に引き剥がされるから、その人の命は護られるはずよ」
「へ~」
 オレは反射的にその呪文を唱えてみた。
「クルクルバビンチョ パペッピポ ヒヤヒヤドキッチョの モーグタン!」
 次の瞬間、かわいい死神は消えてしまった。おいおい、なんだよ、これはホンモノの呪文かよ。
 でも、デ×××トはオレの手に握られたままだ。あいつ、間抜けだなぁ。大事なデ×××トを回収する前に秘密の呪文を教えちまうなんて。やっぱり子どもだったな。このデ×××ト、大事に使わせてもらうぜ。
 オレは持ってたカバンにそのノートを仕舞い込んだ。

 しかし、このデ×××ト、期待とは別のところでものすごい威力を発揮して見せた。オレは自分のアパートを目指して歩いたが、その間何人かのボンデージルックの幼い女の子を見かけたのだ。今は12月だぞ。寒くないのか? きっとみんな死神なんだな。デ×××トを入手したから、見てはいけないものが見えるようになってしまったんだな、きっと。
 この世にはたくさんの死神が蠢いてるんだなあ。まあ、今日本だけでも1億2千万の人口があるんだ。世界だと70億人を優に超えてるって聞いたことがある。死神だけでも世界にいったい何人いることやら。
 でも、なんでみんな幼い女の子なんだ? もっと年いった死神はいないのか?

 オレは自分のアパートに到着した。オレの部屋は2階にある。2階に昇ろうとしたとき、2人の男が立ちふさがった。かなりヤバい雰囲気な男たち。オレは一瞬ビビったが、
「警察です」
 よかった、どうやらこの2人は刑事らしい。リーダー格の刑事が質問してきた。
「あなた、30分前書店で起きた強盗傷害事件を見てますね」
「あ、はい」
 今度は若い刑事の質問。
「あなた、なんであの場から逃げ出したんですか?」
 オレはフリーズしてしまった。ここは何か言わないとまずいような… が、ベテラン刑事の方が畳みかけてきた。
「ちょっと警察に来てもらえないですかねぇ」
 あれ、もしかしてオレ、万引き犯の一味と間違えられてんのか? まいったなあ。オレは半ば強制的に警察に連行されてしまった。

 しかし、オレは1時間ばかしで解放されることになった。すぐに濡れ衣だとわかってもらえたのだ。
 が、警察署を出ると、その玄関前にはもっと厄介なヤツが待っていた。刺された万引きGメンの横にいた女だ。20代前半て感じの女。いや、女の子。一応美人だが、眼が怖い。ちょっと嫌な感じがある。
「あは、どうも」
 何か言おうとして、とりあえずこんな言葉を発してみた。
「どの面下げて警察署から出てきたの?」
 ああ…、想定してた以上の厳しいお言葉が返ってきたよ。
「あの~、刺された人は?」
 オレは定石通りの質問をしてみた。
「へ~、知りたいんだ。そりゃ気になるわよね。死んだら仲間は殺人鬼になっちゃうもんね」
 だから、オレは仲間じゃないってばさあ。
「来て」
というと、若い女は振り向きざまに歩き出した。おいおい、オレ、どうすりゃいいんだ? もう仕方がないなあ、オレはこの女についていくことにした。


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