競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

千可ちゃん改11

2014年07月01日 | 千可ちゃん改
 病室です。今ドアが向こう側からノックがありました。この病室にいる人がそれに応えました。
「はい」
 大きな引き戸のドアが開き、花束を持った千可ちゃんが入ってきました」
「こんにちは」
 この病室に入院してる患者は城島さんです。両目に痛々しい包帯があります。
「その声は羽月さんね。あれ、1人?」
「はい。今日は1人で来ました。そう言えば、お父さんとお母さんは?」
「一度帰ったわ。着替えとか持ってまた来るって。お母さん、かなり怒ってるんだ。お母さんがいない時に来てよかったよ」
「あは、そうなんだ。うちのお母さんも怒ると怖いんだよ」
「ありがとうね、羽月さん。見舞いに来てくれて」
 城島さんの声が急に涙声になりました。
「私、悔しいなあ。こんなことで失明しちゃうなんて…。
 ねぇ、羽月さん。羽月さんには不思議な能力があるんでしょ」
 城島さんはレイプされそうになったとき、テレビから長髪の千可ちゃんが抜け出てきたシーンを思い出してます。
「あの時羽月さんはテレビから這い出てきたでしょ。私、はっきりと覚えてるよ。あんなすごい力持ってたら、人には絶対内緒だよね。だから私も内緒にしてきた。
 ねぇ、羽月さんなら山上静可に勝てるでしょ」
 千可ちゃんは無言です。
「ねぇ、私のかたきを取って欲しいんだけど」
「うん」
 千可ちゃんは少し笑って答えました。
「ありがと。期待してるよ」
「そうだ。ちょっと触らして」
「え?」
 千可ちゃんは右の掌を城島さんの眼に当てました。するとその掌から淡い光が発生しました。千可ちゃんは心の中で言いました。
「眼ん球取っちゃった左眼はどうにもならないけど、右眼だけならなんとかなる」
「な、何やってんの?…。
 ああ、気持ちいい…」
 城島さんはいつしか寝込んでしまいました。
「山上静可…。私も呪われちゃったからなあ…。やられる前にやらないと!」
 千可ちゃんは山上静可と戦う決意をしました。

 病院の玄関です。千可ちゃんが出てきました。そのとき、大きくて鈍い音が響き渡りました。その場にいた数人の男女が、病院の横にある駐車場に向かって駆け出しました。
「大変だ、駐車場で人が轢かれた!」
「ええっ?」
 千可ちゃんもそっちの方角に駆け出しました。
 千可ちゃんが駐車場に入ると、すぐに人だかりができている乗用車を発見しました。駐車場の車道に不自然に停まってるクルマ。事故を起こしたクルマです。そのフロントガラスに1人の男性の身体が頭から突き刺さっています。千可ちゃんはさらに近づき、その顔を確認しました。それは昨日手術室の前で会った男性です。
「城島さんのお父さん?…」
 そうです、これは城島さんのお父さんです。クルマのドアを開けた人がこう言いました。
「だめだ、即死してる」
 クルマの背後にも人だかりがあります。そっちからも声が聞こえてきました。
「こっちも即死だ」
 人だかりの隙間から倒れてる人の足が見えます。女性の足です。どうやら倒れてる人は、城島さんのお母さんのようです。
 千可ちゃんの耳に声が入ってきました。
「いったい何があったんだ?」
「クルマが暴走して人をはねたらしい」
「なんでこんなところでクルマを暴走させるんだ?」
 と、千可ちゃんがあることに気づきました。
「い、いけない、城島さんが危ない!。
 チカちゃん!」
 すると千可ちゃんの前に千可ちゃんの生き霊が現れました。かつて千可ちゃんがコントロールできなかった生き霊。今は千可ちゃんの意図するまま動くようです。しかし、チカちゃんというネーミングはなんとも。
「今すぐ城島さんの病室に行って!。城島さんを山上静可から守って!」
「ケケケ」
 と言うと、チカちゃんは消滅しました。城島さんの病室に向かったようです。
「山上静可、絶対許さない!」
 ついに千可ちゃんはぶち切れました。

 野中さんがいる豪邸跡地です。今その門の前にタクシーが停まり、千可ちゃんが降りてきました。タクシーが立ち去ると、千可ちゃんは壊れた門から中に入りました。
 中に入ると、千可ちゃんはあたりを見回しました。そして一点を見つめて叫びました。
「山上静可、そこにいるんでしょ!。気配を消してもわかるわ!!」
 すると千可ちゃんの目の前の空間が歪み、人影のようなものが現れました。その人影があっという間に実体化しました。30歳くらいの小柄な女性です。おどろおどろしさがあります。
「あなたが山上静可ね」
「羽月千可、なんで儂の邪魔をする?」
「それはこっちのセリフよ、いったい何人殺せば気が済むの!!」
 2人はそのまま無言で対峙しました。と、山上静可がどこからか刀を持ち出しました。
「こいつは妖刀キララ。肉体は斬れないが霊体は斬れる。おまえの霊体も斬り刻んでやろうか?」
 山上静可は千可ちゃんの身体に向かってダッシュしました。
「死ねーっ!!」
 千可ちゃんは全身から眩い光を発射しました。
「たーっ!!」
 眩い光が山上静可の身体を直撃しました。それを見て千可ちゃんは笑顔になりました。
「やった!!」
 が、その光を突き破るように、妖刀キララを大上段に振り上げた山上静可が現れました。
「バカめーっ!!」
 千可ちゃんは驚くしかありません。
「ええっ?…」
 山上静可は千可ちゃんの身体を右上から左下に大きく袈裟斬りしました。なんとも言えない強い衝撃が千可ちゃんの身体を突き抜けました。千可ちゃんは悲鳴を上げることさえできません。その場に崩れてしまいました。山上静可は千可ちゃんの前で仁王立ちになってます。
「ふっ、口ほどでもないな」
 山上静可は妖刀キララを大きく振り上げました。
「とどめだ!」
 が、その時、大きな声が響きました。
「やめて、お母さん!!」
 山上静可が振り返ると、そこには千可ちゃんのお母さんが立っていました。
「その娘はたった1人の私の娘よ。わかる?、あなたのたった1人の孫なの。その孫を殺すつもりなの?。自分の血を絶やす気なの?」
 なんと、山上静可は千可ちゃんのお母さんのお母さん、つまりおばあちゃんだったのです。しかし、山上静可は意に介しません。
「それがどうした?。儂は儂の仕事の邪魔をするヤツはすべて消す。そいつがたった1人の孫でもな!」
 山上静可は再び千可ちゃんに妖刀キララを振り上げました。千可ちゃんは意識はあるものの、避ける力が残ってません。
「やめて!」
 と、お母さんが叫ぼうとしましたが、声が出ません。お母さんは金縛りにあってました。
「か、金縛り?…」
「死ねーっ!!」
 山上静可が妖刀を振り下げ始めました。が、その瞬間、山上静可の身体に強い衝撃が走りました。
「うっ!?」
 山上静可の喉から刀の切っ先が突き抜けています。千可ちゃんの生き霊のチカちゃんが、背後から山上静可のうなじを短刀で刺したのです。山上静可が横目でチカちゃんをにらみました。
「い、生き霊…」
「ケケケ」
「くそーっ!」
 山上静可は振り向きざまチカちゃんを刺そうとしましたが、チカちゃんはその妖刀をひらりと交わしました。山上静可はチカちゃんが握りしめている短刀に注目しました。
「それは妖刀キララの女刀…、くーっ、なんでお前がそれを持ってるんだ?」
 山上静可は片ひざをつき、右手をうなじに当てました。かなりこたえているようです。
「くそーっ!…」
 山上静可の身体が霧散しました。その瞬間、千可ちゃんのお母さんが金縛りから解放されました。
「千可ーっ!!」
 お母さんは千可ちゃんの身体を抱き起しました。しかし、千可ちゃんはまったく反応しません。
「お願い、千可、目を覚まして…」
 お母さんは千可ちゃんの身体を抱きしめました。

 広い部屋です。何かいかがわしい雰囲気のある部屋です。中央にダブルベッドがあります。そこには千可ちゃんが寝かされており、その傍らにお母さんがいます。千可ちゃんは何も反応していません。お母さんは祈るように千可ちゃんの両手を自分の両手で握りしめています。
「お願い、神様、千可を助けて…」
 千可ちゃんの左目のあたりがピクンと動きました。
「うう…」
 その千可ちゃんの声にお母さんが顔を上げました。
「千可…」
 千可ちゃんは目を覚ましました。そしてお母さんを見ました。
「お母さん…」
「よ、よかった…」
 千可ちゃんはあたりを見回しました。
「こ、ここは?」
「ラブホテル」
「え?」
「郊外のラブホテルは専用の駐車場から直接部屋に入れるから、こういう時は便利なの」
 さすが中学卒業から11年間援助交際だけで生きてきたお母さんです。千可ちゃんもちょっと苦笑いしてます。
「あはは…。
 お母さんはなんであそこにいたの?」
「本当は来るつもりはなかったんだけど、なんかものすごく嫌な予感がしてね、クルマで来たんだ。もう5分早く着いてたら…」
「ううん、そんなことないよ。
 お母さん、山上静可は私のおばあちゃんなの?。お母さんは違う名前を言ってたよね」
 お母さんはちょっと視線を外しました。
「私にだって、言いたくない過去があるよ…。
 もう1回教えよっか、私と山上静可の過去を。今度はウソ、偽り一切なしで。
 あなたのおばあさん、山上静可は超能力者として地元では有名だった。おばあさんの評判を聞きつけてテレビ局の人が何回も出演依頼に来たんだけど、ずーっと断っていた。でも、おばあさんの友人のだんなさんがテレビ局に勤めていて、その人の依頼は断り切れなかった。
 けど、舞い上がってしまったおばあさんは、テレビカメラの前で何もできなかった。悪いことにそれは生放送だった。翌日私は学校で笑い者だよ。特にひどかったのが、野中雄一てやつ。私はブチ切れてそいつに殴りかかったんだけど、あいつの取り巻きに集団で殴られて、蹴られて、最後は野中雄一に投げ飛ばされた。バックドロップというプロレス技だったんだってさ。そのせいで私の首の骨が外れた。病院の先生は2度と歩けないだろうと言ってた。
 おばあさんは学校に抗議に行ったんだけど、学校は私が悪いの一点張りだった。野中雄一のおじいさんは県議会の議長だったから、学校は保身に走ったんだよ。
 ラチが開かないと思ったおばあさんは、今度は野中家に抗議に行った。けど、こっちでは植木鉢を投げつけられ、顔中血だらけになった。絶望したおばあさんは、そのまま首を吊った。
 でも、おばあさんが首を吊った理由は、絶望しただけじゃなかった。私を助けるために首を吊ったんだよ」
「お母さんを助けるために?」
 お母さんはうなずくと、話を続けました。
「山上静可は私やあなたみたいな治癒能力はなかった。私の首をつなぐためには、自分が幽霊になるしかなかったんだよ。あの日の夜、おばあさんは、山上静可は幽霊になって私の身体の中に入ってきた。翌日朝起きたら、私の身体は元に戻っていた。私はおばあさんに助けせれたんだよ。
 でも、その日おばあさんは、野中雄一を呪い殺した…。こっから先はもうわかるでしょ」
「こんな話があったんだ。おばあちゃんが呪い神になった理由がよくわかったよ」
「千年前だったら呪い神が出現したら、大きな神社を建ててそこに祀るんだけどね。呪い神は正しく祀れば、最強の守り神になる。でも、今はそんなことはしなくなったねぇ」
「今は退治するしかないのか…」
「さあ、もうお休み。まだ身体は治りきってないんだろ」
「うん。お母さんは?」
「私はお風呂に入ってくるよ」
 お母さんは奥の浴室に向かいました。一方千可ちゃんは、再び深い眠りにつきました。

 しばらくして千可ちゃんがふと目を覚ましました。で、ちょっと気になり横を見たら、なんと母さんがそこにいるのです。お母さんは横臥で千可ちゃんを愛しい目で見てます。お母さんは右の掌を千可ちゃんの左の乳房に添えてます。
「お母さん、何やってんの?」
「あなたの傷ついた霊体を直してるの」
「え?」
 千可ちゃんはベッドの周りを見回しました。ここはラブホテルです。他にベッドはありません。
「あは、ここはベッドが1つしかないんだ。でも…」
「恥ずかしい?」
「うん…」
「ふふ、10年前はこうやって仲良く寝ていたのよ」
「お母さん、明日朝山上静可が野中圭子の家を襲撃するみたい。私、予知夢見ちゃった」
「それはいいことね」
「え?」
 千可ちゃんはお母さんのあらぬ返答にびっくりしました。
「さっきも話したでしょ。私は野中雄一が許せないの。野中圭子はあいつの妹よ。あいつの血をひいてるやつは、みんな死んじゃえばいいのよ!。
 でも、あなたも山上静可に呪われてるようね。いいわ、明日決着をつけましょ。私も手伝う」
「うん…」
 千可ちゃんはちょっと納得してませんが、ここはお母さんの意志を尊重することにしました。
「ねぇ、お母さん、お母さんも寝てよ」
「うん、わかった」
 お母さんは横臥をやめ、あお向けになりました。
「おやすみなさい」


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