ここに1人の女の子がいます。羽月千可。高校1年生。と言っても、身長は140cmしかありません。おまけに髪の毛が針金のように固く,そのせいで髪の毛を伸ばすことができません。しかも身体全体が細いので、後ろ姿は小学生の男の子そのものです。ただ、胸は標準よりはるかに大きいので、前から見るとはっきり女の子と認識できます。
顔はとても美人とは言えません。ただ、ちょっとかわいいようです。いや、人によってはかなりかわいく見えるようです。ここだけの話、私はとってもかわいく見えます。
実は千可ちゃんにはちょっと…、いや、ものすごい能力があります。誰もが驚くその能力。それは…、いやいや、それはのちほどお話することとしましょう。
9月1日、夏休みが終わって最初の登校日。千可ちゃんも当然登校しました。この日はホームルームだけ。ホームルームが終わると,みんな下校の用意です。千可ちゃんも下校しようと立ち上がりましたが、その瞬間,先生が声をかけきました。
「あ~、羽月、おまえ、城島の家知ってるだろ?」
「ええ、知ってますよ」
先生は1枚の紙を千可ちゃんに手渡しました。
「これ、届けてくれないか?」
それは今日クラスのみんなに配られた連絡表です。今日城島さんは学校をお休みしたようです。城島さんはこのクラスの女の子です。
高校生は夏休みになると道を踏み外してしまうことがよくあります。先生はそれがちょっと気になってるようです。それで千可ちゃんを使うようです。ま、当の千可ちゃんはそこまでは気付いてないようですが。
ピンポ~ン。千可ちゃんが城島さんの家の呼び鈴を鳴らしました。住宅街にあるふつーの一軒家です。
ピンポ~ン。もう1回千可ちゃんが呼び鈴を鳴らしました。でも、なんの応答もありません。
「いないのかなあ~」
千可ちゃんが諦めて帰ろうとしたとき、突然呼び鈴についてるマイクロホンから声が響きました。
「誰ですか?」
どうやら城島さんのようです。ただ、なんかものすごく頼りない声です。
「羽月です。あの~,先生から連絡表を預かってきたんですけど…」
千可ちゃんが返答すると、また沈黙。千可ちゃんがちょっと心細くなったころ、ようやく玄関のドアが開きました。そのドアを開けたのは、当の城島さんです。城島さんはパジャマ姿、なんか顔面蒼白な悲惨な状況です。どうやらかなりひどい風邪を引いてるようです。
「ご、ごめんなさい、風邪を引いたんだけど、なかなか治らなくって…」
と、城島さんは突然激しく咳き込みました。
「だ、大丈夫ですか?」
しかし、城島さんの咳はかなりひどく、ついには立ってはいられなくなり、ヘタレ込んでしまいました。そのとき千可ちゃんは発見してしまいました。城島さんの髪の毛の中に目だけを出した不気味な女がいるのです。
「悪霊…」
千可ちゃんは心の中でそうつぶやきました。そう、こいつは悪霊です。城島さんは悪霊に取り憑かれてたのです。それを見た千可ちゃんは、反射的にこの悪霊を取り除くことを決意しました。
「しっかりして!」
千可ちゃんは城島さんを介抱するふりをして、城島さんの髪の毛の中にいる悪霊の頭を右手でむんずと掴みました。そのままぐーんと右手を上げると、悪霊の全身が姿を現しました。髪の毛の隙間から見えていた悪霊のサイズは小さな人形くらいでしたが、こうして見ると、160cmくらいはありそうです。
千可ちゃんはその悪霊を睨み…,と言っても、千可ちゃんはかわいいのであまり怖くはないのですが。ともかく千可ちゃん流に悪霊を睨むと、心の中で「あっち行け!」と叫び、悪霊を玄関わきの壁にぶつけました。が、悪霊はそのまま壁を通り抜けるように消えてしまいました。
「せ、咳が止まった?」
城島さんの咳が止まったようです。
「あれ、頭がずーっと重たかったのに、急に軽くなった?…」
「あはっ、よかったですね」
と、城島さんは突如千可ちゃんの両手を掴みました。
「あなたが私に取り憑いた悪霊を追い払ってくれたのね!」
「ええっ?!」
まさにその通りなのですが、千可ちゃんにしてみれば、絶対気付かれないようにやったつもりなので、これは意外です。
「私、この前幽霊が出ることで有名な廃ホテルに行ったんだけど、それからずーっと体調が悪かったから、きっと廃ホテルで悪霊に取り憑かれたんだと思うの。お払いしてもらおうと考えてたんだけど、助かったわ。
そうだ、あなた、部活は?」
「え、え~と、帰宅部ですけど…」
「じゃあ、オカルト研究会に入ってよ!」
「ええっ、オカルト研究会ですか?」
千可ちゃんは大いに困りました。実は千可ちゃんにはいろいろと制約があるのです。
「ただいま~」
千可ちゃんが自分の家に帰ってきました。こちらの家も住宅街にあるふつーの一軒家です。
千可ちゃんが居間に入ると、千可ちゃんのお母さんがテレビを見てました。お母さんは千可ちゃん同様ミニミニな身体ですが,それ以外は正反対です。顔はとても美人で,まるでたえず強烈な光波を放ってるように見えます。髪の毛はとてもさらさらで,その髪を肩甲骨のあたりまで伸ばしています。ただ,胸の方はかなり残念な膨らみ。これだけは千可ちゃんが勝ってます。
お母さんは千可ちゃんの帰宅にはあまり興味がないらしく、テレビを見たまま、おかえり~と言うだけでした。が、ふと何かに気付いたらしく、千可ちゃんにきっと振り向きました。とても怖い顔です。
「千可!!」
お母さんは突然大きな声を出しました。びくっとする千可ちゃん。お母さんは千可ちゃんのところに行くと、千可ちゃんの頬を思いっきり引っぱたきました。次の瞬間、千可ちゃんの小さな身体が無残に床に転げました。
「あなた、力を使ったわね!」
千可ちゃんは張られた頬を押さえながら、上半身だけ起こしました。
「ご、ごめんなさい…」
「いったいどうして?。あれほど使うなと言ってたのに!」
千可ちゃんは何も返答できません。
「あなたのおばあさんはね、たくさんの人の前で力を使って、世間から白い目で見られて自殺した。あなたも自殺するつもりなの?」
「そ、そんなことないよ…。今日クラスメイトに悪霊が取り憑いてたから、取り除いただけだよ」
千可ちゃんは声にならないほどの声で返答しました。お母さんははーっとため息をつきました。
「わかった。もう2度としないで。あなたの友達が悪霊に殺されても、あなたにはな~んの関係もない。これからはそう思って!」
千可ちゃんはうんとうなずきました。そしてとぼとぼと2階の部屋に消えて行きました。
お母さんはなんで千可ちゃんにつらく当たったのでしょうか?。実はちゃんとした理由があります。
お母さんのお母さん、千可ちゃんからしてみればおばあちゃんに当たる女性は、かなりの霊能力者であり、超能力者でもありました。おばあちゃんが30歳になった頃、おばあちゃんの評判をどこからか聞いたテレビ局が、おばあちゃんを無理やり生放送に引っ張り出したことがあったのです。しかし、舞い上がってしまったおばあちゃんは、カメラの前で何もできませんでした。
お母さんは当時小学校に通ってましたが、翌日小学校ではお母さんは笑い物です。お母さんは我慢できずに、最も笑っていたガキ大将に喰ってかかりました。しかし、逆に袋叩きにされてしまい、重傷。責任を感じたおばあちゃんは自殺してしまいした。
実はお母さんもかなりの霊能力者であり、超能力者でもあります。でも、おばあちゃんの自殺を見ているので、めったに力を発揮することはありません。
お母さんが今一番気になってることは、千可ちゃん。実は千可ちゃんは、お母さんやおばあちゃんをはるかに凌駕する超能力者なのです。お母さんは千可ちゃんの超能力がバレることをとても恐れています。だから力を発揮するなと、日頃からいい聞かせてるのです。
お母さんのビンタがショックだったのか、千可ちゃんは夕食の時間、ダイニングに来ることはありませんでした。翌朝もダイニングに来ることはなく、お母さんの顔を見ずに登校して行きました。ふつーのお母さんだったらこんな娘の姿を見たら少しは反省するのでしょうが、このお母さんに反省という文字はまったくないようです。
実は以前もっとひどいことがありました。千可ちゃんはかなりおませなところがあり、初体験は14歳の時に済ませてます。当時千可ちゃんはギター教室に通っており、一緒にギターを習っていた3つ年上の男の子と白昼愛の行為に及びました。しかし、その直後、家に帰ってきた千可ちゃんを見てお母さんは何発も往復ビンタを食らわしたのです。
お母さんは千可ちゃんにはない能力、人のオーラを見てその人が直前に何をやったのかわかってしまう能力があります。それで千可ちゃんの早すぎる初体験を見抜いたのです。
お母さんの怒りは往復ビンタでは済みませんでした。お母さんは即ギター教室に電話を入れ、千可ちゃんの目の前でギター教室を辞めると宣言したのです。
千可ちゃんにとってさらにきつかったのは、初体験の男の子の死。なんと、その3日後、彼は交通事故で死んでしまったのです。どう見てもお母さんの仕業です。千可ちゃんは遊びのつもりでしたが,彼の死は千可ちゃんを大きく落胆させました。で、当然のようにお母さんを呪いました。そうしたら、またお母さんに往復ビンタを食らいました。千可ちゃんに呪われたら、さすがのお母さんでもかないません。それでやめさせるために,強硬手段を使ったのです。
呪うことさえ禁じられてしまった千可ちゃんが唯一母親にできる仕返しは、母親以上の美人になること。で、毎日美人になれと祈り続けましたが、一向に美人になる気配はありませんでした。さすがの千可ちゃんでも、そこまでの能力はなかったようです。ただし、つるぺただった胸が急に膨らみ始め、今の身体になってます。
その日学校に行った千可ちゃんの表情は暗いままです。でも、昼休みに意外なものが訪れました。
「あなたが羽月さんね」
と、学食に向かおうとした千可ちゃんの前に、4人の女の子が立ちました。その中には、昨日の城島さんもいます。
「あなた、すごい霊能力持ってるんですって?」
リーダー格と思われる女の子がそう語りかけてきました。巻き毛がとてもきれいな長身の美人さんです。
「あ、あなたは?」
「オカルト研究会会長、浜崎優実」
今度は浜崎さんの右隣にいた女の子が話かけてきました。
「ねぇ、私たちの部に入って欲しいの」
追い打ちをかけるように、浜崎さんの左隣にいた女の子も話かけてきました。
「あなたみたいな霊能力者がいたら、百人力よ!」
「わ、私に霊能力なんかありませんよ!」
ちなみに、右隣にいた人は福永さん、左隣にいた人は蓑田さん。福永さんも蓑田さんも上背があるので、千可ちゃんはなんか子供みたいです。城島さんは千可ちゃんより上背がありますが、この3人の中に入るとやっぱり小さくみえます。
今度は城島さんが語りかけてきました。
「ねぇ、羽月さん、お願い。オカルト研究会に入って」
「で、でも…」
千可ちゃんは部活動に関してはお母さんに制限を設けられてません。でも、オカルト研究会となったら、きっとお母さんは怒るはずです。お母さんのビンタは強烈です。
しかし、千可ちゃんは昨日のことでちょっとグレてます。それに、ここで友達を作りたい気分もあります。
迷ってる千可ちゃんを後押しするように、城島さんが言いました。
「私たち、明日またあの廃ホテルに行くの。羽月さんも一緒に来て欲しいんだ」
なんと城島さんはせっかく千可ちゃんに除霊してもらったというのに、また廃ホテルに行くようです。そのとき、千可ちゃんの脳裏にあるビジョンが浮かびました。それは狂乱状態に陥った浜崎さんが、城島さんや福永さんや蓑田さんを鉄パイプのようなもので襲うというものです。背後の光景からしてそこは廃ホテルのようです。
「どうしたの、羽月さん」
ちょっとぼ~としてる千可ちゃんに、浜崎さんが声をかけてきました。千可ちゃんは微笑みを見せることでそれを交わそうとしましたが、ちょっとぎこちのない微笑みです。
「い、いえ、なんでもないですよ」
福永さんが1枚の紙を取り出しました。
「入部届け、もう用意してあるんだよ。羽月さんがここに名前を書いてくれたら、入部完了だよ」
ずいぶん気の早い人たちです。
「そ、それはちょっと」
千可ちゃんはさすがにこれには気分を害してしまったようです。が、逆に今度はオカルト研究会の4人がしょぼ~んとしてしまいました。その空気を読んだ千可ちゃんが、
「で、でも、その廃ホテルには一緒に行きましょう!」
千可ちゃんのその宣言に、オカルト研究会の4人は安堵しました。
「ありがとう。じゃあ、明日、朝9時に駅前にきて。約束ね!」
そういうと、4人は立ち去りました。しかし、あのビジョンはいったいなんだったのでしょうか?
顔はとても美人とは言えません。ただ、ちょっとかわいいようです。いや、人によってはかなりかわいく見えるようです。ここだけの話、私はとってもかわいく見えます。
実は千可ちゃんにはちょっと…、いや、ものすごい能力があります。誰もが驚くその能力。それは…、いやいや、それはのちほどお話することとしましょう。
9月1日、夏休みが終わって最初の登校日。千可ちゃんも当然登校しました。この日はホームルームだけ。ホームルームが終わると,みんな下校の用意です。千可ちゃんも下校しようと立ち上がりましたが、その瞬間,先生が声をかけきました。
「あ~、羽月、おまえ、城島の家知ってるだろ?」
「ええ、知ってますよ」
先生は1枚の紙を千可ちゃんに手渡しました。
「これ、届けてくれないか?」
それは今日クラスのみんなに配られた連絡表です。今日城島さんは学校をお休みしたようです。城島さんはこのクラスの女の子です。
高校生は夏休みになると道を踏み外してしまうことがよくあります。先生はそれがちょっと気になってるようです。それで千可ちゃんを使うようです。ま、当の千可ちゃんはそこまでは気付いてないようですが。
ピンポ~ン。千可ちゃんが城島さんの家の呼び鈴を鳴らしました。住宅街にあるふつーの一軒家です。
ピンポ~ン。もう1回千可ちゃんが呼び鈴を鳴らしました。でも、なんの応答もありません。
「いないのかなあ~」
千可ちゃんが諦めて帰ろうとしたとき、突然呼び鈴についてるマイクロホンから声が響きました。
「誰ですか?」
どうやら城島さんのようです。ただ、なんかものすごく頼りない声です。
「羽月です。あの~,先生から連絡表を預かってきたんですけど…」
千可ちゃんが返答すると、また沈黙。千可ちゃんがちょっと心細くなったころ、ようやく玄関のドアが開きました。そのドアを開けたのは、当の城島さんです。城島さんはパジャマ姿、なんか顔面蒼白な悲惨な状況です。どうやらかなりひどい風邪を引いてるようです。
「ご、ごめんなさい、風邪を引いたんだけど、なかなか治らなくって…」
と、城島さんは突然激しく咳き込みました。
「だ、大丈夫ですか?」
しかし、城島さんの咳はかなりひどく、ついには立ってはいられなくなり、ヘタレ込んでしまいました。そのとき千可ちゃんは発見してしまいました。城島さんの髪の毛の中に目だけを出した不気味な女がいるのです。
「悪霊…」
千可ちゃんは心の中でそうつぶやきました。そう、こいつは悪霊です。城島さんは悪霊に取り憑かれてたのです。それを見た千可ちゃんは、反射的にこの悪霊を取り除くことを決意しました。
「しっかりして!」
千可ちゃんは城島さんを介抱するふりをして、城島さんの髪の毛の中にいる悪霊の頭を右手でむんずと掴みました。そのままぐーんと右手を上げると、悪霊の全身が姿を現しました。髪の毛の隙間から見えていた悪霊のサイズは小さな人形くらいでしたが、こうして見ると、160cmくらいはありそうです。
千可ちゃんはその悪霊を睨み…,と言っても、千可ちゃんはかわいいのであまり怖くはないのですが。ともかく千可ちゃん流に悪霊を睨むと、心の中で「あっち行け!」と叫び、悪霊を玄関わきの壁にぶつけました。が、悪霊はそのまま壁を通り抜けるように消えてしまいました。
「せ、咳が止まった?」
城島さんの咳が止まったようです。
「あれ、頭がずーっと重たかったのに、急に軽くなった?…」
「あはっ、よかったですね」
と、城島さんは突如千可ちゃんの両手を掴みました。
「あなたが私に取り憑いた悪霊を追い払ってくれたのね!」
「ええっ?!」
まさにその通りなのですが、千可ちゃんにしてみれば、絶対気付かれないようにやったつもりなので、これは意外です。
「私、この前幽霊が出ることで有名な廃ホテルに行ったんだけど、それからずーっと体調が悪かったから、きっと廃ホテルで悪霊に取り憑かれたんだと思うの。お払いしてもらおうと考えてたんだけど、助かったわ。
そうだ、あなた、部活は?」
「え、え~と、帰宅部ですけど…」
「じゃあ、オカルト研究会に入ってよ!」
「ええっ、オカルト研究会ですか?」
千可ちゃんは大いに困りました。実は千可ちゃんにはいろいろと制約があるのです。
「ただいま~」
千可ちゃんが自分の家に帰ってきました。こちらの家も住宅街にあるふつーの一軒家です。
千可ちゃんが居間に入ると、千可ちゃんのお母さんがテレビを見てました。お母さんは千可ちゃん同様ミニミニな身体ですが,それ以外は正反対です。顔はとても美人で,まるでたえず強烈な光波を放ってるように見えます。髪の毛はとてもさらさらで,その髪を肩甲骨のあたりまで伸ばしています。ただ,胸の方はかなり残念な膨らみ。これだけは千可ちゃんが勝ってます。
お母さんは千可ちゃんの帰宅にはあまり興味がないらしく、テレビを見たまま、おかえり~と言うだけでした。が、ふと何かに気付いたらしく、千可ちゃんにきっと振り向きました。とても怖い顔です。
「千可!!」
お母さんは突然大きな声を出しました。びくっとする千可ちゃん。お母さんは千可ちゃんのところに行くと、千可ちゃんの頬を思いっきり引っぱたきました。次の瞬間、千可ちゃんの小さな身体が無残に床に転げました。
「あなた、力を使ったわね!」
千可ちゃんは張られた頬を押さえながら、上半身だけ起こしました。
「ご、ごめんなさい…」
「いったいどうして?。あれほど使うなと言ってたのに!」
千可ちゃんは何も返答できません。
「あなたのおばあさんはね、たくさんの人の前で力を使って、世間から白い目で見られて自殺した。あなたも自殺するつもりなの?」
「そ、そんなことないよ…。今日クラスメイトに悪霊が取り憑いてたから、取り除いただけだよ」
千可ちゃんは声にならないほどの声で返答しました。お母さんははーっとため息をつきました。
「わかった。もう2度としないで。あなたの友達が悪霊に殺されても、あなたにはな~んの関係もない。これからはそう思って!」
千可ちゃんはうんとうなずきました。そしてとぼとぼと2階の部屋に消えて行きました。
お母さんはなんで千可ちゃんにつらく当たったのでしょうか?。実はちゃんとした理由があります。
お母さんのお母さん、千可ちゃんからしてみればおばあちゃんに当たる女性は、かなりの霊能力者であり、超能力者でもありました。おばあちゃんが30歳になった頃、おばあちゃんの評判をどこからか聞いたテレビ局が、おばあちゃんを無理やり生放送に引っ張り出したことがあったのです。しかし、舞い上がってしまったおばあちゃんは、カメラの前で何もできませんでした。
お母さんは当時小学校に通ってましたが、翌日小学校ではお母さんは笑い物です。お母さんは我慢できずに、最も笑っていたガキ大将に喰ってかかりました。しかし、逆に袋叩きにされてしまい、重傷。責任を感じたおばあちゃんは自殺してしまいした。
実はお母さんもかなりの霊能力者であり、超能力者でもあります。でも、おばあちゃんの自殺を見ているので、めったに力を発揮することはありません。
お母さんが今一番気になってることは、千可ちゃん。実は千可ちゃんは、お母さんやおばあちゃんをはるかに凌駕する超能力者なのです。お母さんは千可ちゃんの超能力がバレることをとても恐れています。だから力を発揮するなと、日頃からいい聞かせてるのです。
お母さんのビンタがショックだったのか、千可ちゃんは夕食の時間、ダイニングに来ることはありませんでした。翌朝もダイニングに来ることはなく、お母さんの顔を見ずに登校して行きました。ふつーのお母さんだったらこんな娘の姿を見たら少しは反省するのでしょうが、このお母さんに反省という文字はまったくないようです。
実は以前もっとひどいことがありました。千可ちゃんはかなりおませなところがあり、初体験は14歳の時に済ませてます。当時千可ちゃんはギター教室に通っており、一緒にギターを習っていた3つ年上の男の子と白昼愛の行為に及びました。しかし、その直後、家に帰ってきた千可ちゃんを見てお母さんは何発も往復ビンタを食らわしたのです。
お母さんは千可ちゃんにはない能力、人のオーラを見てその人が直前に何をやったのかわかってしまう能力があります。それで千可ちゃんの早すぎる初体験を見抜いたのです。
お母さんの怒りは往復ビンタでは済みませんでした。お母さんは即ギター教室に電話を入れ、千可ちゃんの目の前でギター教室を辞めると宣言したのです。
千可ちゃんにとってさらにきつかったのは、初体験の男の子の死。なんと、その3日後、彼は交通事故で死んでしまったのです。どう見てもお母さんの仕業です。千可ちゃんは遊びのつもりでしたが,彼の死は千可ちゃんを大きく落胆させました。で、当然のようにお母さんを呪いました。そうしたら、またお母さんに往復ビンタを食らいました。千可ちゃんに呪われたら、さすがのお母さんでもかないません。それでやめさせるために,強硬手段を使ったのです。
呪うことさえ禁じられてしまった千可ちゃんが唯一母親にできる仕返しは、母親以上の美人になること。で、毎日美人になれと祈り続けましたが、一向に美人になる気配はありませんでした。さすがの千可ちゃんでも、そこまでの能力はなかったようです。ただし、つるぺただった胸が急に膨らみ始め、今の身体になってます。
その日学校に行った千可ちゃんの表情は暗いままです。でも、昼休みに意外なものが訪れました。
「あなたが羽月さんね」
と、学食に向かおうとした千可ちゃんの前に、4人の女の子が立ちました。その中には、昨日の城島さんもいます。
「あなた、すごい霊能力持ってるんですって?」
リーダー格と思われる女の子がそう語りかけてきました。巻き毛がとてもきれいな長身の美人さんです。
「あ、あなたは?」
「オカルト研究会会長、浜崎優実」
今度は浜崎さんの右隣にいた女の子が話かけてきました。
「ねぇ、私たちの部に入って欲しいの」
追い打ちをかけるように、浜崎さんの左隣にいた女の子も話かけてきました。
「あなたみたいな霊能力者がいたら、百人力よ!」
「わ、私に霊能力なんかありませんよ!」
ちなみに、右隣にいた人は福永さん、左隣にいた人は蓑田さん。福永さんも蓑田さんも上背があるので、千可ちゃんはなんか子供みたいです。城島さんは千可ちゃんより上背がありますが、この3人の中に入るとやっぱり小さくみえます。
今度は城島さんが語りかけてきました。
「ねぇ、羽月さん、お願い。オカルト研究会に入って」
「で、でも…」
千可ちゃんは部活動に関してはお母さんに制限を設けられてません。でも、オカルト研究会となったら、きっとお母さんは怒るはずです。お母さんのビンタは強烈です。
しかし、千可ちゃんは昨日のことでちょっとグレてます。それに、ここで友達を作りたい気分もあります。
迷ってる千可ちゃんを後押しするように、城島さんが言いました。
「私たち、明日またあの廃ホテルに行くの。羽月さんも一緒に来て欲しいんだ」
なんと城島さんはせっかく千可ちゃんに除霊してもらったというのに、また廃ホテルに行くようです。そのとき、千可ちゃんの脳裏にあるビジョンが浮かびました。それは狂乱状態に陥った浜崎さんが、城島さんや福永さんや蓑田さんを鉄パイプのようなもので襲うというものです。背後の光景からしてそこは廃ホテルのようです。
「どうしたの、羽月さん」
ちょっとぼ~としてる千可ちゃんに、浜崎さんが声をかけてきました。千可ちゃんは微笑みを見せることでそれを交わそうとしましたが、ちょっとぎこちのない微笑みです。
「い、いえ、なんでもないですよ」
福永さんが1枚の紙を取り出しました。
「入部届け、もう用意してあるんだよ。羽月さんがここに名前を書いてくれたら、入部完了だよ」
ずいぶん気の早い人たちです。
「そ、それはちょっと」
千可ちゃんはさすがにこれには気分を害してしまったようです。が、逆に今度はオカルト研究会の4人がしょぼ~んとしてしまいました。その空気を読んだ千可ちゃんが、
「で、でも、その廃ホテルには一緒に行きましょう!」
千可ちゃんのその宣言に、オカルト研究会の4人は安堵しました。
「ありがとう。じゃあ、明日、朝9時に駅前にきて。約束ね!」
そういうと、4人は立ち去りました。しかし、あのビジョンはいったいなんだったのでしょうか?
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