久保敬元校長の文書訓告取り消しを求める応援団(ガッツせんべい応援団)

久保敬さんの「文書訓告取消を求める人権侵害救済申立」を応援します!

大阪市教育委員会への要請書

2023-02-25 06:05:24 | 弁護士会への人権侵害救済申立

人権侵害救済申立 ③

2月21日、久保さんと私たちガッツせんべい応援団は、大阪弁護士会へ人権侵害救済申立書ならびに意見書を提出、大阪市教育委員会へ要請書を提出しました。その後、記者会見を開催しました。

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2023年2月21日

大阪市教育委員会

教育長 多田勝哉 

久保敬元校長の文書訓告取り消しを求める応援(略称 ガッツせんべい応援団)

共同代表 足立須香 増田純一

大阪市立小学校元校長久保敬さんの文書訓告取を求める要請書

本日、久保敬さんは、2021年8月20日付文書訓告の取り消し勧告を求める人権侵害救済申立書を大阪弁護士会に提出しました

私たちは、久保敬さんの「文書訓告取消を求める人権侵害救済申立を応援する市民団体です。2021年5月17日に当時、大阪市立木川南小学校長だった久保敬さんが市長と教育長に提出した提言書に強く共感した元大阪市の教員たちです。久保さんの提言書は、教員として校長として何ら問題はなく、むしろ、子どもや保護者のおもいに添った意義ある内容であると一般の方々からも多くの賛同の声があがりました。

久保さんを処分しないように多くの市民と共に求めました大阪市教育委員会は、同年8月20日、文書訓告を発令しました。これに対し、久保さんは、2022年1月24日文書訓告の取り消しの要望書出しましたが、大阪市教育委員会から回答ありませんでしたこれは、久保さんの教員としてのこれまでのキャリア、とりわけ、大阪市の人権教育推進に果たしてきた多大な功績を否定するものであると私たちはとらえています。

この文書訓告は、「提言書」の信用失墜行為に当たることを理由としているわけですが、大阪市教育委員会は、「信用失墜行為については一般的な基準は立てがたく、健全な社会通念にもとづいて個別に判断しており、この件については教育委員会が判断した」と認めています。(2021年12月1日大阪市会教育こども委員会での答弁)。久保敬さんの人権侵害救済申立書を読めば、提言書」が信用失墜行為にあたらないことは明らかです。

大阪市教育委員会は大阪市学校教育に対する市民の信頼を取り戻すためにも直ちに文書訓告を取り消す決断をすべきです。久保さんの「提言書」は海外の教育学者の間でも大きな共感を呼んでおり、大阪弁護士会への申立書についても広く知られるようになれば、国際的に文書訓告への批判が広がっていくことは必至といえます。早期に大阪市教育委員会自らの判断で文書訓告を取り消すことが、大阪市・大阪市教育委員会にとっても、私たち市民にとっても、必要であり重要であることを申し添えておきます。

要請項目

大阪市教育委員会が2021年8月20日付で大阪市立小学校校長(当時)久保敬さんに対して発出した文書訓告を取り消すこと

 


人権侵害救済申立 意見書

2023-02-25 05:59:35 | 弁護士会への人権侵害救済申立

人権侵害救済申立 ②

2月21日、久保さんと私たちガッツせんべい応援団は、大阪弁護士会へ人権侵害救済申立書ならびに意見書を提出、大阪市教育委員会へ要請書を提出しました。その後、記者会見を開催しました。

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昨日おこないました久保敬氏の「人権侵害救済申立書」について、私からの意見書も一緒に提出していただきました。以下に全文掲載いたします。報道のみでは断片的にならざるを得ないかと思いますので、趣旨を正確にお伝えさせてください。長文になりますが、要は、仮想敵をつくりたいのではなく政策の誤りを自ら正せる教育行政であってほしいということと、子どもが生き生きとできる学校であるためには教職員自らが生き生きできる教育行政が必要であることを願って書きました。

(以下、意見書全文)
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久保敬氏「人権侵害救済申立書」についての意見書

 大阪市立木川南小学校の元校長・久保敬氏が、大阪市長と市教育長に対して提言書を送付し大阪市教育委員会から訓告をうけたことにつき、「人権侵害救済申立書」が提出されるに至りました。この件について、教育学研究者という立場から意見書を提出します。
 久保氏の「提言書」は、その内容への共感や支持がSNS等を介して拡がり、地方自治体や教育委員会だけでなく、文部科学大臣にも波及しました。様々な市民団体が大阪市や教育行政当局に対して、久保氏を処分しないよう求める要望書を提出し、訓告が出された後には撤回を求める要望書が提出されています。
 さらにこの問題は、国内のみとどまらず、海外の教育学者も重大事案と認識し、社会に与える影響の深刻さに鑑みて、インターネットにメッセージ動画を発表しています。(YouTube動画:”School Education for/as Human Rights: To Conclude Kubo-sensei's 37-years Teaching Career”[久保校長ご退職に寄せて] https://www.youtube.com/watch?v=KbdefwHnzso&t=54s
 大阪市の松井一郎市長は当初会見で強い不快感を示されましたが、それでも表現の自由があることや教職員の人事権が市長にはないこと等を説明され、処分を求める意思もないと言明されていました。しかし、大阪市教育委員会は、2021年7月27日の第12回教育委員会会議において「訓告」を決定するに至りました。
 「大阪市教育委員会第12回教育委員会会議議事録」では、久保氏が提言書を突然送付したのではなく、以前から複数の方法で教育行政や一般行政とのやりとりを試みてきたことが確認されています。くわえて、実際の学校運営では市の方針をふまえて行われており、提言書はあくまでも意見として表明されたものであることも確認されています。にもかかわらず、教育委員会がなお「訓告」の判断に至ったことは、深刻な問題と言わざるをえません。
 提言書の第一報をうけた2021年5月25日には文部科学大臣会見でも言及がなされていますが、文部科学大臣からは、校長が首長に意見を出すこと自体は悪いことではなく、教育政策はそうした声にも耳を傾けながら行われるべき、との見解が示されています。
 久保氏が、実際には市の方針に反することなく学校教育に尽力しつつ、教育現場の最前線を預かる校長としての知見から提言書で意見を表明したことの何が問題なのでしょうか。そもそも、提言書に先立って何度も教育行政や一般行政に意見具申が本人からなされてきたのであり、それに対する意味ある応答が何らなされてこなかったことは問題ではないのでしょうか。提言書は、市長と教育長の双方へ送られており、手続きとしても妥当なものでした。
 この提言書の内容をめぐっては、社会から大きな反響があり、教育現場の声を社会の人々が知る機会を提供することにもなりました。久保氏の提言は、守秘義務に反したり信用失墜行為にあたるようなものではありえません。それどころか、学校が真摯に子どもの教育に向き合う状況を社会に伝えるものとなり、子どもが育つ学校のあり方を社会全体で考える機会を提供しました。それまでの行政上の応答責任を問わずに、意見を表明した校長が訓告に処されたことは、著しく正当性を欠き、このことこそが教育行政への信頼を失墜させているのではないでしょうか。
 2022年1月24日に久保氏は教育長宛に訓告の取り消しを求める文書を送付していますが、それに対する応答は今日に至るまでなされていません。教育行政の応答責任は問われなくて良いのでしょうか。久保氏の「人権侵害救済申立書」にあるように、訓告には異議申し立ての機会が与えられないとする教育委員会の対応も、常軌を逸しています。不名誉な事実上の処分であるにもかかわらず、異議申し立ての機会が与えられないのであれば、人事権が濫用されても教職員の側は泣き寝入りするしかありません。そのような状況が罷り通るならば、本来学校現場を指導・助言・援助するはずの教育行政が逆に学校を委縮させるばかりになってしまいます。
 訓告に示されている事由は、久保氏の提言書についての大阪市教育委員会の解釈が述べられていますが、それは文意全体をふまえない処分ありきの曲解となっています。元来、教育委員会制度は、民衆統制と専門的リーダーシップの調和に拠って立ち、政治的党派性からも距離をおいた教育行政の相対的な自律性が与えられた行政委員会とされています。首長や地方議会、学校現場の教職員、市民などの間で教育をめぐる葛藤が顕在化した場合こそ、教育委員会はその自律性を発揮することが求められます。コロナ禍では社会全体が混乱を極め、そうした葛藤が先鋭化しました。久保氏の提言書は、休校と学校再開による深刻な影響が出たパンデミック1年目の経験をふまえて出されたものでした。そのような学校現場の専門的な判断がないがしろにされ、逆に、意見を表明すること自体が処分対象になるという事態は、もはや教育の行政という名に値しないのではないでしょうか。
 奇しくも、久保氏の提言書はインターネットを通じて世界の教育学者にも読まれるところとなりました。訓告への問題意識が、アメリカ、ドイツ、インドネシア、キプロス、キューバ、ブルガリアの教育学者にも共有され、上述のメッセージ動画で実名を挙げてメッセージが寄せられました。この動画がインターネットで公開されているのは、久保氏の37年間にわたる教職人生が訓告をもって閉じられる不条理に抗するためですが、それと同時に、教職離れをますます深刻化させ将来に禍根を残すことを看過できないためです。なお、2022年5月14日には上記の海外研究者らにさらに2名が加わる形で久保氏への感謝状が贈呈されました。世界的にも表彰に値する功績が、教育行政からは罰せられるという現実は皮肉なものです。
 提言書から今回の「人権侵害救済申立書」に至るまで、久保氏は自身の権利侵害よりも子どもの発達環境への侵害を問題にしてきました。提言書を出すという行為は、校長にとってはリスクなのであり、それをあえて退職年に行ったのは、後世に禍根を残すような教育を看過できなかったからに他なりません。自律的な人間を育てる学校は、みずからが自律的でなければならないはずです。管理されただけの学校であれば、子どもの自律への教育を期待することはできないでしょう。
 教育行政といえどもときに誤りを犯してしまうことはありえます。重要なのは、誤りを素直に認め、軌道修正する姿勢を示すことです。教育委員会を敵視することが本意見書の目的ではありません。教育行政の内部にも多くの良識的な職員がおられることも承知しています。教育委員会の民衆統制と専門的リーダーシップの調和が機能しているのかを自省され、今回の訓告という誤った決定がなぜ審議の途上で是正されなかったのかが熟慮され、今後の教育行政に生かされてほしいと願っています。
 制度や文化を異にする外国からも共感を集めたのは、提言書による問題提起がローカルな問題にとどまらず、グローバルな問題でもあったからです。世界の教育が、競争主義や成果主義の政治に晒される中で、学校現場を預かる専門職として「何のため/誰のための教育か?」という根源的な問いを世界に惹起した功績は特筆されるべきです。世界から共感を集める教育者を大阪市の公立学校が擁してきたことは、実は誇るべきことなのです。そうであるならば、教育行政が軌道修正し子どもの教育を正常化させる姿勢も、世界に示してほしいと願うところです。教育委員会が君子豹変の姿勢をもって信頼回復に努めることは、学校はもとより、教育行政の内部で日々奮闘している心ある職員にとっても、大いに励みとなるはずです。

2023年2月4日
大阪公立大学・准教授
辻野けんま


人権侵害救済申立 申立書

2023-02-25 05:52:09 | 弁護士会への人権侵害救済申立

人権侵害救済申立 ①

2月21日、久保さんと私たちガッツせんべい応援団は、大阪弁護士会へ人権侵害救済申立書ならびに意見書を提出、大阪市教育委員会へ要請書を提出しました。その後、記者会見を開催しました。

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人権侵害救済申立書

申立人 久保敬

相手方 大阪市教育委員会

申立の趣旨

私は、20223月末日を以て定年退職した大阪市立木川南小学校の前校長です。

2021517日、松井一郎大阪市長、山本晋次教育長宛に「提言書」(資料1)を郵送で送付しました。新型コロナ直接の感染拡大による緊急事態宣言を受けてのオンライン学習を含む対応に疑問を抱いたからです。

その「提言書」がインターネットで広がり、話題となったことに端を発し、2021820日、信用失墜行為があったとして教育委員会より「文書訓告」(資料2)を受けることになりました。

文書訓告を受ける際、この決定について人事委員会に異議申し立てができるかどうかを尋ねたところ、「これは、給与など実質的な不利益があるような懲戒処分ではないので、そのような対象のものではない」との教育委員会の返答でした。

その後、文書訓告撤回の陳情が出されたことにより、市議会でもこの問題が論議され、「重大な事実誤認等があれば、文書訓告でも取り消しが可能」との人事室の答弁があったことを知り、2022124日付で、山本晋次教育長に対して、文書訓告取り消しを求める要望書(資料3)を提出しました。しかし、それに対する直接の回答は、口頭でも文書でもいただくことなく、今に至っております。

「文書訓告」では、「教育員会の対応について、その決定過程や他校の状況等を斟酌することなく、独自の意見に基づき、」云々と、私一人の誤った意見と見なし、問題にしていますが、社会の反応は異なるものでした。

退職教員有志によって、3000人弱の「提言書」に賛同する署名(資料4)が、ショートメールによって集められました。また、自由法曹団大阪支部、民主法律協会をはじめ、様々な市民団体等から異議を申し立てる「要望書」が教育員会に提出されています。

20217月には、名田正廣大阪市立港中学校長が、255人の教員、保護者、市民の意見書とともに、賛同の意を示す提言(資料5)を教育委員会に対して行っておられます。

保護者団体や自由民主党・市民クラブ大阪市議団が行ったアンケート調査でも、オンライン授業による変則登校という教育委員会の対応が問題であったことを指摘する声が多く寄せられていました。

文書訓告が出された後も、様々な市民団体などから、「文書訓告処分撤回」の要望書が出されています。また、文書訓告を公表した大阪市ホームページには、処分の不当性を訴えた抗議のメール180通(資料6)が寄せられていたことが、開示請求によって明らかになっています。

このような社会の反応を考えた時、「独自の意見」と断じ、「信用失墜行為があった」と結論付けた教育委員会の決定に納得することはできません。事実を曲解した教育委員会の決定に納得することはできません。事実を曲解した教育委員会による根拠のない勝手な判断であると言わざるを得ません。

懲戒処分でなくても、「文書訓告」という行政措置処分を受けた校長として、社会に公表されたままです。それによって、傷つけられた人格を回復するために、文書訓告の取り消しを求めます。

また、インターネット上で広がったとしても、守秘義務に反するようなことを述べたわけではありませんし、そもそも自由に意見を述べることは、憲法で保障された基本的人権であり、独自の意見を述べたという理由で処分を受けるのであれは、私個人の問題ではなく、すべての人に関わる人権侵害として、看過できない問題だと考えます。

ますます何も言えない硬直した学校組織となり、子どもたちの教育環境にも大きなマイナスを及ぼすことになるにちがいありません。学校教育の未来のためにも、「文書訓告」を受け容れることはできないと考えます。

多くの保護者、市民の方々が私とともに声をあげてくださいました。私が「文書訓告」に異議を申し立てず、そのまま放置してしまうことは、一緒に声をあげてくださった多くの方々の人権を侵害されたままに放置することと同じであり、許されることではありません。

よって、教育委員会に対し、今回の「文書訓告」の取り消しを求めます。

尚、提言書をめぐって海外の教育研究者の方々とのジョイントセミナーを4回にわたって企画してくださった大阪公立大学の辻野けんま准教授の本件に関する「意見書」を申立書と共に提出いたします。ご審議、よろしくお願いします。

今申立書に以下の資料を添付します。

・【資料1】大阪市教育行政への提言(2021.5.17)  

・【資料2】文書訓告(2021.8.20)

・【資料3】文書訓告取り消しの要望書(2022.1.14

・【資料4】賛同署名名簿(20216.)  

・【資料5】港中学校名田校長の「大阪市教育:への提言と255人の意見書

・【資料6】文書訓告措置の発表に対して市教委にメールで寄せられた意見の一覧

 

 


久保提言以降〜現職中学校長と255名の意見書

2023-02-18 14:29:31 | 提言その後

現職大阪市立中学校長の「大阪市教育への提言」

2021年5月17日木川南小学校久保敬校長(当時)が松井大阪市長へ提言を出されて以来、大阪から、また全国から、次々と久保敬さんを応援する動きがありました。

2021年7月7日には現職大阪市立中学校長が「大阪市教育への提言」を出されました!!これは、大阪の教員・元教員・保護者・市民による大阪の教育提言第2弾とも言えるものでした。しかも、そこには225名の意見書も添えられていました。それが本日公文書公開によって明らかになりました!!

冒頭の「大阪市教育への提言」には、大阪市立中学の校長先生ならではの思いが満ち溢れていました。このままいけば大阪の教育は取り返しのつかないことになるのではないかとの危機感です。問題提起は具体的であり、教育長宛になっていますが、松井市長に対する批判も臆するところなく展開されています。そして、それを松井市長に伝えることも求めておられます。

これらの提言を活かしていくのは、大阪の行政であり、そして私たち「市民』の役目だと思います。大阪の教育は変わります!いや私たちの手で変えていこうではありませんか!!

◆大阪市立中学校校長と研究者・教職員・保護者・市民255人 大阪市への提言書 大阪市立港中学校校長の名田正廣先生による「大阪市教育への提言書」と255人 の現職教職員・保護者・退職教員・市民らからの提言書です。 同提言書は市教委によって正式に受理され、個人情報等チェックの上、2021 年8月6日に情報公開されました。

http://eduosk.cocolog-nifty.com/blog/2021/08/post-b37da6.html

 

 


大阪市教育行政への提言 豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために

2023-02-16 16:11:04 | 提言

2021.5.17提言

大阪市長 松井一郎 様

大阪市教育行政への提言 豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために

子どもたちが豊かな未来を幸せに生きていくために、公教育はどうあるべきか真剣に考える 時が来ている。

学校は、グローバル経済を支える人材という「商品」を作り出す工場と化している。そこでは、 子どもたちは、テストの点によって選別される「競争」に晒される。そして、教職員は、子ども の成長にかかわる教育の本質に根ざした働きができず、喜びのない何のためかわからないよう な仕事に追われ、疲弊していく。さらには、やりがいや使命感を奪われ、働くことへの意欲さえ 失いつつある。

今、価値の転換を図らなければ、教育の世界に未来はないのではないかとの思いが胸をよぎる。 持続可能な学校にするために、本当に大切なことだけを行う必要がある。特別な事業は要らない。 学校の規模や状況に応じて均等に予算と人を分配すればよい。特別なことをやめれば、評価のた めの評価や、効果検証のための報告書やアンケートも必要なくなるはずだ。全国学力・学習状況 調査も学力経年調査もその結果を分析した膨大な資料も要らない。それぞれの子どもたちが自 ら「学び」に向かうためにどのような支援をすればいいかは、毎日、一緒に学習していればわか る話である。

現在の「運営に関する計画」も、学校協議会も手続き的なことに時間と労力がかかるばかりで、 学校教育をよりよくしていくために、大きな効果をもたらすものではない。地域や保護者と共に 教育を進めていくもっとよりよい形があるはずだ。目標管理シートによる人事評価制度も、教職 員のやる気を喚起し、教育を活性化するものとしては機能していない。

また、コロナ禍により前倒しになったGIGAスクール構想に伴う一人一台端末の配備につ いても、通信環境の整備等十分に練られることないまま場当たり的な計画で進められており、学 校現場では今後の進展に危惧していた。3回目の緊急事態宣言発出に伴って、大阪市長が全小中 学校でオンライン授業を行うとしたことを発端に、そのお粗末な状況が露呈したわけだが、その 結果、学校現場は混乱を極め、何より保護者や児童生徒に大きな負担がかかっている。結局、子 どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出していることに、胸をかき むしられる思いである。

つまり、本当に子どもの幸せな成長を願って、子どもの人権を尊重し「最善の利益」を考えた 社会ではないことが、コロナ禍になってはっきりと可視化されてきたと言えるのではないだろ うか。社会の課題のしわ寄せが、どんどん子どもや学校に襲いかかっている。虐待も不登校もい じめも増えるばかりである。10 代の自殺も増えており、コロナ禍の現在、中高生の女子の自殺 は急増している。これほどまでに、子どもたちを生き辛くさせているものは、何であるのか。私 たち大人は、そのことに真剣に向き合わなければならない。

グローバル化により激変する予測困 難な社会を生き抜く力をつけなければならないと言うが、そんな社会自体が間違っているので はないのか。過度な競争を強いて、競争に打ち勝った者だけが「がんばった人間」として評価さ れる、そんな理不尽な社会であっていいのか。誰もが幸せに生きる権利を持っており、社会は自由で公正・公平でなければならないはずだ。 「生き抜く」世の中ではなく、「生き合う」世の中でなくてはならない。そうでなければ、このコロナ禍にも、地球温暖化にも対応することができないにちがいない。世界の人々が連帯して、 この地球規模の危機を乗り越えるために必要な力は、学力経年調査の平均点を 1 点あげること とは無関係である。全市共通目標が、いかに虚しく、わたしたちの教育への情熱を萎えさせるも のか、想像していただきたい。

子どもたちと一緒に学んだり、遊んだりする時間を楽しみたい。子どもたちに直接かかわる仕 事がしたいのだ。子どもたちに働きかけた結果は、数値による効果検証などではなく、子どもの 反応として、直接肌で感じたいのだ。1 点・2 点を追い求めるのではなく、子どもたちの 5 年先、 10 年先を見据えて、今という時間を共に過ごしたいのだ。テストの点数というエビデンスはそ れほど正しいものなのか。
あらゆるものを数値化して評価することで、人と人との信頼や信用をズタズタにし、温かなつ ながりを奪っただけではないのか。

間違いなく、教職員、学校は疲弊しているし、教育の質は低下している。誰もそんなことを望 んではいないはずだ。誰もが一生懸命働き、人の役に立って、幸せな人生を送りたいと願ってい る。その当たり前の願いを育み、自己実現できるよう支援していくのが学校でなければならない。 「競争」ではなく「協働」の社会でなければ、持続可能な社会にはならない。

コロナ禍の今、本当に子どもたちの安心・安全と学びをどのように保障していくかは、難しい 問題である。オンライン学習など ICT 機器を使った学習も教育の手段としては有効なものであ るだろう。しかし、それが子どもの「いのち」(人権)に光が当たっていなければ、結局は子ど もたちをさらに追い詰め、苦しめることになるのではないだろうか。今回のオンライン授業に関 する現場の混乱は、大人の都合による勝手な判断によるものである。

根本的な教育の在り方、いや政治や社会の在り方を見直し、子どもたちの未来に明るい光を見 出したいと切に願うものである。これは、子どもの問題ではなく、まさしく大人の問題であり、 政治的権力を持つ立場にある人にはその大きな責任が課せられているのではないだろうか。


令和3(2021)年5月 17 日 大阪市立木川南小学校
校 長 久保 敬